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「…。る…流来(るうら)?」
「え?」
赤髪でキリッっとした目、スラッっとしたスタイル。
服こそ行商人の金色の縁の青いフード付きのコートを着ていたが
その顔は間違いない。優恵楼(ゆけろう)の中学時代からの親友。
「流来」
優恵楼は目の前のことが信じられなかった。今までずっとこの世界に1人でいた。
おそらくこの世界は優恵楼がプレイしてきた大好きなゲーム
ワールド メイド ブロックスの世界でほぼ確定だった。
なのでこの世界のどこかには村があり、そこには村人がいる。
いずれ村の近くに家を建てて、村人とわいわい楽しんで暮らそう考えていた。
なのでずっと1人ではないと思っていた。しかし、まさか知り合い
知り合いどころかずっと会いたかった、話したかった親友と会えるなんて思ってもみなかった。
流来とはワールド メイド ブロックスをずっと一緒にプレイしてきた。
ボイスを繋いで朝までプレイするなんてこともザラにあった。
一緒に家を作って、一緒に冒険して、アップデート情報が出たら学校で話して盛り上がって
アップデートしたらアップデートにより加わった新要素を探しに冒険に出たり。
中学、高校とリアルでも流来と青春を共にしてきたが
ワールド メイド ブロックスの世界でも一緒に青春を共にしていた。
そんなことが一気に頭の中に流れ、流来の顔を見た優恵楼は脚が震え始めた。
ずっと1人で、この先村人と会ってもおそらく知り合いはいなくて
この世界の生活にある程度慣れ始めたとはいえ、心のどこかではずっと不安で怖かったのだろう。
親友の顔を見て、その緊張が解けて
ピンと張っていた糸が切れ、不安定になったように脚が震え、その場にへたり込んだ。
それと同時に頬も震え始め、目尻から涙が溢れ落ちた。
「…んぐ…っ…」
涙が溢れ出し、鼻水も出た。
「あの…。大丈夫?です?」
流来の顔に似た行商人がしゃがみ込む。
「…っ…んん〜…」
言葉を発せないくらい泣く優恵楼。その場に胡座をかく行商人。
「…。なんか買わない?」
「は?」
言葉が出た。親友に再会できて、安心して泣いている親友を目の前に「なんか買わない?」である。
そりゃ優恵楼も「は?」である。優恵楼は涙と鼻水を右腕で拭う。
話すために息を整えるために深呼吸を繰り返す。
深呼吸をしているとき、頭には流来との思い出が呼び起こされていた。
流来と出会ったとき、仲良くなっていった日々、修学旅行、流来にだけ打ち明けた好きな人
〜
「実はオレ、若縁木(わえぎ)さん好きなんだよね」
「へーマジか」
「リアクション薄っ」
「いや、まあ優恵楼のタイプだし、なんとなくわかってたからなぁ〜」
「マジ?」
「あ、そんなことより幸運のエンチャのお陰でダイヤ15個もゲットしたわ」
「そんなことって」
〜
思い出し
「ぷっ」
笑った。思い返せば流来は前からそんなだった。いや、そんな関係であれた。
「ま、前からそんなだったもんね」
「?」
「なに売ってんの?あ、そうだ。狭いけど家(うち)おいでよ」
と空が暗くなり始めたので流来に似た行商人を家へ招く優恵楼。
「あ、じゃあ。お邪魔します」
家とも呼べない洞穴にドアを設置したようなところへ入る。
「で?流来はなに売ってんの?てかなんで商人なんかやってんの?」
と少しワクワク、懐かしく、嬉しさが漏れ出る優恵楼に対し
「あのぉ〜」
と少し不審に、なんともいえない表情で
「ルウラって誰ですか?」
と言った。
「え?」
「ずっと自分に向かってルウラって言ってますけど、魔法かなんかですか?」
それは別ゲームです。
「え…。え?」
目の前で不審そうにキョトンとする流来に似た行商人を見て優恵楼は唖然とした。
「え…流来じゃないの?」
「自分は行商人で歩いて回ってるリンダーレト・ルウ・ランダーワグという者です」
軽く頭を下げる流来に似た行商人。
「え、あ、え?」
動揺する優恵楼。
「え…。ん?んん、まあ、とりあえず座って…ください」
語尾を取って付けたような敬語にして、イスに座ってもらうように促す。
「あ、すいません。どうも」
流来…じゃない?流来じゃない?え?流来じゃないの?流来?じゃない?
