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なぽりんたん☯️
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カラン。カラン。
夜の街から外れた、少し静かな通りで。
チカチカと点滅している、店の名前は、人を集
めさせないように不気味だった。
煌びやかなネオン色の夜の街とは異なり、真っ赤に染まった血液のような色の看板は、今にも落ちてきそうである。
そんな酒場に中原中也は1人とぼとぼと入っていった。
外と打って変わって、レトロな雰囲気の店。
店の奥棚に並ぶ、シャンパンやペトリュス。
葡萄酒、日本酒。
様々な物があるのは、中也にとって有難いことだった。
暖かなオレンジ色のライトが、天井からぶら下がっている。
帽子と外套を椅子に置き、その隣の席に居座る。
中也以外に客は居ないから、広々と使えた。
マスターに声を掛け、今日はいつもとは違いカクテルを頼んだ。
なんせ、失恋である。
相手の浮気。
女と腕を組みほっつき歩いていた。
無論、最初から決めつけた訳はあるまい。
初めは、依頼だろう。
そう信じていたのだ。
言い訳をする彼奴の身体からは、
鼻につく香水の甘い匂いが漂っていた。
カラン。カラン。
客が1人、軽い足取りで入ってきた。
席は沢山空いていた。
だが、
「お隣、宜しいですか?」
そう尋ねてきた。
今は1人で酔っていたかったが、断る理由もなく、了承した。
慌てて帽子や外套を足元へ下ろし、椅子を空ける。
声を掛けてきた男は、随分珍しい容姿だった。
黒髪の少し長い髪型。
特徴的な帽子。
白い服。
そして、西洋人のような顔立ち。
だが、なりより、太宰のようなその雰囲気。
毒を孕んだような目線と、甘く少々苦い声の音。
此奴は危ない。と本能が告げていた。
けれど、中也は逃げなかった。
いや、逃げれなかったが正しいだろう。
何故かその雰囲気を追い求めていたように感じたのだから。
でも、相手は全く知らない人であった。
名前を問うと、
先ずは貴方の名前が知りたい。
と返された為、
中原中也と答えた。
マフィアでもないであろう相手に、自分の本名を教えるのは躊躇った。
だが、酔って気が緩み、別に良いのではないか。
そう考えた。
「中也さん…そう呼んでも宜しいですか?」
軽く了承し、名前を言うように促した。
「僕の名前は__________
___フョードル・ドストエフスキー。」
「親しみを込めて、フェージャとお呼び下さい。」
そう名乗った其奴は、中也と同じカクテルを頼み、隣に座った。
何で話しかけてきたのか。
そう聞きたくても、聞けそうになかった。
しばらくの沈黙の後、フョードルのカクテルが届いた。
「……中也さん。相談が有れば乗りますよ。」
驚愕した。
そんなに表情に出ていたとも思えないが、何故か心の内側まで覗いてきそうなその瞳に。
知り合いでも、何でもない奴に話すのは、逆に気が楽だった。
お互いに何も知らない他人だが、それが楽だ。
何かを知るよりも先に。気づいたら、失恋の成り行きをフョードルに話していた。
深夜でまだ真っ暗であった。
それほど長居はして居らず、ただ、その時間がとてもとてもゆっくりとしたように感じただけであろう。
闇のような空とは裏腹に、暖かい色をした店内は、男が2人座っていた。
ゆらりとゆらめく液体がグラスの中で、紅く火照っていく顔を映し出す。
フョードルの瞳が中也を覗き込みながら、話を催促する。
甘い声で唸りながら、卓の上にのっているフョードルの手に頭をすり寄せる。
琥珀色のふわふわな髪が手に触れ、そして離れ、何処かくすぐったい。
酔ってきたのか、理性が浮つき、高揚感に包まれる。
頭の芯から毒に侵食されるような、そんなイケナイ甘さである。
「ようやく効いてきましたか…。中也さん、僕の家で続きは呑みませんか?」
ふわふわとした頭の中で問いかけられて、疑うことも忘れて、首を縦におろしてしまう。
「…笑。行きましょうか。」
少し屈められたフョードルの肩に手を回して外に出る。
外套を被っても、少しだけ肌が空気へと晒される。
肌寒いくらいの空気は、少しだけ理性が戻る元となるが、呑んだ酒のせいか、ふわふわのままふらついた足取りで隣を歩いている。
