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「阿部ちゃんの手って、なんか可愛いよね」
『可愛い?そうかな?』
「うん、可愛い。なんでだろ、爪が小さめで丸いからそう見えるのかなぁ」
男友達の阿部ちゃんとサシ飲み中、グラスを持つ彼の手を見てそう言うと、阿部ちゃんは意外そうに目を丸くして自分の手を眺めた。
『手自体はそれなりに大きい方だと思うんだけどなぁ。よく顔と比べて手が大きいって言われるし』
「それは顔が小さいせいなんじゃない?私、阿部ちゃんの隣に並ぶと女やめたくなるもん。なんかもう全部が可愛すぎて」
『そんなに?笑 じゃあちょっと大きさ比べてみよう、手貸して?』
はい、と手を差し出すと、彼は私の手のひらに自分の手のひらを合わせて比べ始めた。
『ここの位置合わせて…はい、こんな感じ?』
「おお…結構大きさ違う…」
『そりゃまあ、俺も男だからね』
手首の位置をしっかり合わせて重ねてみると、思っていたよりもずっと大きさの差があって。
いわゆる女性らしい手とは言えない私の手だけど、それでも阿部ちゃんの手と比べるとだいぶ小さくて華奢に見えた。
自分にはない、はっきりとした手の甲の筋や関節の感じなどを興味深く観察していると。
「えっ、」
不意に、私の指に彼の指がするりと絡められて、驚いて少し身を引いてしまった。
そんな私の反応を見て、阿部ちゃんは上目遣いにこちらの表情を伺ってくる。
『嫌だった?』
「嫌じゃないよ…ちょっと、びっくりしただけ」
『ん、よかった』
てっきりそれで離してくれると思ったのに、いつまでも指は絡まったままで。いつもと違う距離感に、何だかドキドキしてきてしまう。
「え、ちょっと、本当に何?どうしたの?笑」
早まる鼓動が阿部ちゃんに気づかれてしまわないようにあえて笑ってみせたけれど、私の目を見つめ返す阿部ちゃんの顔は笑ってなどいなかった。
『〇〇があまりにも俺のこと男として見てくれないから、ちょっと悪戯してやろうと思って』
「…へ、」
『〇〇は男心わかってないみたいだから、教えてあげる。
可愛いは褒め言葉なんだろうけど、それを好きな子に連呼されるのはあんまり面白いもんじゃないんだよ?』
「……はぁ!?」
さらっと放たれた「好きな子」というワードに、私は心底驚いた。
「だ、だって今までそんな気配微塵も、」
『〇〇が気づいてなかっただけだよ。この鈍感女』
「ど、鈍感女って…」
酷い言われようだ。元々仲良くなると毒舌になる傾向がある人だけど、今日の阿部ちゃんは随分と口が悪い。何だか調子が狂ってしまって、私もいつものようにポンポン言い返すことができない。
そんな私を見て、彼は満足げに微笑んだ。
『顔が赤いところを見ると、全くチャンスがない、ってわけじゃないみたいで良かった』
「…赤くないし」
『赤いし笑 ……あー、ほんっと可愛い、』
今まで聞いたことがないほど愛おしそうな声でそんなことを言って頭を撫でてくるから、もう顔から火が出そうだ。
それを悟られないように阿部ちゃんに背を向けてグラスを傾けると、背後からはくすくす笑う彼の声が聞こえてくる。ああ、これはバレてる。確実に。
観念して、恐る恐る横目で様子を伺う私の視線を、彼は待ってましたとばかりに捉えた。
『今すぐ付き合ってとは言わないから、これから少しずつ俺のこと男として見てみてよ。
言っとくけど、これからは容赦しないよ?
どんどんアプローチして、絶対俺のこと好きにさせてみせるから』
覚悟しとけよ、と言って妖しく笑う彼に堕ちる日は、きっともう近い。