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  そう遠くない昔のお話です。


 とある剣と魔法が支配する異世界。そこのある王国の王都では、今日も神官様が空に向かって祈りをささげていました。その様子を見守る王侯貴族の心配そうな顔。王国は異常な旱魃(かんばつ)が続いていて食料が尽きかけていました。


 やがて黒い雲が空にチョコンと出現し広場の全員が興奮した声を上げましたが、すぐに雲は散って消えてしまいました。


 神官様は広場に集まる王侯貴族と商人たちにおっしゃいました。


「まだ空の神々への貢物が足りないようです。さあ、もっと金銀財宝を神殿に差し出すのです」


 その場を去り際に神官様はニヤリと笑ってつぶやきました。


「ふふふ。これでまた儲けが増える」


 同じ頃、一人の幼い女の子が王都のはずれの丘を散歩していました。すると女の子は小さな翼のあるドラゴンが、片足に鎖をつながれ、その鎖は大きな岩に巻き付けてあるのを見つけました。


「ドラゴンさん、ここで何してるの?」


 女の子が尋ねるとドラゴンは弱々しく答えたました。


「ひどい人間たちに捕まって雲を呼んで雨を降らせろって言われたんだ。でも僕はまだ子どもだから雨までは呼べないんだ。できるまでここにつないでおくって言われて」


 女の子はポケットにあったビスケットをドラゴンに食べさせてあげました。それから毎日、女の子はドラゴンに会いに来ていろいろお話をしました。


 女の子はドラゴンが仲間の所へ帰りたがっている事を知り、ある日その女の子にとっては大きなハンマーを担いで来ました。


「私のお父さんは鍛冶屋さんなの。お道具借りてきたから鎖切ってあげる」


 数時間のハンマーとの格闘の末、女の子はドラゴンの足をつないでいる鎖を叩いて輪っかを壊す事が出来ました。


 自由になった子どものドラゴンはうれしそうに空に向かって咆哮(ほうこう)を響かせました。


「大人の仲間が何匹も来てくれるみたいだ。ありがとう、お嬢ちゃん。何かお礼がしたいけど、何か欲しい物とかある?」


 ドラゴンがそう訊き、女の子はしばし首を傾げて考えました。そしてこう言いました。


「やっぱり雨を降らせて欲しいかな。私とお父さんは今日の夕方にこの町から出るけど、王都の人たち、本当に困っているみたいだし」


「どのぐらいの雨を降らせればいいの?」


「神官様は百年に一度のひどい日照りだとか言ってたよ」


「そうか、分かった。仲間が着いたら雨を降らせてもらおう」


「じゃあドラゴンさん、元気でね」


「うん、ありがとう。君も気をつけて旅立ってね」


 やがて大人のドラゴンが3頭、大きな翼をはばたかせて子どものドラゴンの所へやって来ました。赤い翼のドラゴンが言いました。


「おお、息子よ。無事だったか。人間にさらわれたと聞いて心配したぞ」


 子どものドラゴンは父親であるドラゴンと再会できて、うれしそうにこれまで何が起きたのかを話しました。自分を鎖から解放してくれた女の子の事も詳しく話しました。


 黒い翼のドラゴンが言いました。


「そうだとすると、この子を助け出してもまた人間どもは別のドラゴンの子をさらうかもしれんぞ。これで一安心というわけにもいかんな」


 金色の翼のドラゴンが言いました。


「この子を助けた人間は雨を降らせて欲しいと言ったのだな。それが町の人間どもの望みならかなえてやったらどうだ? 望み通りに雨を降らせてやれば、人間どもも危険を冒してまでドラゴンの子をさらおうとはしなくなるのではないか?」


 父親の赤い翼のドラゴンが言いました。


「人間の望み通りにしてやるのはしゃくにさわるが、確かに別のドラゴンの子どもがさらわれる危険があるというのなら、金色のドラゴンの言う通りだな。じゃあ、我々全員で雨を降らせてやるか」


 黒い翼のドラゴンが子どものドラゴンに尋ねました。


「それで人間どもは、どのくらいの雨を降らせて欲しいのかな?」


 子どものドラゴンは、あの女の子との会話を思い出しながら答えました。


「確か、百年に一度の水不足だとか、そんな風に言っていたかな」


 金色の翼のドラゴンがみなに言いました。


「なるほど百年か。よし、ではこれから空の高い所へ飛んで行って雨を呼んでやるとしよう」


 そしてドラゴンはそろって大空高く飛んで行きました。


 翌日、王都ではポツポツと雨が降り始めました。町の人たちは今度こそまとまった雨が降ってくれるかと期待して空を見上げていました。


 神殿では、あの神官様がニヤニヤと笑いながら独り言を言っていました。


「しめしめ、これで私が偉大な雨乞いの魔法使いという事になるぞ。ははは、これまで以上に平民たちから金を巻き上げてやるぞ」


 今度の雨は三日三晩降り続きました。段々王都の町の人たちは上を下への大騒ぎになっていきました。問題は雨水の量でした。三日で降った雨水の量は、その王都の百年分だったからです。


 大きな水たまりがあちこちに出来てあふれ出し、川は氾濫して町中が水浸しになり、山の上に降った水が滝のような大きな濁流になって町に向かって落ちて来ました。


 家も家畜小屋も畑も何もかも、濁流に押し流されて行きました。あの神官様がいる神殿は、山から落ちて来た濁流に真っ先に呑まれてあっと言う間に倒壊してしまいました。


 唯一良かった事があるとすれば、子どものドラゴンを助けたあの心優しい女の子は、とっくに王都を出て、遠くへ行ってしまっていた事でしょう。


 その王都がその後どうなったのかは、歴史書に記録がないため、今では誰も知りません。

アダルト・メルヒェン

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