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薄く徐々に目を開ける。ぼやぁ〜っとした視界が徐々に晴れていく。

見ているだけで冷たさを感じる灰色の天井。未だに夢を見ているんじゃないかと思ってしまう。

しかし優恵楼(ゆけろう)の部屋の天井は暖かみを感じるクリーム色。今見えている天井とは似ても似つかない。

ギイィという軋む音をさせながら上半身を起こす。まだ瞼が重く、重く長い瞬きを繰り返す。

そこでハッっと思い出す。それこそまさに夢のような出来事。

このブロックでできた世界での生活にも慣れてきた頃、突如現れた

親友、流来に似た行商人、リンダーレト・ルウ・ランダーワグという人物。

顔も声も髪色も背格好も性格も、親友、流来そっくりだった。バッっと左側を見る。そこには誰もいなかった。

しかしそこには赤い掛け布団が少しだけ乱れたベッドがもう1台あった。

「あ…え?」

寝起きというのも相まって整理がつかない。寂しすぎて頭がおかしくなって

流来に似た「イマジナリーフレンド」なるものを作り上げていただけなのかもしれない。

そもそもこんなブロック世界にいるというのも

もしかしたら頭がおかしくなって見ている世界なのかもしれない。

大好きなゲーム、流来と毎晩といっていいほどやっていたゲーム

ワールド メイド ブロックスの世界に、大好きな親友の流来。あまりにも優恵楼の「好き」が詰まっている。

お風呂(川での行水)に入るため、そして流来に似たルウラは

自分が作り出したイマジナリーフレンドじゃないということを確認しに外に出た。

オークのドアには4つの小さな小窓がついているため、外が晴れていることは事前に確認できた。

川のせせらぎ、優恵楼の家族になったお主とお奥(ニワトリ)の声…。

それ以外はなにも聞こえなかった。流来というかルウラの声が聞こえてくることはなかった。

「やっぱり…」

やっぱり自分が寂しさのあまり生み出したイマジナリーフレンドだったのか。

そう思い、肩を落として服を脱いでお風呂(川での行水)に入った。

服を着て、育ったフルーツを回収し、育った小麦を収穫し、種を植え

余った種を掌の上に乗せてお主とお奥にご飯をあげた。お主もお奥も食べ終えたら

「げぷぅ〜」

とゲップをした。

「そんなお腹いっぱいになるほど食べてないでしょ」

寂しげにも笑いながら自分の朝ご飯を作りに帰る。いつも通り小麦でパンをクラフトし

回収したフルーツでジュースとそのフルーツの苗木をクラフトし、外に出て川に足を入れて朝ご飯を食べる。

しっとりとした、小麦の香りが強いパンを齧り、健康的で、でも甘くて美味しいジュースを飲む。


「川で冷やしとけばいいのに」


というルウラの言葉が思い出される。

「流れてくって」

目の前で脚にあたる川の流れを見ながら寂しげに笑いながら呟く。

朝ご飯を食べ終え、フルーツのなっていた木を伐る。

そしてそれぞれのフルーツの苗木を植える。いつも通りの日課を終え

「さあぁ〜て。今日はどうするかな」

と地面に植えた木の苗木の小さな葉をさわさわ触りながら呟く。

「やっぱ探索しかないんだよなぁ〜…。いつもなにしてたっけ」

優恵楼(ゆけろう)がテレビ画面を見ながらコントローラーを持ち

ワールド メイド ブロックスをゲームとしてプレイしていたときを思い出す。

「まずはま、木伐ってクラフトテーブルクラフトして

木のツルハシ、木の斧、木のシャベル作って、木伐りまくって、土掘っていって石掘って

釜戸作って木炭作って、石のツルハシ何本か作って、どんどん地下に掘っていって

鉄とか石炭とか、ある程度物資が整ってきたらその付近に家を建て…」

と言いながら振り返る。まだ家に「い」の字もない。

かろうじて扉がついているので「い」の左の棒の書き始めくらいはある。

「家か…」

優恵楼がテレビ画面を見ながらコントローラーを持ち

ワールド メイド ブロックスをゲームとしてプレイしていたときは

家なんて簡単に…結構凝った家を建てていたので簡単にとはいかないが

割と気軽に建て始めていた。しかしいざ自分がリアルにこの世界に来てわかった。

目印のためのただ上に積んでいくだけの塔でも建てるのが怖かったし大変だった。

家となるとこれから過ごしていく大切なスペース。

設計図とまではいかずとも、しっかりと頭の中でどういう家にするのか

どこに建てるのか、本当にそこでいいのか、いろいろとしっかり考えなくてはいけない。

「…家はまだいいかな」

と思った。とはいうもののこれから過ごすところが狭いというのもなんなので

洞穴というか居住スペースを広げることにした。

