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(あたしは平塚麗三、53才。息子の葉也途は奨学金を使い自力で、関西の大学へ進学した。あたし達親子は東京~京都と遠く離れ暮らしている。そう、あたしはシングル、今はね。でも……これまで結婚は……? 聴いたら驚くわよ? 25回してんの! えへへ。なんかさ、噂によると世界一結婚回数の多い女性は23回って有名な本に載ってるらしいよ! あたしのほうが……なんというか、自慢になるかどうかは置いといて、多いじゃない? でもめんどくさいからそういう本の会社に連絡なんかしないわ)
「あ、おはようございます、ララさん」
「おはよ! 佐藤君」
今日も『夢と黒猫』の一日が始まる。
麗三の源氏名は『ララ』だ。『夢と黒猫』はちょっぴりセクシーなお店だ。
彼女は途中ブランクがありながらも、正味この道20年以上のベテラン蝶々だ。
若いボーイの佐藤君がテーブルを拭いている。モップ掛けは終わったらしい。
「おっはよ~、ララ姐さん」
「おはよう、里菜ちゃん、いつも早いね! あたしが一番だって思ってくるのに、必ず里菜ちゃんが居るんだもん、ウフ」
肩にかかっている長い黒髪をくるんサラッと払いながら笑顔のララ。
「うん、ララ姐さん、あたし心配性なの。遅刻しちゃいけないっ! と思ってお店が始まる2時間前には入ってんの」
「え! そうだったの~! スゴ!」
時計を見るララ。時計の針は11時をさそうとしている。
「じゃあ10時に?」
「そうよ、ララ姐さん」
「キャハハハハ!」
なにかと笑い姦しい蝶々たち。
「ああ、ララ姐さん」
「なぁに?」
「ララ姐さんのお客さん、もう外で待ってるのよ!」
「え~、早い~」
お客様はもちろんお店の玄関から入られるが、女の子達は裏のドアから出入りする。
この道でベテランだが、ララが『夢と黒猫』で働き始めてからはまだ3年だ。
直近の離婚が約3年前だった。その結婚生活はわずか一週間で幕を閉じた。結婚するまでのお付き合いはなんと、たったの1カ月。そりゃぁわかんなかったよね、いわゆる……マザコンの男性だったなんて。びっくりしちゃった。
息子の葉也途は大変明るくちょっぴりドライでユーモアがあり、タフな子に育った。
(色々あったのにな~)
本当に母・麗三は息子に対して感謝の思いが溢れてやまない。独身の時期は、麗三が働き通しでさみしかっただろうに。葉也途は学校や学童の先生、小さな頃は保育所の先生、また民間のお手伝いさんにもとてもかわいがってもらったのだ。
麗三がこれまで一緒になった元夫は、真面目なサラリーマンもいれば、パチンコばかり行ってよそに女を作るようなダメンズもいた。どちらかと言えばダメンズ界隈が多かった。だからこんなに離婚したのよ。
ま、懲りずに何度もよく結婚したね、と返ってきそうだが……。麗三は好きになると直情型。いつも一緒にいなきゃヤダ! という感じなのだ。
25回の結婚のうち、プロポーズしてきた男性は葉也途の父親だけだった。が、彼は麗三の妊娠を知ると行方知れずになってしまい、葉也途が生まれた時に彼のそばにいたのは既に義理の父親だった。
が、その葉也途にとって一番最初のパパは、わずか1カ月の家族生活の末、家出をしどこかへ消えてしまった。
読者のみなさんはついて来れているのだろうかと、麗三が心配している。
「おはようございま~す」
女の子の待機室に安湖ちゃんが入ってきた。大阪出身で関西訛りのあるキュートな安湖ちゃんだ。
「おはよ!」
声を揃えてララと里菜。
12時からのお昼の部は女の子がララを含め5人だ。待機室は共有でいつも賑やか。みんな仲良しだ。
開店30分前だ。十木恵ちゃんと遥ちゃんはのんびり屋出勤。たま~に、昔風に言えば社長出勤をし店長からお目玉を食らっている。でも、二人は支度が早く、あっという間にロッカールームから衣装に着替え出てくる。
今日のララの衣装は、濃いめのパープルに羽のついたお色気たっぷりのもの。女の子達は皆、自前でミュールを持ってくる。ララはショッキングピンクのハイヒールだ。ネイルはサロンへは行かず、好きだから自分で施す。今日は深紅をベースにシルバーとゴールドでリボン型のラメを散らしている。
「ララ姐さん、いつも可愛い!」と遥ちゃん。
「サンキュ!」
「ララ姐さんてさ、絶対ウソついてるよね?」
イタズラな笑みを浮かべキャッキャと安湖ちゃん。
「53才とかありえへんもん、ウチより年下やろ?」
安湖ちゃんは35才だ。
「あたしは正直者ですよ~」とララ。
皆、実に美味しそうにタバコを吸う。ララは10年前にタバコもお酒も辞めた。
14回目の結婚の後だ。14人目の夫が超ヘビースモーカーの大酒飲み、それに嫌気がさしてしまったのだ。
騒々しいほどに華やかな待機室に、ボーイのリーダー名木さんが現れた。
「ララさん、今日店に数名のお客様からお電話いただいていますよ。『この間のララちゃんっていう子、今日いるの?』って、忙しくなりそうです! よろしくね!」
「ハ~イ」
ララはお店で一番年上の嬢だが、売り上げナンバーワンだ。
「ララ姐さん、さっすがー」と里菜ちゃん。
十木恵ちゃんも「いいな、いいな~」と盛り上がる。
そうこうしていると開店10分前。爆音で派手でキラキラした音楽が流れ始めた。店内の営業中はいつもこうだ。
(よ~し、今日も5時間頑張る~)
ララは夕方5時までの勤務だ。
「いらっしゃいませ~」
まずは開店前からララの接客を楽しみに外で待っていたララのお得意様がいらした。