寝起きで少し半目でありながらも、二日酔いのような気怠さが感じられた。
走行音すら感じさせない車内は、カーテンが降りており外の風景は全くと言っていいほど見えない。
理性が落ち着き始めたのはいいものの、ここは自宅ではなく、車である。
記憶すらも朧げであるが、呑んでいたのだろう。
だが、車に乗るような行為は何もしていない筈だ。
ずぐりと体を起こそうとするが、身体に力が入らずにだらりとした状態のままである。
知らない男と目があい、血の気が引いていく。
昨日は、1人で酔っていた筈だから。
『手前ッ!此処から下ろしやがれ!!』
「いくら中也さんでも、それは無理なお願いですね」
『何んっで、俺の名前…』
「覚えておりませんか?僕と貴方は一緒に呑んでいたのですよ。」
一緒に呑んだ記憶は、朧げだがあるような気がした。
それでも、身体が動かないのはおかしすぎる。
筋弛緩薬…何か薬を盛られていてもおかしくはあるまい。
そもそもポートマフィアの人間である自分のことを知っているのが危険だ。
一緒に呑んだとしても、何を話していたのだろうか。
此奴は誰なのか。
疑問はあるが逃げなければならない。
そう思い、主人の命令を聞かない腕を、何とかという想いで持ち上げ、異能力を使おうと奴の手を握る…が、何も起きない。
「すみませんね、異能は使えないようにしてあるんです。」
『ッ!手前!!近づくんじゃねぇ!!』
口でしか抵抗することができない。
段々とフョードルの顔が中也へと寄っていく。
そして、口が触れた。
中也としては思ってもないことであった。
くちゅりと卑猥な水音が車内に響いていく。
唇を割って、上顎を舐めるように舌が動く。
驚きで閉じない瞳から、薄く涙が乗っかって頬を伝って服を濡らす。
儚げに震わせた琥珀色をした髪と同じ睫毛が水を滴る。
肉食獣のような笑みで口にかぶりつきじゅるじゅると卑猥な音が更に車内に響きわたる。
『…っあ、や、……はぁっ…んっ!…』
目元が涙のせいで紅く染まり、肩がびくりと揺れる。
軽口を叩いていた口からは、甘い声ばかりがでてくる。
じゅるり、くちゅ、くちゃり。
水音がどんどん激しくなっていく。
『…っあ……んぅ…っ!…ふ……っ…あ…』
甘く口を齧り、更に肩が揺れる。
酸素が足りずに、息をしようと試みるが口が塞がって上手く息が出来ない。
震える肩とその瑠璃色の瞳からは、快楽と恐怖が伝わる。
舌が混じり合うほど、じわりと熱くなっていって溶けるような温度へと変わっていく。
更に舌が喉元まで深く入っていく。
丸い錠剤が喉に押し付けられていく。
沢山の唾液が水の代わりとなり、
抵抗することも出来ずに飲み込んでしまう。
飲み込んだ事を確認すると、ゆっくりと離れ、唾液が薄く飴色の糸を引いた。
まだ酸素が足りずに息を吐いているが、その瞳はもう閉じている。
『…ふぅ……あ…んぅ…っ…ふぅ…』
開いたままの口の端から、飲み込めなかった飴色の唾液が垂れ落ちる。
少し喘ぎながら、ゆっくりと瞳を閉じていった。
車が音もなく止まる。
濡れた目元と火照った顔を見て、下の熱が疼く。
始める前に、暗闇に閉じ込めるため我慢して両腕に乗せて抱く。
全く違う風景を見せないように目元を完全に閉じさせて。
“彼”は今頃、焦っているだろう。と思いながら、口元に触れるだけの軽いキスをする。
「もう、貴方の犬ではないんですよ。
これからは、僕の恋人として、中也さんは生きていくのです。」
ゆっくりと堕ちていく。
暗い闇へ。
邪魔が入る前に、
毒に侵されて。
コメント
2件
前作から愛読させてもらってます! この作品はもっと伸びていい〜〜!!
ああ、これ……めちゃくちゃダークで重いやつだわ。第一話から既に「毒」がテーマ通りガッツリ効いてるね。 中也が失恋で落ちてるとこに、フョードルって危険な匂いのする男がふらっと現れて、気づいたら薬盛られて連れ去られてる。その流れが無理なくてこわい。理性とか本能が「逃げろ」って言ってるのに、酔いと孤独で抗えなくなっていく心情、解像度高かった。 それにしても、このフョードル、もう完全に中也のこと獲物として見てるやつじゃん。「僕の恋人として生きていく」って台詞、甘いけど背筋凍るわ。続き……気になる。でも心の準備してから読むわ。