第肆章 『絆』
罪夢と龍鬼が連れ去られた同日、深夜2時。不死家にて。泣き叫ぶ猫又の目の前にもう1つのゲート、『神道 』が現れ吉夢や凶夢達は戦闘態勢に入る。
「次は誰だよ!」
「もう次はないはずだけど!」
吉夢と凶夢は神力を解放し相手が神道から出てくるのを待ち構える。
「この子に死刑所を潜入してもらう。そして息子らを導かせる。そしてこの騒動を終わらせよう。」神道から少しずつ姿を現す2人の人物の姿を見て猫又一同は驚きを隠せなかった。
「貴方は…。」
《牢獄》
ドスン、ドスン、ジャラ、ジャラ、ジャラ
重たい足音と共に鉄製の鎖の音が静寂をかき消す。赤崎 剛の左肩に龍鬼を担ぎ、右肩に罪夢を担いでいた。数十歩進んだ先には誰も入っていない檻があり、罪夢と龍鬼はその檻の中に投げ入れられた。
「恐るべき回復力。さすがは龍神だと言った方が正しいな。あのお方達の言う通り、若き龍神の子らは摘むべきである。」罪夢と龍鬼のボロボロだった肉体は再生しつつあるがまだ切り刻まれた皮膚は再生しきれていなかった。
剛はその神力の底力を恐れ、ゆっくりと来た道を戻った。
神道から出てきたのは細身で白髪、顔には目が描かれている少年の姿があった。見る限りその少年たった一人だけの参戦らしい。
少年は恐る恐る牢屋を怯えながら進んでいく。目を凝らし、暗闇をゆっくりと進んでいく。
すると、
ジャラジャラジャラ。
鉄製の鎖の音が辺りを掻き鳴らす。
音のなる方向へと足を進めるとそこの部屋には罪夢と龍鬼がいた。その姿は傷だらけだったがもう完治する直前でその場に座り込んでいた。
「罪夢さん!!龍鬼さん!!ここにいたんだね!!」
「その声は死鬼(しき)!!」
「お前ら、静かにしろ。またアイツが戻ってきたら」
そう、少年の名前は死鬼。この子の過去は誰も分からない…いや、罪夢以外は。
「死鬼、お前、ここの扉を開けてくれ。」
「うん!わかった!」
死鬼は神力を扉の鍵穴に集中させ、解除した。
死鬼は死罪や剛にバレないようそっと扉を開け南京錠も解除した。
「鍵は全て解除したよ?次に何か計画あるの?」
「計画か、」
「計画ならあるぜ。あいつらは二人で同じ部屋にいるはずだ。」罪夢は自慢するように計画を話し始めた。
「そうか。」
「えぇ、そのまま逃げるとか?」
「いや、」
「「ぶっ飛ばす。」」死鬼の想像してたイメージとは違く、その真逆の物を二人は計画していた。
【死刑所】
白い部屋。そこにはギロチンや首吊り台、電気椅子、大きな斧など様々なものが並べられていた。そう。私たちが今、眺めている景色。ここが罪夢、龍鬼の死刑を行う場所なのだ。
剛は死刑所の扉を開け中へ入った。
死罪は死刑執行を高くから眺めるように造られた、20段もある階段の上に玉座があり、死罪はそこに座っていた。
「死罪様。死刑囚どもを牢屋にぶち込んできました。」
「うむ、よくやった。だがそれは失敗に終わったそうじゃな。」
「なんのことで、」
「炎龍ノ極」
「はっ、お前は、」
「炎ノ遊戯(えんのゆうぎ)」
剛は技を発動する前に避けるが、その後を炎が猛スピードで追い回す。
「主ら、完全に傷が癒えたか。仕方がない。直ちに死刑執行を行う。」
「させるかよ!雷龍ノ極 迅(じん)!」