石を掘るのにも慣れたとはいうものの疲れることには変わりない。

「ふぅ〜」

居住スペースを広げ、床を木材に張り替え

チェストやクラフトテーブル、釜戸などを移動させたところで一旦汗を拭う。

「だいぶ広くなったかね」

と独り言を言っていると、下へ、下へと続く階段が目に入った。

「…あぁ。そういえばなんか下掘ってたな」

と初日に下へ下へと掘っていたことを思い出した。

「そうか。この世界に来たときも自分がなにやってたか思い出してそれをなぞっていったんだ」

とそういえば自分がテレビ画面を見ながらコントローラーを持ち

ワールド メイド ブロックスをゲームとしてプレイしていたときは

地下に掘っていってディナーマイニングをしたり

地下空洞を探索してりして、石炭や鉄、ブラッドストーン、ラピスラズリ

金、銅、はたまたダイヤモンドなんかを手に入れていたことを思い出す。

「そっか。地下探索もありか」

ということで松明を1スタック、64本と松明をクラフトできるように石炭と棒も持って階段を下っていく。

一本道の階段が突き当たり、横へと折れる。たまに覗く用の穴が開いており

巨大な空洞に流れる溶岩、マグマ、そしてその溶岩、マグマで微かに照らされた周囲が見える。

階段が終わり、大空洞へと出ることができた。

左手には盾を構え、右手には松明を持ち、大空洞に1歩足を踏み出す。

右手の松明で微かに照らされる。一応優恵楼(ゆけろう)も大空洞の経験は幾度もある。

優恵楼がテレビ画面を見ながらコントローラーを持ち

ワールド メイド ブロックスをゲームとしてプレイしていたときは、基本的には流来が探検、探索担当で

優恵楼は家を建てたり、牛、羊、ニワトリなどを増やしたり、肉を焼いたり

小麦、にんじん、じゃがいもを育てたり

村人と交易したり、村人の家を作り変えたりということを担当していた。

たまに流来と探検に出て、大空洞なんかに潜ったりもしていた。しかし大概流来が先に大空洞へ行き

「たまには外出ろ」

と連れ出されて大空洞へ行くため、その大空洞までの道は整備されているし

大空洞の入り口付近も松明を設置してあり、明るく照らされている。

なので今目の前に広がる大きな暗闇をたった1人で探索するというのはかなりひさしぶりで

感覚としてはほとんど初めてに近かった。

「1人でやってたときは洞窟行ってたけどなぁ〜…」

という言葉が大きな暗闇に吸い込まれ、微かにこだまするように、広がっていくように聞こえた。

足元がすっぽりと抜けているなんてこともあるので、足元を松明で照らしながら壁に松明を設置していき

先程まで暗闇だったエリアが松明の温かな色で照らされる。

「一旦落ち着いたかな」

という言葉が先程と同じように微かにこだましするように、広がっていくように聞こえたが

先程とは違い、どこか温かみを感じた。松明の火揺れると優恵楼も揺れる。その動く影にビクッっとして

「あぁ〜…影だわ」

とセルフお化け屋敷状態になる。大空洞は傾斜がついており

傾斜の先に溶岩、マグマが流れているのが確認できる。

優恵楼は足元を松明で照らしながら、注意しながら進んでいく。しっかりと壁に松明を設置していく。

すると傾斜の先は渓谷というか、空が見えていないので地下にできた裂け目となっていた。

「うわぁ〜…」

今優恵楼がいる拓けたスペースからその裂け目の地面に降りられるわけではなく

高低差があり、簡単には降りられないようだった。

「降りるの…はまた今度でいいかな」

ということでその拓けたスペースから簡単に行ける裂け目の側面の

1ブロック分しかない、道ともいえない道をスペースを広げながら進むことにした。

1ブロック分しかないところを本当は2ブロック分でもいいのだが

念には念を込めて3ブロック分まで広げて進んでいく。途中には石炭だったり鉄だったり

「銅は…いらんわぁ〜…」

銅だったりがあった。一応銅も採掘して進んでいく。


ダイヤなんかもあったりしてぇ〜


なんて淡い期待もしていたが、高さ的にダイヤモンドが出る高さではなかったので

ダイヤモンドの輝きを見ることはなかった。

どうやらその裂け目はすごく長く続いているようで、所々に溶岩、マグマが流れているのが見てとれる。

「うわぁ〜…怖ぁ〜…」

優恵楼がテレビ画面を見ながらコントローラーを持ち

ワールド メイド ブロックスをゲームとしてプレイしていたときは

1ブロック分の幅でも悠々と進んでいたし、なんならブロックがなく道が繋がっていないところでも

※上から見た状態

■■□

■□□

■□

(■が壁、□が歩ける部分)

こんな感じじゃなくて

■■□

■□

■□

(■が壁、□が歩ける部分)

