テラーノベル
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重たい空気。
鉄の匂いが、鼻につく。
「……こいつ?」
低い声が響く。
床に転がされている男。
手足を縛られ、口元には血。
まだ息はある。
「裏切りだとよ」
淡々とした説明。
「で?」
視線が、一斉に向く。
南暁音。
壁際に立つその姿は、
いつもと何も変わらない。
「やる?」
軽い声。
灰谷蘭 が笑う。
暁音は、数秒だけ沈黙してから──
「……任務なら」
ゆっくりと歩き出す。
男の前で、止まる。
「っ……や、めろ……」
かすれた声。
視線が合う。
恐怖に歪んだ顔。
震える瞳。
それを見ても、
「……」
何も変わらない。
暁音は、ポケットからナイフを取り出す。
躊躇なく、振り下ろした。
「っああああ!!!」
悲鳴。
血。
それでも──
「……」
無表情。
何度か、同じ動作を繰り返す。
規則的に。
機械みたいに。
「……なぁ」
小さく、声が落ちる。
灰谷竜胆 が、眉をひそめる。
「それ、楽しいか?」
手が、止まる。
一瞬だけ。
暁音は、ゆっくり顔を上げる。
「……?」
意味が分からない、という顔。
「……は、」
誰かが息を漏らす。
「質問変えるわ」
竜胆が、少し苛立ったように言う。
「痛ぇだろ、それ」
その瞬間。
ナイフを持つ手から、血が滴る。
刃が、少しだけずれていた。
自分の手のひらも、切れている。
それでも。
暁音は、ゆっくりと自分の手を見る。
数秒。
「……わかんない」
静かな声。
空気が、止まる。
「……は?」
「痛いって、なに」
その一言で、
何かが、決定的に崩れた。
「……お前、」
竜胆の声が、低くなる。
「マジで言ってんのか」
答えはない。
ただ、
暁音は再び男へ視線を落とす。
「……まだ?」
それだけだった。
悲鳴が、また響く。
それを聞きながら──
灰谷蘭 が、ゆっくりと笑う。
「……いいね、それ」
その目は、もう“興味”じゃない。
「壊れてるじゃん」
誰も、否定しなかった。
否定できなかった。
目の前にいるそれは──
もう、人間じゃない。
それでも。
目を逸らせない。
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🌙月見🌿
#狂気
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