テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「好き。愛してる。」
そんな言葉が素直に言える日がくるまでの
甘くて苦い、初心な僕たちの軌跡のお話。
side元貴
「元貴ー!学校行こー!」
「行かなーい。」
僕らの朝はこの会話で始まる。
若井が毎朝誘いに来るからだ。
それが僕はどうにも怖くて、ずっと恐怖のピンポンと呼んでいた。
いつだってみんなの中心にいるような若井と、教室の端っこで1人静かに音楽を聴いたりしているような僕。
正反対な僕らが交わるようになったきっかけは今年の秋にあった修学旅行。
若井からの「大森くん!話そうよ!」という猛烈なアピールの中、班が同じになってしまって少し不安に思っていたのだが、いざ話してみると見事に意気投合した。
少しギターを触っているらしく、曲作りをしていると噂のある僕と話してみたかったらしい。
中1の頃にもクラスが同じで席が前後になったりしたことがあったため、若井の背中にちくちくペンを当てたりするなど、少しばかり関わりはあったのだが、それも微々たるものだった。
それからすぐに一緒にスタジオに入った。
まぁ、僕の大っ嫌いな一軍陽キャだったヤツが急に「俺、ギター始めたから、元貴スタジオ入ろうよ」って言い出した時は待て待て、何を言ってるんだって困惑したけど。
少し面白いかも、と思って入ってみたら楽しかったんだよね。
まだギターを触って間もないから作り出す音は拙いけど、若井の才能はこれから先絶対光るってその時僕は不思議と直感したんだ。
…
「元貴ー!学校行こー!」
今日も朝から元気な声が響いている。
通学路が違うのにいつも迎えに来てくれる若井はほんとに優しいと思う。
卒アルに写らないのは嫌だし、学校もそろそろ行かないとな、と思っていた僕は寝ぼけ眼でドアを開ける。
若井「えっ、元貴!お、おはよ!」
いつも2階から返事をするだけだったので
いきなり出てきて相当驚いている様子。
大森「今日、学校行く…。」
若井「お!ほんと!?なら待っとくね!」
ぐいっ
「え」
大森「外寒いだろうから入って。」
若井を玄関に引きずり込んだ。
今日母さんいないし仕方ない。
僕は低血圧で朝が弱いので、若井に支度を手伝ってもらうことにした。
初めて僕の家に入ったからか、若井はずっとそわそしていて、落ち着きがない。
今日は時間割変更があるらしいので、若井に必要な教科書などをいれてもらう。
その間に僕は制服に着替える。
若井「あ、元貴ボタン掛け違えてる。」
大森「んえ、あぁ、ありがと。」
着替えが終わったら朝ごはん。
若井はいつも早めに来てくれるから意外と余裕あるんだよね。
いつも通りテーブルの上にご飯が置いてある。
今日のメニューはスープとスクランブルエッグ、ベーコン、トースト。
ちらっと若井の様子を伺ってから、少し口を開けて待つ。
「あー…」
若井「えっ、俺が食べさせるの?」
大森「ん、だめ…?」
若井「別にいーけど…」
やった。なるべく朝は動きたくないんだもん。
わたわたしながらスクランブルエッグを口に運んでくれる若井。
大森「ん、おいし…」
数口食べさせると慣れてきたのか、さくさくと食べさせてくれる。
自分が食べてる訳じゃないのに、僕と一緒に口開けてるのちょっとおもしろいかも。
大森「ごちそーさまでした。」
食べ終わったら食器をつけてトイレに行って。
鞄を持って家を出る。
みんなには慣れていることかもしれないけれど、僕にとってはあまりしないことの連続で少し疲れちゃう。
大森「いってきまーす。」
学校に向かいながら、ずっと思っていたことを聞いてみる。
大森「ねぇ、なんで毎朝来てくれるの?」
若井「元貴と一緒に学校行きたいから。」
即答だった。
あまりにもはっきりと、輝くような笑顔で言うから僕の方が狼狽えてしまった。
大森「…ふぅん。」
必死に平静を装ったけど、少しだけ声が上ずってしまった。
きっと耳も紅く染まっていたに違いない。
学校に着くまでは他愛もない話をたくさんした。それはギターの事だったり、それぞれの好きな物の話しだったり。
あっという間に学校に着いた。
靴を履き替えて教室へ向かう途中、若井が不思議そうに尋ねてきた。
若井「今日は保健室じゃないの?」
これからは若井がいるから教室に行けるはず。
その期待を持って、僕は
大森「頑張ってみるの。」
と答える。
若井「そっか。偉いね。」
にこっと微笑んで頭をわしゃわしゃっと、撫でられた。
大森「ちょ、やめろ、!」
戯れているうちに教室に着いた。
教室に入るやいなや、若井はクラスのやつらに連れていかれてしまった。
大森「まぁ、わかってたけどね。」
また1人で音楽を聞けばいいし。
少し寂しくなったけれど、気にしないフリをしてプレイヤーの再生ボタンを押す。
若井「元貴!ごめんごめん、あいつら引っ張っていくから…って今忙しかった?」
え、戻ってきてくれた?
僕といることを選んでくれたの?
慶びで 僕には若井がなんて言っているかなんて、もう聞き取れなかった。
若井は、そのまま僕の向かいの椅子に座って話しかけてくれる。
それが僕にはすごくすごく嬉しかった。
コメント
2件
もう!良すぎ!知ってる内容から付け加えられてるとこがもう…妄想したらニヤけるねぇ笑 まだまだ次も楽しみにしてる!