龍鬼が放つ秒速の拳は死罪のみぞおちに入った。
「かはっ、龍、神ごときが、死ノ神に勝てると思うなぁ!!死ノ極 縄(じょう)」
罪夢や龍鬼の首をジワジワと何かが閉める。
「あっ、あぁ、かはっ、はァァ」
「かっ、あぁ、」
首を見てみると透明の縄らしきものが首をギッチリと閉めている。
「やめてよ。ねぇ、嫌だよ。僕の仲間を返してよ。ここで別れたくないよ。」罪夢達が苦しむ一方、死鬼はそれを見ることしかなかった。
「僕が強かったら、僕が強かったら!!お前を殺す!!」
紫のオーラが死鬼を包み、右の頭から角、右頬には鱗が生えてきた。
「こっ、これはぁ!」
「やはり凄まじい強さだな。龍神。」死罪の瞳には煌めきが止まらなかった。
「がぁぁぁぁぁ…うがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
罪夢と龍鬼の首の縄が少しずつ緩まっていく。罪夢はそのことに気づき、死鬼の方を見ると仮面が崩れ素顔があらわになった。紫色の炎のように逆だっている髪に赤眼。白色の浴衣から紫色へと色が変貌する。頬には紫色の龍の鱗。左の頭には紫色の龍の角。元の特徴から考えるに赤崎家とはまた別の存在。
「こ、これは龍神の力。」
「この特徴は、新羅家か。赤崎家から派生した一家。赤崎家とは昔、対立をされていたが今はお互いに認め合い世に尽くすことを定め闘いは終結したらしい。」龍鬼は死鬼が生まれた家系の特徴を知っていた。
「龍神がなんだというのだ。新羅家がなんだ。不死家がなんだ。まだ未熟なガキ共だ。今のうちに死刑を執行しよう!!」死罪は神力を増し、辺りにどす黒く水色のオーラが満ちる。
「僕は、ただ、平穏な日々を。楽しい日々を暮らせればいいんだ。それをすべて壊す奴は絶対に許さない!!兄ちゃん達行こう!!」
「「応!!!!」」
死鬼の突進の後を追うように罪夢と龍鬼は突き進む。
「これが龍鬼の。」死罪の元へと、死鬼は突進しその拳は受け止められる。
「ただの龍神じゃないよ。僕は怨念龍だよ。」
「だからなんだと言うのだ?」
「これからわかるよ。」
「小癪なァァァァァァ!!」
「ウオっと!」死罪は握っていた死鬼の拳を投げ飛ばした。
ガラン ガラン ガラガラガラ
「主!!この私が応援に、」
「お前の相手は、」
「「俺たちだ!!」」剛の顔面とみぞおちに罪夢と龍鬼の重たい一撃が入る。
「このガキ共が!!」
「チィ、怯んでる様子見せないじゃん!!コイツどうするよ?」
「俺が考えるにひとつしかない。」
「まっ、まさか」
「そのまさかだよ。たった1度しか成功したことがない技を使おうよ。」
「ベースは俺だぞ。」
「元からそのつもりだよ!」罪夢と龍鬼には最後の秘策が残されているらしい。
「貴様らは、この俺が直々に殺してやる!!」剛は近くにあった大きな斧を手に掴み二人に向けて指し示す。
罪夢と龍鬼の二人は、息を合わせて深呼吸を始めた。
「「神の力を、我らが源よ。我らの力をひとつに融合させ、我らを、この世界を救たまえ!!」
「こっ、これが融合の力。炎雷龍神の力か。」
「「俺の名は罪鬼(ざいき)。俺たちの力で、お前を破って幸せな日々を全てを取り戻す!!」」
「できるか?やってみろォォォォォ!!」
力ノ極 首切斬(しゅせつざん)!!