こんな感じだったとしても壁スレスレを歩いて渡っていた。

しかし実際に崖を歩くという状況になると、たった1ブロック分の幅、1メートルの幅で歩くのさえ怖い。

なのに歩ける部分がないのに、脚を伸ばして渡るなんて到底できない。

なんなら今歩ける部分の幅を3ブロックに広げ、幅3メートルあっても怖い。

「それにしても広いな…」

一度引き返して裂け目の地面に行ける階段を作ろうと思った。

「ちょうど松明も切れたし」

踵を返し、松明の明かりの下で左手首のスマートウォッチのような機械に触れ

空中に出たアイテム欄、体力ゲージ、空腹ゲージ

そして2×2、4マスのクラフト部分の横の本のイラストをタッチすると

クラフトできるアイテムがズラッっと表示される。

そこから松明をタップすると自動的にアイテムが2×2、4マスのクラフトスペースに入る。

そしてその横にクラフトされたアイテムが出るためそこを長押しする。

長押しすると1から順に数字がカウントアップされていき、64で止まる。

64、つまりほとんどのアイテムの1スタッフ分である。64本の松明をクラフトした優恵楼。

もうアイテム作りも手慣れたもんだった。

もう一度スマートウォッチのような機械に触れると空中に出ていた画面が消える。

「…よし。一旦戻るか」

とこれ以上進んでもおそらく特に目ぼしい収穫もないだろうと思い

居住スペースから下に続いた階段の先の拓けたスペースに戻ろうと歩き出したそのとき

「いった!」

優恵楼のお尻に鋭い痛みが走った。その痛みは直にお尻を思い切り平手打ちされたような痛みだった。

思わず右手でお尻をサスサスと摩る優恵楼。松明で周囲を照らす。

しかし誰もいない。誰かに思い切りお尻を叩かれた訳ではないようだ。

「カランッ」

という音に全身にサブイボが立った。その音は向かいの崖の少し上のほうから聞こえた。

優恵楼は松明を持った右手をそちらに少し伸ばした。その手は怖すぎて震えていた。

松明の明かりはぼんやりとしており、決して強い光ではない。

なので全身を照らすことはできなかったが、灰色の人間の脚と足の骨が見えた。

優恵楼の顔を引き攣らせるには足元だけで充分だった。

怖さで腰が抜け、その場にストンと座ってしまった。しかしそれが良かった。

飛んできた矢が脚と脚の間に刺さった。ビーン!という音と

刺さった勢いで左右前後に揺れている矢を目の前にして、怖さより焦りが勝って四つん這いで逃げた。

その間も左側に、脚の間になど、矢が飛んできて刺さって漏らしそうになっていた。

必死に四つん這いで逃げていると、いつのまにか矢が刺さる音が聞こえなくなっており

居住スペースに続く階段の前の拓けたスペースがすぐそこに見えていた。

「あぁ…」

相変わらず四つん這いでその拓けたスペースに戻り、壁を背に座り、今来た3ブロック幅の道を見る。

優恵楼から見える道は優恵楼が設置した松明の明かりで照らされ明るい。

そんな明かりにカランカランという骨同士がぶつかるような渇いた不気味な音を引き連れ

スケルトンが現れるかもしれないとドキドキしながらその道を見るが、スケルトンは現れなかった。

「はふぅ〜…」

ようやく一安心。一息つくことができた。

「怖ぁ〜…」

このワールド メイド ブロックスの世界に来てから一度も

ゾンビ、スケルトンといった人型のモンスターを倒していない。

いざ目の前にそんなものが現れたら…しかも相手が素手でなく弓と矢を使ってきたら…

逃げるしか選択肢がない。少なくとも優恵楼にとってはそうだった。

「…帰ろ」

ということで地下の巨大な空洞の探検はまた今度ということで

