テラーノベル
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壱月の運転する車は東名高速を走る。
途中、海老名のサービスエリアで休憩をした。
「どこに行くの?」
ソフトクリームを頬張りながら壱月に訊ねると、「山奥」とだけ返される
え、まさかキャンプ!?
こんな格好で来ちゃったよ!
思わず身構えた私を見て、壱月は「ははっ」と豪快に笑った。
「それ美味そう。一口くれ」
壱月はそう言って、固まったままの私の手にあるソフトクリームを、そのままパクっと口にする。
「ごちそうさま」
「あ、けっこうな量持ってった!」
「ボーっとしてる愛音が悪い」
「もうっ!」
ふいっとそっぽを向いてソフトクリームを頬張ると、後ろで壱月がケラケラ笑う。
なんだろう、この感じ。
まるで、デートみたいじゃないか。
……デート、なんだった。
意識し出だすと、急に頬が熱くなる。
けれど、こんなやりとりすら愛おしい。
恋をするってきっと、こういう気持ちのことなんだ。
妙に冷静に分析した自分に、ふふっと笑みがこぼれる。
「……可愛い」
「はぇ!?!?」
突然耳元で囁かれたその言葉に、ビクンと肩が揺れた。
壱月はケラケラ笑いながら、私の腰を抱き寄せる。それで、一度収まったはずの頬の熱がまた上がってしまう。
「コロコロ表情が変わるの、面白いなと思ったんだ。……あ、早くし食べないと溶けるぞ?」
そう言って、壱月はまた私のソフトクリームに口を近づける。
「もうっ!」
私はその顔をかわして、さっさと溶けかけのソフトクリームを頬張った。
*
お互いにお手洗いを済ませ、再び壱月は車を走らせる。
壱月はサングラスを掛け、小さく鼻歌を歌いながらステアリングを握っていた。
コックピットでもこんな感じなのかな、と、以前見たパイロット姿を重ね合わせ、胸がトクンと鳴る。
いやいや、なんて妄想をしているんだ!
私は妄想を振り切るように小さくかぶりを振ったが、再び頬が緩んでしまった。
高速を降りると、窓の外にはだんだんと木々が増えていく。
やがて、壱月は富士山の見える湖畔のコテージの前で、車を停めた。
車から降りると、なるほど都心よりは幾分涼しい。
ぐうっと伸びをして大きく息を吸い込むと、緑の香りが鼻をくすぐった。
「今日の宿です」
壱月はおどけてそう言うと、私の手を取りコテージの入り口までエスコートしてくれる。
いつの間に手にしていたのかそこの鍵をがちゃがちゃと回して、中に足を踏み入れた。
ログハウス風の可愛らしい内装に、私は目を奪われた。
小さな暖炉に、品の良いソファ。カウンター式のキッチンに、広めのダイニングテーブル。
なにより、大きな窓から差し込む日差しが、木の温もりをいっそう感じさせる。
「荷物を運ぶから、愛音は適当に座っていて」
壱月はそう言って、部屋を出ていった。
私はソファの奥の、大きな窓の前に立った。
ここからは、湖の向こうに富士山が望める。湖に映った逆さ富士が、絵画のように美しい。
「素敵なところだね」
戻ってきた壱月にそう言うと、「だろう?」とドヤ顔で返された。
「ここ、俺のじいちゃんの別荘なんだ。今は、叔母さんのだけど」
「へえ」
キッチンで荷物をしまい終えた壱月は、立ったままの私の横にやって来た。
「今住んでるところも、この大窓みたいでカッコいいって思って、決めたんだ」
「あそこから空港見えるからだと思ってた」
「まあ、それもある」
壱月は私の肩をぎゅっと抱き寄せると、頬にちゅっと口づけを落としてくる。
突然の距離に、またドクンと胸が高鳴った。
「今日は愛音を甘やかす日。だから、ゆっくりしてて。豪華なランチもディナーも、俺がつくるから」
「へ? でも……」
隣を見上げると、壱月は優しい笑顔を浮かべていた。
「愛音はずっと花斗と一緒だったろう? いろんなところを愛音とふたりで回るのも楽しいかと思ったんだが、休んでもらうのが一番と思ったんだ」
「壱月……」
「――なんて、実は会社の先輩に、アドバイスもらったんだけどな」
壱月はケラケラ笑いながら、キッチンへ向かう。
自分だって、毎日の仕事に気を遣って、花斗の相手もして、それに今だって運転で疲れてるくせに。
「手伝うよ」
そう言い、私もキッチンへ向かおうとした。
しかし、それは壱月の大きな手に制されてしまう。
「いいよ」
「でも……」
壱月は顎に手を置き一瞬悩んでから、爽やかな笑みをこちらに向けた。
「じゃあ、そこに座って素敵な彼氏の料理姿でも眺めていてください」
壱月はにこっと爽やかに笑い、キッチンカウンターの前のダイニングテーブルを指差す。
「なに、それ」
私が笑うと、壱月も可笑しそうに笑い出す。
こんな風に楽しいのは久しぶりだな、と、壱月の優しさが身に沁みた。
コメント
1件
ソフトクリームを奪い合うやりとり、めちゃくちゃ可愛かったです!「まるでデートみたい」→「デートなんだった」って気づく流れが自然で、愛音さんの照れが伝わってきました。壱月さんの「今日は愛音を甘やかす日」って台詞、優しすぎて胸がきゅんとしました。別荘の景色も含めて、ふたりの空気感がとても心地よくて、読んでいてほっこりしました。