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オフィスの時計が11時40分を指したころ、業務の合間にルカが突然話しかけてきた。
「なぁなぉ、ネグちゃん?」
背後からふいに声が飛んできて、わしは目をぱちくりと輝かせた。”ネグちゃん”とは、ルカがわしにつけた謎のあだ名…まぁ、可愛いから少しは気に入っているが……
呼ばれた瞬間、斜め向かいの席に座る夢魔の表情がピクリと動いた。その隣のすかーは明らかに眉をひそめ、肩がピクついている。
「おいルカ、お前……」
すかーが、注意しようとした瞬間、
「ん?なぁに?ルカちゃん??笑 」
わしは薬と笑ってら少し煽るように首を傾げた。声のトーンもあえて高めに、猫なで声に近いニュアンスを含ませた。
ルカの目が一気に輝いた。
「やったー!名前呼ばれた!!」
満面の笑みでガッツポーズを決めるルカに、思わずわしも、「ふふっ」と小さく笑ってしまう。
その笑みを見た瞬間、すかーは机をコン、と小さく叩いて立ち上がりそうになり、夢魔は明らかに書類の角をぐにゃっも握りつぶしていた。
「…なんや、あれ」
「軽すぎんじゃねぇのか?あいつ…」
どちらも声は小さいが、嫉妬を押隠すには不十分だった。
昼休みになり、社員たちがぞろぞろランチに向かって動き出す中、わしも休憩に入る。ルカとか席を立つが近いこともあって自然と2人並んでご飯を食べていた。
会話はくだらないものだった。最近見たアニメの話とか、コンビニの新作スイーツのこと、わしが真面目な顔で「あのプリン、カラメル少ないよね」なんて言えば、ルカは大袈裟に笑って「めっちゃわかるー!!」と拳を握る。
……ほんと、うるさい。でも、どこか楽しくて、自然と笑ってしまうのだった。
食後、紙コップのカフェラテを飲みながら一息ついていると、突然ルカがふっとこちらを見て言った。
「なぁ、佐藤?今日さ、俺ん家来て遊ばない?」
その声は唐突だったけれど、なんだか子供みたいに純粋で、悪気のない提案だった。
わしが反応するまでに、ドスッと重たい空気が後ろから近づいてきた。
「……は?」
「なんでやねん」
振り返ると、すかーと夢魔が2人並んで、明らかに空気を張り詰めさせていた。夢魔は額に青筋を浮かべて、すかーは笑っているが、目は全然笑っていない。
「課長と部長には関係ないですよ」
わしはにこりともせず、さらりとそう言った。塩対応も本気を出すと空気の温度を一気に数度下げる。
「っ…!」
「なんやと…!!」
すかーは歯を食いしばり、夢魔は苦々しく目を細めた。
そのままわしは、ルカの手をすっと取った。るかの手は意外と骨ばっていて、ごつごつしていたけれど、握ると何となく落ち着く。
「じゃあ行こっか」
わしはルカにそう言って、何も気にしない顔で歩き出す。
「お、おぉ…!」
ルカは驚きつつも笑顔を隠しきれず、わしと手を繋いだまま、すかーと夢魔を残して食堂を後にした。
振り返らずに歩いたけれど、2人の殺気混じりの視線が背中に突き刺さるようだった。
食堂に取り残された2人…
「…どうする?、あれ」
「俺の可愛い妹が連れ去られた気分や」
「誘拐かよ…」
ため息をつく夢魔の目には焦りと、どこか切なさが滲んでいた。
「明日こそ、ちゃんと取り返す」
すかーがボソッと呟いた声に、夢魔は深く頷いた。
「俺たち、甘やかしすぎたのかもな」
「そやな。…ほんま、油断してたわ」
二人の間に沈黙が流れる。
その先で、佐藤とルカは笑いながら廊下を歩いていた。