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40 ◇悲しい恋の結末
私や和彦さんが足枷になっている?
しかし、それにしても今の今まで私は知らなかった。
志乃さんの家にはお父さんがいないっていうのは小さな頃からなんとなく
知っていたけど、お母さんが芸子さんだったとか父親が誰だか分からないとか……。
母親は差別主義者ではないというけれど、ここ一番人生の最大事時にそのことが理由で結婚に反対っていうのは
『おかあさま、あなたはやっぱり差別主義者なんですよ』
……と世間知らずの私は呟いてみる。
『お兄ちゃん、あたしだけ幸せになってごめん。
いつか、いつか恩返しできる日が来たら、絶対応援するから』
私はたまたま、兄の結婚話が出るなんて知らずに実家に立ち寄り
一連の話を聞いてしまうことになったんだけれども……兄が出て行ったあと
いたたまれず、そのまま自分も両親を部屋に残し、自宅へと帰った。
こんな話夫に話せないわ。
兄の肩の上に、一体何人の重しが乗せられているのか。
母親の言い草を聞くまでお嬢様然として何も考えずお気楽に暮らしてきた
私も母親曰くの、世間知らずだったのだ。
両親に向けて、兄の諫言めいた言葉添えがあったからこその
今ある幸せを思うとやるせなくなる珠代だった。
――――― シナリオ風 ――――――
〇珠代の自宅・和彦の書斎/夜
和彦が帳簿を眺めながら筆を走らせている。
背後で静かに立っている珠代
珠代(心の声)
「兄と志乃さんの話のこと……自分たちのことも絡んでいるとなると、とても
じゃないげと和彦さんには話せないや。
でも、なんか胸が痛いなぁ~」
和彦がふと振り返る
和彦
「どうしたんだ、珠代。さっきから黙って……何かあったのか?」
珠代(微笑して首を横に振る)「ううん、ちょっと……眠れなかっただけ」
和彦は微かに頷き、再び筆に戻る
珠代(心の声)
「“幸せ”って、誰かの犠牲の上に成り立っているものなのかしら……」
「……悔しい。
お兄様が、皆の幸せのために、ただ黙ってすべてを背負い……
それなのに、当の本人は幸せになることを許されないなんて……!」
〇涼の部屋・机の引き出しの中
涼がひとり、机に向かっている。
引き出しを開けると、そこには志乃との写真──
写し絵屋で撮った穏やかな一枚
涼(心の声)
「……志乃、幸せになれよ。
離れていても心は側にいるから」
写真に手を添え、静かに引き出しを閉じる
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