長い階段を上がっていって居住スペースに帰ることにした。

とりあえず入手した鉱石類をチャストに入れ、ふとドアに目をやった。

ドアの4つの小窓からオレンジ色の光が差し込んでいた。

「そんな時間経ってたのか…」

ギィ〜というチェストの閉まる音を背に、吸い込まれるようにドアノブに手をかけ

ガッチャッっとドアを開けて外に出た。もう空は夕暮れ。

綺麗な夕陽の陽の光が川に反射している。川辺に座り、それらを眺める。

鼻から深呼吸をする。草原の香り、夕暮れ時の少し寂しげな香りが、鼻から入り、肺を駆け巡る。

「…落ち着く」

怖さは完全に忘れたものの、怖さを完全に忘れたのは、怖さを寂しさが上書きしたせいだった。

いつもよりほんの少しだけ体にかかる重力が重く感じる。

どこを見る訳でもなく、ぼーっとする。太陽がどんどん落ちて白樺の森に隠れていく。


明日からもこの繰り返しか…


この世界に来て、戸惑ったが、好きなゲームの世界で、少しワクワクして

慣れているはずなのになにもかもが新鮮で、楽しくて、でもやっぱり怖くて…流来…


流来、ルウラの顔を思い出す。


やっぱりあれは、オレが作り出したイマジナリーフレンドだったのかな…


流来、ルウラのことを思い出したら寂しさが加速し、なんの前触れもなくスーッっと一筋涙が頬を伝った。

「おぉ。やっと起きたか」

「え?」

声のほうを向くとラマ2頭の手綱を握り、赤髪の男が優恵楼を見ていた。

「昨日丸1日寝てたからな。

昨日はいつ起きるのかわからなくて、すぐそこの川で釣りして待ってたけど

もしかしたら今日も丸1日寝てるかもと思って、ここら辺散策してきた。

でもやっぱここら辺も村なかったなぁ〜。ま、もうちょい遠出したらわからんけど」

と夕陽を見ながら言うルウラに

「うわっ。なんだよ!」

優恵楼は抱きついた。

「イマジナリーじゃなかったぁ〜…」

「は?」

事の経緯を説明した。するとルウラは大笑い。

「そんな笑うなよ」

「悪い悪い。イマジナリーフレンドね。どんだけ寂しかったんだよ」

「…悪いかよ」

空も暗くなってきたので居住スペースに入ることにした。

「ベッド自分で作っといてイマジナリーだと思うかね」

「いや、自分が作り出して作ったのかなって」

2人で夜ご飯を食べる。夜ご飯はルウラが釣った魚を焼いた焼き魚と

「お米あればよかったんだけど」

パン。

「お米かぁ〜…。あ、そうだわ。何気なく草むしりながら歩いてたら」

と言った後手を開いた。

「米の種手に入れた」

「おぉ!」

お米の種を受け取る。

「さすがはルウラ!」

「おぉ」

どこか照れるルウラ。2人で話しながら夜ご飯を食べ終える。

「でも…いいかもな」

ルウラが呟く。

「ん?」

「いや、帰る場所があるってのも」

部屋とも呼べない部屋を見回しながら言う。

「お?おぉ?デレてる?」

「は?デレてはいねぇよ。ただ今までずっと旅して、何回も村行ってるけど

取り引き終えるまでは村いたけど、取り引き終えたらすぐ出て行ってたから

ちゃんと「あそこに帰ろう」って意識するのは初めててで。

しかも自分を待ってくれてる人がいるって…。いいなって」

「ルウラ」

なんだか少しこそばゆい空気が2人の間に流れる。

「いや夫婦かよ!やめて?親友をそんな目で見んの」

「あ、お疲れ様っしたー」

と出ていこうとするルウラの腰に抱きついて

「ごめんってー冗談だってー」

と引き留める優恵楼。そんなこんなでルウラとの2人の日常が始まった。

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