テラーノベル
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久しぶりに、あの少し重たいドアをおそるおそる開ける。中を覗き込むと、バーカウンターの中にいる玲くんと目が合った。
私が笑顔で手を振ると、彼もパッと表情を明るくして応えてくれる。
「夏帆ちゃん、いらっしゃい。久しぶり!」
「玲くん!」
嬉しくて、小走りでカウンター席へ向かった。いつもの椅子に座る感覚さえ懐かしく、自然と気分が浮き立つ。
「久しぶり! 会いたかった!」
「私も会いたかったー!」
再会を喜びながら出されたお水を受け取った。その時、後ろから首筋に腕を回され、ぐいっと引き寄せられた。
こんな真似をする男は、この店に一人しかいない。
「俺の時と違って随分嬉しそうな。浮気?」
カウンターにいなかったと思えば、奥で客とダーツをしていたらしい。
わざとらしく不機嫌そうな声を出す彼に、私は鼻で笑って返した。
「帰ってくるその日に寝坊なんかされちゃね」
ちょっとした意地悪のつもりだったけれど次の瞬間、雅に強引に顔を向けさせられ、唇を塞がれた。その瞬間に「んー!」と抗議の声を上げ、拘束されている腕をバシバシと叩くが、奴は一向に離してくれない。
人前で何を考えているのか、このクソガキは。
「このクソガキ!!!! 人前で何してんのよ!!!!」
「生意気言う口に分からせただけ」
雅はべっと舌を出して挑発すると、悠々とカウンターの内側へと戻っていく。
何が分からせただ、このクズ男。
盛大な溜息を吐いてから「オレンジカクテル」と注文をすると、雅はあからさまに面倒くさそうな顔をしていた。
「あー。気分いいから奢ってあげようと思ったのに。玲くん雅のは今日自腹」
「俺も何か作りたい気分だったんだよな」
私の言葉を聞くや否や、雅は手のひらを返してシェイカーの準備を始めた。
どこまでも調子のいい男、と呆れる私を見て、玲くんは可笑しそうに笑いながら、静かにグラスを磨いていた。
「てか二人も本当久しぶりなのに変わんないね」
確かに、何も変わった気はしない。再会早々の大遅刻には腹が立ったけれど、その怒りのおかげで、気まずさを感じる暇もなくいつも通りの空気に戻れたわけだし。
だけど、本当に何も変わっていないかと言われればと、不意に昨夜の記憶が脳裏をよぎり、急激に顔が熱くなる。普段以上に意地の悪い態度で焦らされたかと思えば、向こうが求める時には強引になり、久しぶりだったせいか、彼も私も、余裕なんてどこにもなかった。
そんな事を思い出すと、雅の顔を直視できず私は慌てて視線を逸らす。
「何思い出してんだよ、変態」
低く笑いながら揶揄ってくる雅に、私は激しく首を振った。
ここで言い返せば、墓穴を掘るだけ。私は昨夜の余韻を無理やり追い出すように、カクテルを一口飲んで無理やり喉を潤した。
「……何なの、この焦れったい空気。俺、普通の事しか言ってないんだけど…」
「男女の事に口出すなんて、玲くんのえっちぃ~」
「興味無いよ……、むしろ君のそう言う話なんて聞きたくも無いんですけど」
「夏帆の話には興味あんの? 殴られたい?」
「そんな事も言ってないでしょ」
相変わらず噛み合わないやり取りを繰り広げる男性陣に私は溜息を吐いた。
「今夏帆ちゃんは雅と一緒に住んでるの?」
「そうだよ」
「そっか、結婚とかも近々?」
「まあ……、うん」
煮え切らない私の返事に、玲くんは不思議そうに首を傾げた。
こっちに戻ってきたら結婚する、とそんな話は当然出ていたし、話し合いもしたのだけれど…。
『はあ? 待ってほしいって言った?今』
『ほ、ほら、帰ってきて昇進でしょ?まだ仕事忙しくなるし、それが落ち着くまで少し待ってほしいのよ。もう少しだけ良いでしょ?』
あの時の、雅の呆れ果てたような顔が脳裏をよぎる。
本社に戻って早々に結婚しますと宣言することへの抵抗感が、どうしても拭えなかった。せめて地盤を固めてから…、と先延ばしを提案した私に対し、雅はあからさまに不服そうだった。
その場では一度収拾はついたものの、彼がいまだに納得していないのは伝わってくる。
「……何か俺まずいこと聞いた?」
「間違いなく俺の地雷は踏んだ」
「雅の地雷ならいいか」
「ふざけんなカス」
「クズが人の事カス呼ばわりすんじゃないわよ」
「ややこしいから入ってくんな、おめぇはよ」
三人で顔を合わせるといつもコントのようなやりとりになるのは、なぜなのか。
まなこ〜友
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#ますしき
T
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コメント
1件
もう第47話か…気づけばここまで読んできたんだなあ。 今回、何より三人の掛け合いのテンポが良くて、読んでいて自然と口元が緩んだよ。特に「クソガキ」呼ばわりからの流れ、雅の挑発的な態度と夏帆の呆れが絶妙で、キャラの関係性がしっかり見える。それでいて、昨夜の記憶で顔が熱くなる一文で、二人だけの空気が一瞬でよみがえるんだよね。その対比がすごく好き。 玲くんの「結婚とかも近々?」という何気ない一言が、実はまだ解決していない地雷を踏む伏線になっているのも、巧い構成だと思う。表面上は軽快なコントなのに、その奥に確かな緊張感がある。続きが気になる。