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「お母さん、おはよう」
寝不足で迎えた朝、私は実家の台所で朝食の準備をしている母の背中に声を掛けた。
「美緒、起きたのね。ごはん食べれる?」
「うん、私も手伝うよ」
炊き立てご飯の香りが胃袋を刺激して、食欲なんて無かったのに、途端にお腹が空いてくる。
「美緒、お茶碗だして」
「うん」
食器棚の場所も、その中にあるお茶碗も、私が子供の頃から同じ位置に置かれていて、なんだか安心する。
「この家に戻って来ようかなぁ」
ポロリと本音が口からこぼれてしまった。
「なぁに、健治さんと上手く行ってないの?」
ちょっぴり好奇心の混ざった目を母に向けられ、言うんじゃなかったと後悔した。でも、言った言葉は取り消せない。
「うん、ちょっとね」
と、バツが悪くて、母から視線を逸らした。
私とは、反対に、母は女同士の秘密を共有して少し楽しそうに微笑む。
「まあ、両手の空いているうちなら、いいんじゃない。誰だって、失敗することぐらいあるんだから、まあ、あとで後悔しないようによく考えてね」
「そうだね。よく考えるよ」
イヤになるぐらい考えているのに、正解がわからずに困っている。
でも、昨晩、健治が家にいなかったのは事実だ。
スマホを見ても、外泊するというメッセージは入っていなかった。
健治は、私を愛していると言いながら、私を不安にさせる。
誰しも、一瞬気の迷いや日常に潜む誘惑に、心が揺らぐ事があるだろう。
でも、一生の誓いを立てた伴侶が居るならば、伴侶を思い理性を働かせるべきだと思う。
三崎君の優しさにグラグラしている私が言えないか……。
「美緒、食欲ないの?」
母の声に思考が戻る。 いけない、朝ごはんの最中だった。
「ううん、そんなことないよ」
私、慌てて止まっていた箸を動かした。
気がつけば、健治の事を考えてしまいっている。頭の中で考えるだけで、何も進まない。優柔不断でダメな自分が嫌だと思う。
こんなに気になるなら、健治に言えばいいのに……。
「ごちそうさまでした」
やっと朝ごはんを食べ終えた私は、台所に食器を下げ、それを洗いはじめた。母も食べ終えた食器を下げに台所に入って来る。
「美緒、大丈夫?」
「うん、それも洗っちゃうね!」
心配そうに眉を下げる母に笑顔で答えた。
「大丈夫だよ。それより、支度しておばあちゃんの所にいかなくちゃ。あっ、お父さん、まだ寝て居るんじゃない?起こして来るね!」
パッパッと濡れた手を振り、雑にタオルで拭った。
そんな私を見て、母の顔が綻ぶ。
「いつまでも子供みたいな事して!」
そう、年齢を重ねて大人になったはずなのに、何も進歩していない。
私は、いつも誰かが助けてくれるを待つばかりで、自分の事を自分で決断をしていない。精神的に幼かったのだ。
失敗しても帰る家もある。
だから、大丈夫だと心から思う。
「だって、お母さんの子供だもん」
あはは、っと笑いながら、私は歩きだした。
『祖母の容態が悪化して、昨日入院しました。
私も昨晩は実家に泊まり、今からまた病院に行きます。
お昼に帰えるのは無理そうです』
健治へメッセージを送り、視線を窓の外へ向けた。
父の運転する車の中、左へ曲がると緑原総合病院が見えてくる。
広大な敷地に立つ大きな建物、地域の医療を支える急性期病院。
病院のパンフレットをめくると、医院長の挨拶のページがあり、野々宮果歩の父親である野々宮重則の顔写真が掲載されていた。
写真を見た印象として、正直なところ病院の先生というより、政治家のような権力者が持つ独特な雰囲気があった。
この人が、娘の不倫を知ったなら、どういう行動に出るのだろうか?
なんて、少し意地悪な考えが浮かんでしまった。
気持ちがすさんでいるなぁ……と自分でも思う。
何の証拠もないのに、言ったところで信じてはもらえないはずだ。
なんにしても、証拠が必要なのだ。
今日だって、GPSでの追跡が失敗してしまい、健治がどこで何をしているのか分からず仕舞いだ。
確実なのは、探偵でも頼めばいいのだけれど、あっという間に100万200万とお金が掛かると聞いたことがある。
こと-koto
402
車が一台買えるほどの大金をつぎ込む価値があるのだろうか。
結婚して僅か2年で、子供もいない。そんな状態で離婚となったとして、どれだけの慰謝料が取れるのか。
ささくれ立った気持ちを静めるように大きくため息を吐いた。