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「…うっす」

「あれぇ!?こっちにいんの珍し!引きこもりやめたんすか?」

『こちら側』に来てすぐ目当ての人物(人ではないが)にタイミング良く出会えたため声をかける。この暗い雰囲気に似合わない新緑を頭に、それだけでも目立つというのに他より頭1つ分抜けている長身は大変見つけやすい。

「引きこもり言うなし。…ちょっと、ちゃんとアイツらと話し合わなくちゃいけないことが起きちゃってね」

「アイツらって…あぁ、あんたの運営さん達ね」

「俺のじゃないし…まぁ、てことで送迎頼めん?ぐちつぼ」

「対価は?」

「はぁ!?久々に会った恩師から金とんのお前ェ!?」

「恩師って自分で言うな。いやまぁ金じゃなくてもいっすけど」

ふむ、と一応考えるふりをする。考えた所で彼に提供できるものが少ない自分が払えるものなど決まっているのだけれど。

「……全力で戦ったげる、ど?」

「乗った!!」











「あ、桜」

2階の窓から彩られた街を眺めていると、自分の鼻の上に桜の花びらが舞い降りた。それをつまみ、また舞わせてやる。

…あれからどのくらい経っただろうか。らっだぁと寒いと言い合っていたあの頃から打って変わって、もう薄着でも1日いられるくらい暖かくなってしまった。

ともさんによると定期的に俺ん家の結界は張り直されているらしいが、彼が俺の前に姿を現すことはない。らっだぁという友人を失った俺は毎日家でゴロゴロして、1日を浪費している。彼と出会う前はどうやって過ごしていたんだっけ。俺のことをニートだと思ったそこのお前、断じて違うからな。らっだぁが来るかもしれないという一縷の希望に賭けて家にいるのであって、外に出たくないだとか体を動かしたくないとかでは無い!

「…一体誰に話しかけてるんですか」

「あ、しにがみくん。おかえり〜、どこ行ってたの?」

「ふふん、聞いて喜びなさい!漁師さんが規格外の売れないエビ分けてくれたんですよ、今夜はエビフライです」

「うわぁマジで!?やったぁ!」

俺が笑顔を作ると、しにがみくんはほっと息をついてキッチンへと向かった。俺が遊びに行かなくなってからこういうことが増えた気がする。多分俺に気を使ってくれているんだろう、そんな無理に俺の好きな物用意してくれなくたって俺は元気なのに。ただ少し心に豆粒くらいの穴が空いた気分。

「キュ」

「えっ」

窓の方から、聞こえた。いや、聞き間違い?ん〜でもあれはどう考えたってラタミの…

「おい聞こえただろ、早く開けろよ!」

「うわぁぁ!!ほんとに誰!?」

「はぁ?お前のこと守ってやったのに忘れたんかワレェ!!」

「げんぴょん、あの時お前青い球体だったからわかんねぇよ?」

「あ、そうだったわ」

「ははは」

「ははは」

突然現れたバニーボーイ姿の変態と、赤いマフラーの良く似合う少女(?)。見知らぬ人すぎるが、どうやら彼らは俺の事を知っているらしい。…俺の事を守ってやった?あの時は青い球体だった?守られたといえば…

「翡翠のあいつのとき…?」

「そ!みどりくんのとき!思い出した?俺の勇姿」

「いやっ、でも…じゃあ君はラタミってこと…?」

「そうとも言えるし違うとも言える。まぁ元ラタミと言っておこうか?」

元ラタミ…?ラタミから進化したとか?確かに今の彼らはラタミとは似ても似つかない姿ではあるけど…

「おれらはらっだぁのラタミとして存在してたけど、問題行動し過ぎてらっだぁに見捨てられちった。…って言うと言い方悪いか、らっだぁから独立したって感じ?」

「独立…」

「そう、俺とたらこ以外にも後3人くらいいる。今日はその1人、ぐちつぼから任務を受けてお前を送迎させて頂くんだよ」

たくさんの登場人物が出てきたが誰もわからない。多分この赤マフラーがたらこさん…?で、ぐちつぼは誰!?

「あ、え?送迎…って、どこに?」

「それは…まぁ、知らなくても良いの!」

さっさと行くぞ!とパーカーのフードを掴まれ窓の外へ引っ張り出される。

「待ってせめて家族に説明をーー!?!?」

「らっだぁの元へレッツゴー!!」

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