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💚ちゃんの解釈違いが起きたら申し訳ありません。
劇薬みたいな人になってしまいました。
皆さんこんばんは、阿部亮平です。今日は以前から仲良くしてくれているMrs.の涼架くんと食事に来ました。10周年の記念日を控えた今、忙しいんじゃないのかって思って心配すると、聞いてほしいことがあって、とお願いされてしまった。そうして歌番組で一緒になった夜、こうしてよく使わせてもらうお店の個室で飲んでいたわけです。
番組収録中のトークではふわふわと愛らしく笑顔を振りまいて、演奏のときはバッチリかっこよく決めていた涼架くんは、お店に着いて乾杯してしばらくすると、泣きそうに顔を歪めた。
急かすつもりはないからゆっくりと話を聞くと、お友達から恋の相談を受けたのに、つい先日自分がそのお友達のことが好きだと気付いたという。最初こそ名前は伏せていたけれど、お酒が入ってくると名前を出してしまっていたからはっきり言うけれど、大森さんの恋を応援するはずが、大森さんのことが好きで、失恋が確定した、とのことだ。
……うーん? 失恋、したの? ほんとうに?
どうやら涼架くんの中では大森さんは若井さんのことが好きと言うことになっているようだが、本当にそうなのだろうか。大森さんと深く話したことはないけれど、俺が見た感じ大森さんは涼架くんに恋をしていると思うんだけどな。
涼架くんを見る目がまさしく恋をする男のものというのか、意識的にか無意識的にかは分からないが、涼架くんと仲良くしている人を牽制しているように見える。仲のいいメンバーっていうだけでは片付けられないほどの熱を孕んだ眼差しは、いつだって涼架くんに向けられていた。若井さんのことももちろん好きなんだろうけど、彼に向ける眼差しは信頼する友人に向ける親愛そのものだ。有体に言えば情欲を感じさせるものではない。
とは言えそれは俺の憶測に過ぎないし、べしょべしょと泣きながら応援できないよぉと嘆く涼架くんに下手なことは言えない。元貴たちにはしあわせになってほしいのにってずっと2人のしあわせを願う涼架くんをどう慰めたらいいのか思案していると、疲労からかお酒が回るのが早かったせいか、泣き疲れて寝てしまった。このマイペースなところが可愛くて仕方がないから、腹が立つことはない。
ただ、どう考えても明日も仕事だろうし、このまま放置するわけにはいかない。起こしてタクシーに押し込めばいいのかもしれないが、それではあまりに心配だ。大森さんか若井さんに連絡するのが最善だろうとは思うものの、俺は大森さんたちの連絡先を知らないから知ってそうな人物に連絡を入れた。すぐに向かうわ、と返事が来たことに安心して、少しでも涼架くんが休めたらいいなと起こさずに待っていると、コンコンと控えめにノックされ扉が開いた。
「えっ?」
現れた人物に思わず声を上げると、申し訳なさそうな表情をした大森さんが、失礼します、と部屋に入ってきた。
「風磨くんから連絡をもらって……藤澤がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「あ、いえ、大丈夫、です……」
おい風磨、大森さんを寄越すなら先に言えよ。
何度か歌番組でご一緒したとは言え、ろくに話した事ないんだけど。覚えとけよマジで。
大森さんは涼架くんの横に腰掛け、顔を覗き込んで眠っていることを確認した。安心したように目を細める姿に俺の中の憶測を確信に変える。
「……あの」
「はい」
「失礼を承知でうかがいますが、大森さんは、その……」
俺も多少なり酔っているとはいえ、いきなり訊くことじゃないなとは思いつつ、泣いていた涼架くんを思うと確認せずにはいられなかった。
大森さんは涼架くんの頭をやさしく撫でてから、涙の跡が残る頬に指先で触れた。そのあとに俺に視線を向けて、真っ直ぐに俺の目を見た。
「……はい、僕は藤澤が好きです。藤澤を僕だけのものにしたいと思っています」
