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俺が美紅と初めて会ってから一年近くが経とうとしていた。俺は高校生になっていた。中の上ぐらいのレベルの都立高校で、俺の頭にしちゃ上出来な所へ入学できた。俺の高校生活はこれと言って変わった事もなく五月が終わろうとしていた。
いや、一つだけ変わった点があった。中学でもそうだったようにどこの高校にだってワルはいる。そして俺は今、その不良学生三人の前に立ちはだかっているところだ。俺の背後にはいかにも弱そうな秀才タイプの同級生が廊下の床に尻もちをついてへたり込んでいる。その不良連中が口々に俺に向かってどなり散らす。
「てめえ、一年のくせになに調子こいてんだよ?」
「俺たちゃそいつに用があんだ。それともてめえが代わりに金出すってのか?」
「邪魔なんだよ、さっさとうせな!」
俺はその同級生が金を巻き上げられようとしていた場面に通りかかって間に割って入ったってわけだ。俺は猛然と怒鳴り返した。
「あんたらこそ、いい年こいてみっともねえ真似してんじゃねえよ! 恥ってもんを知らねえのか?」
「て、てめえ……」
その三人は猛然と俺に殴りかかってきた。ここで相手のパンチをひらりとかわし……なんて事ができればかっこいいんだろうけど、俺のケンカの弱さは相変わらず。もろに顔面にパンチをくらってしまった。脇腹に蹴りが入る。よろめいたところでさらに腹にもろにひざ蹴りをくらう。
俺は相手の一人の腰に組みついて殴られようと蹴られようと絶対離れずに叫び続けた。
「俺は弱い者いじめをやめろって言ってるだけだ! あんたら三人がかりで恥ずかしくねえのかよ!」
俺があまりにもしついこいので相手も面倒くさくなったようだ。俺の体をやっと振りほどき捨て台詞を吐きながら去って行った。
「くそ、うぜえんだよ! ちっ、今日だけは勘弁してやらあ!」
顔のあちこちが焼けるように熱かった。こりゃ相当腫れあがるな、明日は。口の中では血の味がした。俺は痛みをこらえながら床にへたり込んでいた奴に声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「馬鹿野郎! 弱いくせにかっこつけるなよ!」
それが相手から返ってきた言葉だった。
「おかげで完全に目つけられちゃったじゃないか! 金渡せば済むことなんだから、余計な事するなよ、この馬鹿野郎!」
そう言ってそいつはその場を逃げて行く。そりゃ感謝してもらおうと思ってやったわけじゃないけどさ、助けてやった相手からの言葉がこれかよ、まったく……俺は左頬を手で押さえながら屋上へ向かう。その途中の廊下のあちこちからヒソヒソとこんな声がする。
「あいつバッカじゃねえの? またかよ?」
「正義漢ぶってんじゃねえよ。時代間違えてんじゃねえ? あいつ」
「ほら、またあの子よ。ああいうのが世間で一番損なのよね。高校生にもなってまだ分かってないわけ? オコチャマ!」
「あーあ、あれじゃ社会に出たらもっと大変よ。自分から馬鹿見るタイプね。ああいうのは一生出世しないんだよね」
ちっ! 全部聞こえてるっての。もうちょっと小さい声で言えよな。