テラーノベル
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どれだけそうしていただろうか。
ようやく身体を起こす気になった俺は、改めてスマホと向き合った。
確認すべきことが山ほどある。まずは、アナウンスが言っていた新しいスキルとやらだ。
ゲームを起動すると、見慣れ始めたステータス画面が表示された。
古賀 ユウマ Lv:1→2 SP:0→10
HP:12/12→14/14
MP:0/0→3/3
STR:3→4
DEF:1→2
DEX:2→3
AGI:3→4
INT:2→3
VIT:2→3
LUK:3→5
所持スキル:未知の開拓者 曙光
「レベルが、上がってる」
Lvの数字が2に変わっていた。ゴブリンを倒したからだろう。
合わせて、各ステータスの数値も軒並み一つずつ伸びている。レベルアップボーナス、というやつだろうか。なぜかLUKだけは二つ増えていたが。
それと、MP。ずっとゼロだったその数値が、いつの間にか3になっている。
「……なんで増えたんだ?」
INTが上がったからか、それともレベルが上がったからか。どちらにしても、魔力とやらが身体に増えた実感は欠片もない。分からないものは保留だ。
それよりも目を引いたのは、SPの数字だった。
「10!?」
最初に貰えた数が3だ。レベルがたった一つ上がっただけで、その三倍を超える数が手に入るものなのか?
答えを探して、俺は所持スキルの欄へと目を向けた。
【未知の開拓者】と【曙光】。
まずは前者をタップする。
≫【未知の開拓者】
≫未来を切り拓く人間だけが持つ可能性。この世界におけるすべての未来は未知であり、あなたが切り拓いた未来が既知となる。
≫どんな未来を切り拓くのかはすべてあなた次第。
「…………で?」
思わず画面に向かって問いかけてしまった。
書かれているのは、それっぽい雰囲気の文章だけ。肝心の効果が、どこにも見当たらない。何度読み返しても同じだった。
わざわざ同意まで取り付けて寄越したのが、効果不明のポエム一枚。
「期待した俺が馬鹿だったよ……」
ため息まじりに、続けて【曙光】をタップする。
≫【曙光】
≫未来を切り拓く人間が照らす世界に告げる夜明けの光。
≫モンスターを倒した際に得る経験値量を増やし、Lvが上がった際に獲得するSPが二倍となる。
「……チートやんけ」
素でツッコミが出た。
経験値の獲得量が増えて、レベルアップで貰えるSPは二倍。
SP10の謎はこれだ。本来は5のところ、このスキルのおかげで倍になっている――そういうことだろう。
効果不明のポエムの直後に、この大盤振る舞い。落差で頭がくらくらしてくる。
(『選択した種族内で、初めてモンスターを討伐した』、だったよな)
ボーナススキル、ともあの声は言っていた。
つまりこの世界には、俺以外にも『種族:人間』を選んだプレイヤーがいる。その中で、俺が一番乗りでモンスターを倒した。そういう理屈になるはずだ。
……だったら、その他のプレイヤーは今どこにいる? この街には、人っ子一人いないのに。
嫌な想像が頭をよぎった、その時だった。
≫≫事前登録者特典の付与条件を確認しました。
≫≫特典:サバイバルセット が倉庫に付与されます。
「今度はなんだよ……って、事前登録者特典?」
そういえば、このゲームは広告に釣られて事前登録をしていたんだった。まさかこんな形で恩恵に与れるとは。
「で、倉庫ってなんだ」
画面のあちこちに触れて探し、試しに右から左へとスワイプしてみる。
すると、画面が切り替わった。
左上に『倉庫』の文字。横に三行、縦に十列のマス目が並び、左上の一マスにだけ宝箱の絵が表示されている。
宝箱をタップすると、案内文が現れた。
≫サバイバルセットを開封しますか? Y/N
迷わず『Y』を押す。
瞬間、倉庫のマス目が一気に絵で埋まった。
一つずつタップして確認していく。食料三十日分、水三十日分、皮のバックパック、麻のシャツ、麻のズボン、皮の靴、防寒用ローブ、火打石、応急セット。
「靴があるッ!」
思わず声が出た。
慌ててアパートを飛び出したせいで、俺はずっと裸足のままだ。足の裏はもう、擦り傷と切り傷だらけだった。
俺は皮の靴のマスをタップして『Y』を選ぶ。
……何も起きない。
あれ、と思って瞬きをした、その一瞬の間。気が付くと、目の前に無骨な皮の靴が置かれていた。
「いつの間に!?」
もう一度、今度は水を選んで、瞬きをしないよう目を見開いたまま『Y』を押してみる。
