「暗めの色……ですか?」
「もしかして、無理なのか?」
「いえ、出来ますけど……本当に良いんですか?」
「ああ、うん。ちょっと、今のままじゃ駄目でさ……」
そう話す朔太郎はどこか少し悲しげで、余程の事があって色を変えるのだと悟るスタイリスト。
出来ればその理由を知りたいと思うも、プライベートな事を根掘り葉掘り聞けないのでそこには触れず、
「そう、なんですね。分かりました。それじゃあまずはお色の相談からしましょうね」
カラーのカタログを手にしながら朔太郎が納得出来るカラーリングをしようと色の相談をしながら作業を開始した。
それから約二時間、カラーリングの途中で三葉に迎えの連絡をしていた朔太郎は美容院を出ると、三葉が待つ駐車場へと歩いて行く。
「悪かったな、わざわざ来てもらっちまって」
「いえ、全然! っていうか、それよりも、朔太郎さん、その髪……」
「これな、何か違和感しかねぇよな。暗い色にするのって久々だから、全然慣れねぇや」
カラーリングを終えた朔太郎を前にした三葉もまた、酷く驚いた様子でマジマジと朔太郎を見つめていた。
初め朔太郎は鮮やかな赤髪から黒髪に戻そうと考えていた。
しかし、ずっと赤色でトレードマークになっていた事、どこか迷いがあった事に見兼ねたスタイリストが『いきなり黒にするよりも、まずはダークレッドにするのはどうですか?』と提案。
それを聞いた朔太郎は迷った末に、今回はダークレッド色に変える事を納得した。
「本当は黒に戻すつもりだったけど、やっぱり俺、赤髪気に入ってたし、担当の美容師もダークレッドならだいぶ雰囲気変わるって言ってたからさ、今回はこれにしたけど……覚悟、足りてねぇかな……」
助手席に座ってシートベルトを締めながら、朔太郎は三葉に意見を求めていく。
「……俺からすれば、十分覚悟したんだって思います! だって、それ、咲結さんの為、ですよね? やっぱり親御さんに派手な髪色、指摘されたんですか?」
「まあな。けど当然だよ、指摘されるのは。赤髪で鼻にまでピアス付けてんだぜ? 親なら当然の反応だって思うから、そこについては仕方ないって思ってる。別に髪を染めろとかピアス外せとは言われなかったけどさ……変えられる事はやるべきだって思ったんだ」
「朔太郎さん……」
三葉は思う、大切な彼女の親に少しでも理解してもらう為に出来る事をやろうと行動して、すぐに髪色を変えた朔太郎は格好良い人だと。
「やっぱり朔太郎さんは格好良いです!」
「何だよ急に」
「いつも思ってるけど、想像以上ですよ、本当に!」
「もういいって、そんなんいちいち言わなくて……」
突然褒められた朔太郎は恥ずかしさから顔を背けてしまうも悪い気はしないようで、少しだけ口元が緩んでいた。
家に着いてすぐに同居している組員数人と顔を合わせると、
「あれ? 朔太郎さん髪染めたんすか!?」
「鮮やかな赤も似合ってましたけど、暗めの色も似合ってますね!」
「そうか? 暗い色は久々で慣れねぇけど、そう言って貰えて嬉しいよ、サンキューな」
朔太郎の髪色に驚きつつも、高評価を受けて徐々に元気を取り戻していく。
「あ、それはそうと、組長からの言伝で、帰ったら部屋へ来るようにって言ってました」
「理仁さんが? 分かった」
組員の一人に、理仁から部屋へ来るよう伝えられた朔太郎は自室へは戻らず理仁の元へ向かう。
「理仁さん、今戻りました」
「わざわざ悪いな、入ってくれ」
「失礼します」
外から声を掛け、入るよう促された朔太郎が部屋の中へ入る。
「まあ、その辺に座ってくれ」
「はい」
机に向かって背を向けて何か作業をしていた理仁が朔太郎の方へ向き直り、真っ先に目に付いた髪色に一瞬驚きつつもそれには触れず、
「三葉から聞いたが、咲結の両親と鉢合わせたみてぇだな」
本題に入っていく理仁。
「はい……」
「大丈夫だったのか?」
「難色は示してました……その、俺の見た目に……」
「そうか。それで髪を染めてきたんだな」
「はい」
「まあ、大切な娘の親なら至極真っ当な反応だろう。そんな中、すぐに行動に移したお前は流石だと思うぞ」
「理仁さん……」
「けどな、分かってると思うが、問題は見た目の事だけじゃねぇんだぞ?」
「……それは、……そう、ですよね」
「その辺りの事は、どう考えてんだ?」
「…………っ、」
理仁の言う『問題』――それは、自分たちが身を置いている『鬼龍組』という組織についての事。
彼らにとって、髪色やピアスなんて大した問題じゃなくて、本当の問題は極道の世界に足を踏み入れている事。
理仁はその事について、朔太郎がどう考えているのかを問い掛けていた。