頭の中にそれだけが流れるが、とりあえず自分が座る用のイスをクラフトして
流来の顔に似た行商人の近くに設置して座った。
「えぇ〜と…。名前なんでしたっけ?」
「リンダーレト・ルウ・ランダーワグです」
「リンダーレト?」
頷く流来の顔に似た行商人。
「ルウ?」
頷く流来の顔に似た行商人。
「リン」
首を横に振る流来の顔に似た行商人。
「ランダーワグ」
「ランダーワグですね。リンダーレト・ルウ・ランダーワグさん」
頷く流来の顔に似た行商人。
「ん?」
「ん?」
「リンダーレト・ルウ・ランダーワグさん」
「はい」
「ルウ・ランダーワグ」
しつこ
と思う流来の顔に似た行商人。
「ルウラじゃん」
「え?」
「ルウ・ランダーワグ。略してルウラじゃん」
「人の名前略すなよ」
ごもっともである。
「顔も流来だし、名前も親近感あるからルウラって呼びますわ」
謎宣言をする優恵楼。
「…。いや。ま…別にいいですけど」
「ルウラ商人やってるんだね」
「…」
慣れない呼び方に「?」という感じだったが
「商人じゃなくて行商人だけどね」
と受け入れたルウラ。
「商人と行商人ってなにが違うの?」
「商人は旅しない。行商人は旅しながら商人してる人」
「あぁ〜。なるほど?え。行商人ってどうやって物品仕入れてんの?」
ナチュラルにタメ口になる優恵楼。
「まあぁ〜…そうだなぁ〜…。ま、たまに村とかに行き着くから
そこで商人の人と話して物々交換とか、あとは自分で洞窟とか潜って鉱石掘ったり
あとは海潜って色々採ってみたり。ま、行商人だからね。旅先で色々採集してるって感じかな」
ルウラもナチュラルにタメ口になる。
「なるほどねぇ〜。あ、ここら辺に村ってあった?」
「いや?村には行ったけどたいぶ前だな。ここら辺周辺はまだあんま見てないし、道中、近くに村はなかった」
「マジかぁ〜。…あ、せっかくだからジュースでも飲む?」
「お、おぉ。じゃもらうわ」
ということで優恵楼は優恵楼お手製ジュースをルウラに渡した。
「いただきます」
「どうぞどうぞ」
ルウラが優恵楼お手製ジュースを飲んだ。
「うん。うまい」
「正直冷やしたいところではあるけどね」
「川で冷やしとけばいいのに」
「なるほどね!」
まるで親友と話すように喋る2人。
「でも流れていくよね?」
「あぁ…。たしかに」
「ちょ、2人で考えよう。ジュース冷やす方法」
「オレも?」
「ルウラも!」
やはり優恵楼はルウラに流来を重ねて、楽しそうに、ワクワクしているような言い方で言う優恵楼。
「ていうか冷蔵庫作ればいいんだよね?」
「まあ。そうな。それが一番だけど…。作れんの?」
「まあ、作れるとは思うけどぉ〜…」
立ち上がってクラフトテーブルに向かう優恵楼。
クラフトテーブルの側面に備えついているクラフトレシピの載っている
クラフトブックを取り出して捲っていく。
「んん〜…っとぉ〜?」
ページを捲る音が洞穴内に響く。
「あ、あった。冷蔵庫。…あ、無理だ」
「無理なんかい」
と軽くコケるルウラ。
「鉄ブロックが…7個も必要だわ」
「鉄ブロックか。そりゃ大変だ」
鉄ブロックというのは鉄のインゴットをクラフトテーブルで3x3の9マスに置くことで作れるブロックである。
「できるっちゃできるけど、今冷蔵庫に鉄のインゴット63個は使えないわ」
「63個は辛いわな」
「さっきから他人事だなぁ〜」
「え?ま…。他人事だよね」
「え。なんで?これから一緒に生活していくのに!?」
と驚き振り返る優恵楼に
「…」
表情を崩さないルウラ。優恵楼の言葉を飲み込み
「は?」
理解した。
「これから2人で生活していくんだから少しは協力してよ」
「は?」
「いや、は?じゃなくて」
「いや、は?でしょ。オレ行商人だぞ?」
「うん。…あ、いつもってどうやって夜過ごしてんの?ゾンビとかスケルトンとか、モンスターだらけでしょ」
クラフトテーブルから離れ、イスに座る優恵楼。
「あぁ。ま、木陰とかが多いかな。シェアかハーフの絨毯を敷いて
透明になれるポーション飲んでそこで寝るって感じかな。
シェアとハーフはあいつら(敵)から狙われないから、ポーション飲むのはオレだけで充分だし」
「…シェア?ハーフ?」
「あぁ。外にいるラマ。オレの相棒たち」
「あぁ!はいはい。名前がね?」
「そ」
「なんでシェアとハーフにしたの?」
「オレ行商人じゃん?