……出てこない。画面の前で睨めっこすること数十秒。限界が来て瞬きをした瞬間、2Lのペットボトルが目の前に転がっていた。
「見てる間は出てこないって、どういう理屈だよ……」
考えるだけ無駄、というやつだろう。ゲームの数値が現実の肉体に反映される時点で、今さらだ。
ついでに、とゴブリンが残した錆びた包丁を倉庫にしまえないか試してみる。マス目に向けてスマホをかざしても、「収納」と唱えてみても、うんともすんとも言わない。
どうやら、現実の物をしまうことはできないらしい。あくまでゲーム側から取り出す、一方通行ということか。
俺は水で足の傷を洗い流し、応急セットの消毒液と絆創膏で簡単な処置を済ませた。麻のシャツとズボンに着替え、皮の靴に足を通す。
ようやく人心地がついたところで、思い出したように腹の虫が鳴いた。
食料を一日分取り出すと、缶詰が三つと乾パン缶が三つ出てきた。開けた缶詰は桃缶。砂糖水に浸かった桃の、程よい甘さが空きっ腹に沁みる。乾パンを水で流し込み、あっという間に平らげた。
「……生き返る」
残りの食料と水、着ていたTシャツや応急セットをバックパックに詰め込んで、準備は整った。
「出発前に、ステータスも上げておくか」
SPは10。
順当に考えれば、STR、VIT、AGIあたりが鉄板だろう。だが――ふと、LUKの欄が目に留まった。
レベルアップで唯一、二つ伸びていた数値。
試しに、と俺はLUKをタップして『Y』を押した。
LUK:5→7
「……は?」
SP一つで、二つ上がった。
見間違いかと、もう一度。
LUK:7→10
「今度は三つ!?」
他のステータスはどれも、SP一つにつき一つしか上がらない。それなのに、LUKだけ明らかに上昇率がおかしい。
――種族補正。
ふと、その言葉が頭に浮かんだ。
種族選択の、あのリスト。種族名の横に並んでいた、補正値らしき記号の羅列。人間の欄は、どう見ても一番地味だった。
けれど、もしかしたら。あの地味な並びの中で唯一、人間に与えられていた補正が――この、運の伸びやすさなのかもしれない。
「最弱のくせに、運だけは伸びる種族ってか? ……せめて筋力にしてくれよ」
ステータスとモンスターが支配する世界で、よりにもよって運。笑うしかない。
……いや、待てよ。
汗で滑った指が、よりにもよってリストの一番上の『人間』を選んだ、あの瞬間。
あれも、この『運』とやらの仕業だったりするのだろうか。
「…………まさかな」
俺は頭を振って馬鹿な考えを追い出すと、残りのSPを割り振っていった。
古賀 ユウマ Lv:2 SP:10→2
HP:14/14→18/18
MP:3/3
STR:4→5
DEF:2→3
DEX:3→4
AGI:4→5
INT:3
VIT:3→5
LUK:5→10
所持スキル:未知の開拓者 曙光
残ったSP2は、予備として取っておく。割り振りの振り直しは出来ないようだし、必要な場面が来たら使えばいい。
最後にもう一度画面を確認して、俺は立ち上がった。
ゴブリンが残した錆びた包丁を拾い上げる。全体に錆が浮いて、切れ味なんてあったものじゃない。それでも、目を突けば潰せるし、振るえば打突にはなる。こんな見た目でも、武器は武器だ。
「……行くか」
目指すは東。東京の要所、新宿だ。
この世界がどうなっているのか。俺以外のプレイヤーはどこにいるのか。それを知りたければ、まずは人と物が集まっていた場所へ向かうのが筋だろう。
ここから新宿までは約四十キロ。道が生きていれば半日の距離だ。この有様なら、もっとかかるかもしれないが。
歩き出しながら、ふと思う。
トワイライト・ワールド。直訳すれば――黄昏の世界。
崩れ果てた街に、人の代わりに化け物が蔓延るこの世界には、嫌になるほど似合いの名前だった。
コメント
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読み終わりました!第5話、じっくり世界の仕組みが見えてくる面白い回でしたね。 まず「曙光」のスキル効果、SP二倍は確かにチート級ですね(笑)。でも効果不明の「未知の開拓者」とのギャップがまたニクい。あのポエム、絶対後で効いてくるやつですね。 個人的に一番グッときたのは靴を手に入れた時の「靴があるッ!」。裸足で切り傷だらけで走り回ってたユウマの地味な苦労が報われて、こっちまでホッとしました。サバイバル要素って小さな充足感が沁みますよね。 それと、人間種族だけ運の伸びが異常なの、逆に「最弱のくせに運だけ」って設定が憎い。最弱種族の逆転フラグっぽくてワクワクします。次も楽しみにしてます!