随分寝てしまった。頭がズキズキする。柊さんは…?私は辺りを見渡し軽くあくびをした。少し、殺害衝動が戻ってきたような感覚がする。手が震えて致し方ない不安定な月明かりが私の影を照らした。右の方に結んでいた髪を解いて窓を開けた。涼しい風が髪を揺らしている。着ている白い装束が光と反応してキラキラと輝いている。満点の星空と吸い込まれそうな漆黒の蒼空は見ていてとても安心する。私は急いでここから出ようとした。だが、扉の前で誰かの吐息が聞こえた。柊だ、柊が静かに横たわっている。死んじゃったのかな?と、私は魔が差し一回だけ出来心で持っていた銃を天井に向けて発砲した。ばんっ、という音の後で目つきの悪い男性が私の銃を持っていた方の手首を掴んでいた。「んな…?!お前、?!何様のつもりだ!俺の事叩いたりして起こせばいいだろ!何故、発砲する必要性があると考えた!!」答えは簡単だ。「……?時間の無駄だから。」「んなっっ!?」わざわざもう一度しゃがんで叩いたり話しかけるより轟音を目の前に聴かせてあげる方がよっぽど効率の良い起こし方だ。そもそも、私が発砲してもさほど危険では無い。何故、柊はそんなに焦ってかっかしているのだろうか。私を敵対視した?”無感情に殺めそして淡々と命を奪いなさい”何よ…今更感情について考えたって何も分からない。これまで殺害衝動に駆られて本能のままに人を殺め続けた代償として相応しいじゃないか。「お前のそのポーカーフェイスは、素なのか?」「分からない。」柊の瞳に月が映って私は窓の外の景色と照らし合わせた。よく見ると柊は深緑の瞳をしている。自然で溢れた新緑を思い出される。だが本でしか読んだことがない為、本当に新緑かどうかは分からない。 すると急に柊は片足を窓に乗っけて「今日も月が綺麗だな…この街は、狂っているはずなのに月や星空が普通に見えてうっとりとできる時間がある。不思議だな…」と、物思いに耽っていると初めて本当の笑顔を見せた。柊は窓から離れて黙って銃を取り出した。次の瞬間、月に向かって発砲した。私は離れて直ぐ、手元に持っている銃を柊に向けた。いま、引き金を引けば柊を綺麗な状態で殺す事が出来る。殺したい…血を浴びたい…誰か止めて!私はすんでのところを菊池らしき人に止められた。だが、髪の毛が長かったりと目付きが柔らかい部分が違う。「お前は誰だ。小さき少女がそのような物騒なことをするな。殺人衝動は依頼が来てから勝手に晴らしてください。柊殿もまた、健康診断受けたいんですか?」「小さき少女では無い!こいつは愛っていう女の子だ!てか、茜!お前こそ何様だ!」「はぁ?愛殿か、母親とは全く似つかわしく思わないがね。もっと感情をむき出しにして話をすれば少しは面影が芽生えるとは思うのだが。」茜という人は嗄れ声を出しながら私に向かって咎めた。寒そう震えながら茜は窓を閉めた。「そういえば、もう就寝時間はとうに過ぎているのだ柊殿…愛殿を早く寝かしつけなされ」「はぁ?何で俺が……!」「いや、なら菊池に聞くのだな。」と呆れられた柊は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。私は柊の背中をトントンと叩いて「行こう」と示してみたが、それでも行こうとしないから私一人で出ようとする素振りを見せると仕方がなさそうにとぼとぼついてきた。柊の持っているナイフが拭かれた形跡があった。以外に綺麗好きだったりするのかなとナイフを見て微笑ましく思っていると柊は怒ったかのようにナイフを袖に隠した。私と同じだ。実際は自分にかすり傷が出来ても気にしない人なのだろう。私のナイフは叶様から貰っていないのだとしたら、刃こぼれも多くて一見すると切れないかもしれない。だが、刃こぼれしている割には心臓にまで届いた。料理をする時もこれさえあればもう困ることは無いと勝手に思っている。柊を殺すことに躊躇いを持ったのは違和感があった。私にも自我って見つけられるのかな。 すると、急に柊が立ち止まった。「俺を殺し損ねてどうだ?何かお前の中で動いたか?」急になんだ。私に殺されても構わないという表情をしている。私達は自殺してはいけない。誰かに殺してもらうか、病気になる他ないのだ。死ぬ権利だけは絶対に認められないんだ。「分からない。…そんなに、死にたいの?」と、私は聞いてみた。すると柊はニカッと笑って口を開いた。「そうだよ…ちいせぇ頃からここに居てもう、うんざりなんだ。殺しても殺しても…満たされないんだよ。」そうか、私と同じ境遇で同じ状況でこのイカれた宗教に来たんだ。でも、茜という人は死ぬのを許さないという。茜って人はきっと、ここの最重要医療従事者なのだろう。怪我の治療や、就寝の時間を注意したり促したりするのは恐らくそこ関係の責任を受け持っているから。そう考えると、柊は本当に何も無い殺人鬼だということが明白だ。 私達は就寝室とプレートに彫られてある部屋に着いた。中は、思ったより綺麗で花の刺繍がされてあったり、天井に星のスッテカーが貼られてあったりと私の心を豊かにしてくれそうなモノが沢山あった。だが、そんなモノは眼中にも収まらない。私が注目したのは中心にある大きな窓だ。窓の外の景色に私の薄い感情をそそる。「星……見える。」「見えて当たり前だ。この蒼空は広いんだからな。地球上で見えねぇところはねぇんだよ。」「蒼空がない所もあって、夜も無い場所もあるよ」すると柊は驚いたように目を丸くした。「そんなとこあんのか!?お前…さては、勉強は真面目にしてきた方って事か…」「……?勉強とかしなくても幼い頃に父から教えてもらっただけ、勉強する暇なんて貰えない。」「そうなのか、あぁ“もう寝るぞ。俺が怒られるからな。」と言って柊はベッドに潜って五分経たないうちに寝てしまった。私は、部屋を出た。理由は簡単、茜という人に聞く為だ。そういう身の回りの状況を理解している人はきっと、”生け贄”をわかると思った。だが、”生け贄”を名称でなく役割でもないという事が分かった。「生け贄制度というのがあってな、愛殿は純生け贄候補だということだ。我の治療も全く平等でなく生け贄と呼ばれる人に利益があるものが多々ある。我としても生け贄と濁すのではなく普通に”生き残った者”と言うべきなんだがね。」そうか、母が追放者に追放され私がここに残ったもしくは気に入られたから生け贄と呼ばれたのか。生き残った者と言わないのは追放された人に人権を取り戻させるため。それでも、生け贄制度というものは一種の人格差別だ。「生き残った…者?私は殺人鬼?」「まあ…分からぬこともまた人生。愛殿、知りたかった事は明かされたか?愛殿は子供だが子供じゃないようだな。」と、言って私の頭を軽く撫でた。 こうして今日の夜は終わった。私の意識は柊がいた部屋で暗転していった。
読みにくいですか?(´;ω;`)
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一応ここで一章です。