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#完全オリジナルストーリー
𝐀𝐘𝐀_

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𝐀𝐘𝐀_

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特別編
第九章 迎えに来たよ
大学へ向かう車の中。
「ちか。」
運転席の遥が静かに声を掛ける。
「大丈夫。」
「……うん。」
そう返事はしたものの、千景は何度もスマートフォンを握り直していた。
(ちーちゃん。)
(一人で頑張らせてしまった。)
そんな思いが胸を締めつける。
信号待ちになるたびに、時計へ目を向ける。
一分一秒がとても長く感じた。
「ちか。」
「ん?」
「自分を責めない。」
「……。」
「ちーちゃんも、それは望んでない。」
千景は静かに目を閉じる。
「分かってる。」
「でも。」
「迎えに行こう。」
遥は優しく微笑んだ。
「それが今、一番大切だから。」
「……ありがとう。」
大学。
保健室。
「結城くん。」
保健室の先生が優しく声を掛ける。
「お兄さん、もうすぐ着くそうですよ。」
「……うん。」
千弥はベッドへ横になったまま、小さく返事をした。
呼吸は落ち着いてきた。
けれど、不安そうな瞳は何度も入口へ向く。
くぅちゃんを抱きしめる手にも、まだ少し力が入っていた。
(にぃに。)
(はるにぃ。)
(はやく……。)
自分でも分からないくらい、二人に会いたかった。
数分後。
廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。
コンコン。
「失礼します。」
ドアが開く。
「ちーちゃん!」
「……にぃに。」
その声を聞いた瞬間だった。
張りつめていたものが、ふっと切れる。
「にぃに……。」
千弥の目から、大粒の涙があふれた。
「ごめんなさい……。」
「ごめんなさい……。」
何度も謝りながら泣く千弥。
千景は迷わず駆け寄り、そっと抱きしめた。
「謝らなくていい。」
「でも……。」
「迎えに来るって約束したでしょう?」
「……うん。」
「ちゃんと電話が来た。」
「だから約束どおり迎えに来たよ。」
千弥は千景の胸へ顔を埋め、小さく泣き続ける。
「こわかった……。」
「うん。」
「みんな、みてて。」
「うん。」
「うごけなくて。」
「うん。」
「ちぃ……。」
言葉にならない。
苦しくて。
怖くて。
情けなくて。
いろいろな気持ちが一度にあふれていた。
「大丈夫。」
千景は背中を優しくさする。
「ちーちゃんは何も悪くない。」
「でも……。」
「苦しかったね。」
その一言に、千弥は小さく頷いた。
「ちーちゃん。」
遥もベッドの横へしゃがみ込む。
「僕の顔、見られる?」
千弥はゆっくり顔を上げた。
「はるにぃ……。」
「迎えに来たよ。」
「……。」
「一人で頑張ったね。」
その言葉を聞いた瞬間。
また涙がこぼれた。
「がんばった。」
「うん。」
「でも。」
「うん。」
「こわかった……。」
「そうだね。」
遥は優しく微笑む。
「もう怖くない。」
「僕たちがいる。」
「帰ろう。」
千弥は何度も頷いた。
そこへ教授と保健室の先生がやって来た。
「結城さん。」
「この度は、ご連絡ありがとうございました。」
千景は深く頭を下げる。
教授は穏やかに微笑んだ。
「千弥さん、とても頑張っていました。」
「苦しい中でも、自分から『にぃにに電話してください』と言えたんです。」
「……え?」
千景は驚いて千弥を見る。
千弥は少し照れたように俯いた。
「にぃに。」
「うん。」
「やくそく。」
「……。」
「くるしくなったら。」
「すぐ、いってねって。」
「だから。」
「でんわ、してもらった。」
千景は胸がいっぱいになった。
病院で交わした約束。
『苦しくなったら、我慢しない。』
『必ず教えて。』
千弥は、その約束をちゃんと守ってくれたのだ。
「えらかった。」
千景は優しく頭を撫でる。
「本当にえらかった。」
遥も笑顔で続ける。
「百点満点だね。」
「……ほんと?」
「もちろん。」
「ちゃんと助けを呼べた。」
「それは、とても勇気がいることなんだよ。」
千弥は少しだけ照れながら、小さく笑った。
それは久しぶりに見た、心からの笑顔だった。
帰る準備を終え、千景は千弥をそっと抱き上げる。
「歩ける?」
「……だっこ。」
「もちろん。」
「今日は甘えていい日。」
千弥は安心したように千景へ身を預けた。
病院でも。
大学でも。
そして家でも。
もう一人で頑張らなくていい。
そのことを少しずつ理解し始めていた。
大学を出ると、雨はすっかり止んでいた。
厚い雲の隙間から、やわらかな夕日が顔をのぞかせる。
「帰ろう。」
千景が静かに言う。
「うん。」
「おうち、かえる。」
千弥は小さく微笑んだ。
その笑顔を見て、千景と遥も穏やかに笑い返した。
三人の帰る場所は、いつだって同じだった。
特別編 第九章おわり。
特別編 第十章へ続く。
コメント
1件
読み終わりました……「おうち、かえる」という千弥くんの一言に全部詰まってる気がします。頑張ってちゃんと助けを呼べたこと、それをちゃんと迎えに行ったお兄ちゃんたち。約束を守れた千弥くんの笑顔が本当に尊くて、涙が出ました。特別編に入ってさらに深まる絆、第九章も素敵でした🌷