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「16時半になっちゃった。会合、長引いてるのかなぁ」
1時間くらいで終わると言われていたけど、その時間はとっくに過ぎている。あくまで予定だからズレることもあるだろう。少し遅くなったところで自分はさほど困らない。でも、リズが心配だった。
知り合いばかりとはいえ、大人に混じって長時間会合に参加するのはきっと大変なはず。レオンだって子供だけど、彼の感覚は一般的な子供としてはあまり参考にならない気がするし……
テーブルの上に置いていた本を1冊手に取った。もうしばらく部屋で待つ事になりそうなので読書の続きをしよう。ページを開くと、間に挟み込んでいたブックマーカーがしゃらんと鳴った。先端に青色のビーズ飾りが付いていて、まるでアクセサリーのような金属製のブックマーカー……。ジェフェリーさんからプレゼントして貰った物だ。
チャンスがあれば魔法についてそれとなく聞きだしてみるとリズは言っていたけど……どうなっただろうか――
「クレハー!! 俺! 俺が来たよ。あーけーてー!」
「えっ、誰……?」
反射的に誰だと口走ってしまったが声で分かる。それに、こんな軽い調子で話しかけてくる人は限られているから。
「ルーイ様!」
確信を持って訪問者の名前を呼ぶ。その後、扉をノックする音が部屋に響いた。順番が逆じゃないのかな。普通呼びかける前にノックをするのでは?
「クレハ様、リズもいます!」
ノックをしたのはルーイ様ではなくリズだった。ルーイ様とリズ……このふたりが私を迎えに来てくれたのだろうか。その役目は『とまり木』の誰かだと思っていたのに……
「待ってて、すぐに開けます」
本を再びテーブルの上に置くと、私は急いで扉に向かった。
「やあ、クレハ。調子はどうだ?」
「こんにちは、ルーイ様。私は変わりありません」
膝を曲げてカーテシーを行うと、ルーイ様は私の頭を優しく撫でた。
「レオン達との話し合いは終わったのですか?」
「いや、中断してるだけ。でも時間も押してるし、今日はこれでお開きになるかもな」
想像以上に話し合いが難航しているようだ。よく見ると、ふたりの顔には疲れの色が浮かんでいた。
「少し席を外して気分を変えてくるようにと、レオン殿下のご采配です」
「俺はそんなリズちゃんにくっ付いてきたの」
ふたりが私を呼びに来たのは息抜きも兼ねているらしい。なるほどなと納得していると、ある事に気付く。この場にはルーイ様とリズ、それに私しかいない!! 今ならジェフェリーさんの話を聞くことができる。
「クレハ達、俺に尋ねたいことがあるんだって?」
「あっ、えっと……」
私が言うよりも早く、ルーイ様から打診された。これはどういう状況なのかと、説明を求めてリズに視線を送る。彼女は決まりが悪そうに眉の端を下げた。
「私の態度から何かあると察して下さったのです。殿下や『とまり木』の方達に悟られないよう配慮して頂きました」
「でもさぁ……さっきレオン達と信頼関係を高め合ったばっかりだよね。それなのに俺達ときたら、数刻と経たないうちに離れた場所でこっそりと内緒話。悪いことしてるわけではないけど、ちょっぴり後ろめたくなっちゃうね」
「それは……」
「まっ、信頼してるからって何でもかんでも話せばいいってもんじゃないしね。黙っていた方が良い事だってある。誤った選択をして、誰かを傷付けてしまうことだってあるんだから……」
ルーイ様はソファに腰を下ろした。私とリズにもそちらに来るよう手招きをしている。
「ふたりの選んだ選択はどうだろうね。あまり長居はできなそうだけど、とりあえず座ろうか。秘密のお話……俺に聞かせてちょうだい」
私達なりにしっかりと考えた上での行動だ。間違っていないと思いたい。私とリズもルーイ様と向かい合うようにソファに座る。
「クレハ様、私から先生にお伝えしても良いでしょうか?」
「うん、分かった。お願いね」
私よりもリズの方が受け答えがしっかりできるだろう。ジェフェリーさんが使っていたという魔法を、実際に目撃したのは彼女なのだから。
「ルーイ先生、私は先生にお尋ねしたいことがあると言いましたが……実は、先ほどの会合内で問題はおおよそ解決しているのです」
「えっ?」
私とルーイ様は揃って声を上げる。解決したって……どういうこと?
「私とクレハ様は、ある人物が魔法使いかそうでないかを確かめたかったのです。だから先生に、見分け方などがあれば教えて頂きたかった……」
「あー……したね、そんな話。でもその質問をしたのはルイス君だったかな」
「はい。偶然にもルイスさんが私の知りたいことを聞いて下さいました。でも、外国の魔法使いを見た目で判別するのは困難との答えでしたので……残念でした」
瞳に変化も無く、見た目に特徴が出ない。それがルーイ様が出した回答。しかし、リズはジェフェリーさんの件は解決したと言った。何からそう判断したのだろう。
「その会話の中でレオン殿下からこのような発言が出ました。釣り堀で事件が起きた当日……そして、ここ最近の数日間において、王都に他国の魔法使いは存在しないと……。殿下自ら調べられた結果で、先生もそれが1番正確だとおっしゃいました」
「それって……」
「はい。殿下のお言葉で確信したのです。あの方は魔法使いではない」
ジェフェリーさんは王都に住んでいる……更に職場は私の家だ。もし彼が魔力を持っていたならレオンに見つかっていたはずなのだ。それが無いということは、彼が魔法使いじゃないという証明になる。
「ふたり共、俺にもうちょっと詳しく教えてくれないかな。その疑惑の人物って誰なのさ? ふたりがそこまで慎重になるなんてどこのどいつか気になるよ」
私達の話に興味が湧いたようで、ルーイ様は詳細を話すようせっついて来た。
「まだ、誰にも言わないでくださいね」
ルーイ様にしっかりと忠告をしてから、リズに目配せをする。彼女は静かに頷いた。そして、その名前を口にする。
「その方の名はジェフェリー・バラード。私と同じ、ジェムラート家にお仕えしている庭師です」