好きな言葉に「A journey shared is a journey halved.」(苦労も分かち合えば半分になる)
(日本語でいうと旅は道連れ世は情け)って言葉があって
言い回しは違うけど、その言葉からもらったって感じ」
「へぇ〜」
急に英語が出てきて、中学や高校の英語の授業を思い出す優恵楼。
ア ジャーニー…旅か。えぇ〜っと?シェアード…シェアードってなんだ?
…あ!シェアか!シェアハピのシェアだ!それで名前がシェアか!
なるほど?旅を共有すると?ア ジャーニー ハーブド。ハーフド?あ、ハーフか。半分。
旅を共有すると?…旅は半分になる?…わからん
優恵楼は一応頭は良い方ではあったが
A journey shared is a journey halved.という英文の意訳はできなかった。
「シェアとハーフにポーション飲ましたことあんの?」
「あぁ、あるよ。美味く作ってるからな。ま、人間からしたらだけど」
「ポーションってうまいんだ?」
「…ものによるんじゃね?オレは透明と回復くらいかな。頻繁に飲むのは」
「跳躍のポーションは?」
「おぉ。よく知ってんじゃん。…ま、たまに飲むけど。便利だからな。
でも跳躍のポーションは希少性高いから、あんま飲まんな」
「シェアとハーフのご飯は小麦でいい?…ま、あんま量はないけど」
「おぉ。ありがと。でも大丈夫だよ。あいつらのご飯はあるから」
「あ、そうなのね。ま、そりゃそうか。…あ!そうだわ」
と優恵楼はなにかを思い出し、立ち上がって、またクラフトテーブルに向かう。
「あ、そっか。素材素材」
チェストから素材を取り出し、とあるものを作り、今まで使っていたベッドを取り壊す。
そして自分を少しだけクラフトで変え、さらに今までベッドを置いていた場所を
「ちょっと騒がしくてすいませんねぇ〜。失礼しますよぉ〜」
などと言いながらツルハシで掘って広げたり、周囲を木材で飾りつけたりして
色を青に染めた自分のベッド、そして
「はいこれルウラのね」
ルウラのベッドも優恵楼のベッドの1ブロック空けて横に置いた。
「オレの?」
自分のことを指指すルウラ。
「そ。ほら。ルウラ色の赤ね」
「あぁ。どう…も?」
と流来の顔に似た行商人、ルウラに会って嬉しく、興奮して
でも流来ではなくガッカリして、でも話してみるとやっぱり流来で
お互い初めて会った気がしないくらい打ち解けれれてという展開ですっかり忘れていたが
「…っ…はぁ〜…っ」
という大あくびをして思い出した優恵楼。地面の裂け目から落ち、死ぬかと思ったが助かり
でも地下世界で死ぬ思いをし、廃坑で死ぬ思いをし
心身に疲労が溜まっている上に、何日寝ていないのかわからない状態だった。
あくびをしたら疲労、眠気が一気に襲いかかってきて
瞼が徐々に閉じ、まったく抗えなかったので、青く染めた自分のベッドに移動しながら
「ごめんルウラ。続きは明日…」
ベッドに倒れ込んだ。
「おう。え。オレはここで寝るの決定なん?」
と優恵楼を見たルウラだったが、その一瞬でもう優恵楼は夢の中だった。
「はっや。…ま、ベッドで寝られるのはありがたいけどね」
ルウラも立ち上がり、コートをイスの上に畳んで置いて赤いベッドに寝転がる。
スプリングこそないが、マットレスは羊毛で作られたふかふかなマットレス。
「おぉ〜」
思わず声が出るルウラ。赤い掛け布団をかける。1ブロック空けて横で寝ている優恵楼を見る。
「…んふ…るうら〜…」
寝言を言っていた。
「誰だよ”るうら“って」
と言いながらも
「…ルウラか…。ま、人から名前呼ばれんのも久々だからな」
とどこか嬉しいのか、口角が上がっているように見えた。