「「うぉっ、お前の力はワンパターンなんだよ!!」」
死ノ極 死首斬(ししゅざん)
「「は?」」
罪鬼の首と体は二つに分かれた。
この光景を見るに死は確定したも同然だった。
「させるかよぉぉ!!怨念龍ノ極 怨念再生(おんねんりゅうのごく おんねんさいせい)!!!!」
「「隙あり!!」」
死鬼の力により罪鬼の首と体は再び一つになり、剛の顔面を殴り奥の壁へ殴り飛ばした。
「「しゃァァ!おらァァァ!!」」
「クソ!!」死罪は歯ぎしりを立てる。一方、剛は瓦礫を払いなお立つ。
「「小癪な真似をするなァァァァ!!」」お互いフルパワーを出した。これで最後。決めるつもりだ。
「僕達は守り支え続けて平和を保ってきた!!これを守ることが神の、俺たちの使命なんだよ!!平和を不平等にぶっ壊していくお前らみたいなやつに。」
「「「全てをぶち壊させてたまるかよぉぉぉ!!」」」
死ノ極 罪死終斬(ざいししゅうざん)!!
怨念龍ノ極 怨念會ノ剛拳(おんねんかいのごうけん)!!
力ノ極 死首玉崩壊(りきのごく ししゅぎょくほうかい)!!
「「これが俺たちが紡いできた力だ。仲間を。家族を。絆を。舐めんじゃねぇぞ。」」
炎雷龍ノ極 王破雷炎拳(らいえんりゅうのごく おうはらいえんけん)!!!!
ハゴォォォォォォォォォン!!!!!! ガラガラガラガラ……
同時に起きた4人の神技によるぶつかり合いにより大爆発を起こし周囲は砂埃に包まれた。
壁は崩れ瓦礫まみれになった。最初に瓦礫を払い、姿を見せたのは死罪ただ一人だけだった。
「ふっ、やっと 死んだか。龍神なんて所詮はガキの分際だ。容易いものだったな。」
「果たしてどうかな?」
「お前らが言っているその『クソガキ』とやらは、今お前の前で生きているぞ。」
「お前の負けだ。死罪。それともまだやるか?」死罪の目の前には罪夢、龍鬼、死鬼の三人が立っておりその後ろには赤崎 剛が仰向けで倒れていた。
「はっ、はは、完敗だ。」
「やったァァァァ!!僕達が勝ったよ!!」
「はははっ!やったなぁァァ!!!!」
「ふっ、」
「これで良いのだ。我の予言は当たっていたな。」罪夢達の後ろには神道があった。
「はっ!」
「また新しい敵!?」
「いや構えなくてもいいぞ。この中にいるのは俺の父ちゃんだから」罪夢だけは神道の先にいる人物が分かっていた。
「そうだ。我がこの子の父親だ。」
「最高神様!?」
「ああ、いかにも。」
「私、私は、」
「お前はここから永久追放を言渡す。」
「なっ、なんで?」
「我々の管轄外の不法な死刑執行容疑。それに一般住宅街での神力使用と神力乱用容疑によりここから追放する。我直々の死刑じゃないだけまだマシだろう。あっ、それに、神力は没収する。」
「これによりこの騒動は幕を閉じ、ひとつの幕は終わりを告げよう。 ここによりお前達は自由だ。お前たちには専属に師匠を設けようと思う。未来を切り開く者は若人たちだ。我々がいる限り、この芽を摘むことを絶対に許さない。だから、強くなれ。今より明日。明日より明後日へ。」
「「「はい!!」」」
罪夢、龍鬼、死罪は自分達の神道を進む。傷だらけの身体を自分の神力で回復し再生させながら自分たちが元いた場所へと戻った。明るく笑顔で家へ。家族の元へ。百点満点の笑顔を掲げながら、幸せという形を噛み締めた。
家族と平和な日々に帰ると共に。
第肆章『絆』終わり
この子達の日々はまだまだ続くであろう。
誰かが、神の救けを求め続けるまで。
全ての闇が祓われるその時まで。
死闘は繰り広げられる。
『神羅迅伝』第壱部【完】