はっきりと告げられた言葉に、やっぱり、と頷く。そしてこれは俺に対する牽制が過分に含まれていることを感じる。大森さんは意図していない感じはするけど、涼架くんに近しい存在として俺を認識しているのだろう。大森さんは苦笑して続けた。
「……藤澤は、僕が若井を好きだって言ってませんでした?」
「言ってました」
「はは……ほんと、どうしたらいいんでしょうね」
弱りきった姿を初めて見る気がして、こうしていると彼も恋に悩むただの人間なのだなと当たり前のことを考える。だっていつも彼は自信があるように振る舞うから。きっと弱る姿は若井さんと涼架くんしか知らないんじゃないかなぁ。
それなら少しくらい、おせっかいをしてもバチは当たらないだろう。
「……本人の意識がないところで言うのは反則だと思うんですけど」
「藤澤は僕のことが好き、と?」
「……知ってたんですか?」
「いえ、さっき風磨くんに焚き付けられまして。そうじゃないかなって、そうだったらいいなって」
祈るような、願うような、愛を請うような声だった。でも、と続ける声は泣きそうに揺れていた。
「素直に想いを告げたとしても、藤澤は意外に頑固なので、信じてもらえない気がして」
確かに涼架くんは大森さんは若井さんに恋していると信じて疑っていない。思い込んでいると言ってもいい。こんなにも、分かりやすいのに。こんなにも、一途に涼架くんからの愛を欲しているのに。
「どうしたらいいのか、途方に暮れていたところなんです」
あんなにも伸びやかな歌声で愛を賛美し恋を激励するのに、迷子になった子どものように不安定に瞳を揺らめかせる大森さん。失礼だけれどなんだか可愛らしくて、同時にあまりにも臆病な様子にちょっと腹が立ってしまう。
だってまだ、あなたは何もしていないじゃないか。何もしていないくせに想像力だけ働かせて、自分の行動を縛っているじゃないか。
何を諦めたような顔をしているんだ。まだ何も始めていないくせに。俺の友人をあんなにも泣かせておいて、自分だけは傷つきたくないとでも言うのだろうか。
酒の席だと言い訳をして、無礼を働いても許されるよね?
「大森さん」
「はい」
「ちょっと隣にいてくれませんか?」
「え?」
「すみません、隣使ってもいいですか? あ、ありがとうございます」
「え? は?」
「はい、移動して。はやく」
有無を言わせない強い口調と満面の笑みを浮かべて言うと、びくっと震えた大森さんは困惑しながらも腰を上げた。隣に入ったことを確認してから涼架くんの肩をゆする。ゆっくりと目を開いた涼架くんは、俺の顔を見ると焦って身体を起こした。
「ん……? あ、ごめん、寝てた!?」
「うん。取り敢えずお水飲んで」
「はい、ありがとうございます」
涼架くんがしおらしくお水を飲むのを確認してから、あのさ、と話を振る。
「本当に大森さんは若井さんのことが好きなの?」
「え、うん。そうだよ?」
「なんでそう思ったのか訊いていい?」
寝起きでまだぼんやりしているのか、唐突な俺の質問にびっくりしているのか、ぱちぱちと瞬きをしてから涼架くんは話し始めた。
「えっと、元貴の好きな人、笑顔が可愛くて努力家で、元貴のことをよく理解している、長年一緒にいる同性の人、なんだけど」
「うん」
「若井、じゃん?」
「なんで?」
「へ?」
なんでそんな回りくどい言い方をしたんですか、大森さん。保険かけすぎじゃないですか。
「笑顔が可愛くて努力家で大森さんを理解している長年一緒にいる同性の人、でしょ?」
「う、うん」
「涼架くんも当てはまるよね?」
ぽかんと涼架くんが口を開けた。
「笑顔が可愛い、は涼架くんがよく言われていることだし、大森さんの要求に応えるよう努力しているし、大森さんのことを理解していなければここまで来れなかっただろうし、10年以上一緒にいる男性、だよね?」
ひとつずつ涼架くんにも当てはまることなのだと教えていくと、涼架くんは難しい顔をして一生懸命考えていた。
「もうひとつ質問。涼架くんが大森さんを、恋愛感情で好きだって思ったのはなぜ?」
ガタッと隣の部屋から音が聞こえる。ちょっと、まだじっとしていてくださいよ、大森さん。
涼架くんはどこか寂しそうに、それでも薄い笑みを唇に乗せた。
「……元貴、に、いつも、笑ってて欲しくて」
「うん」
「元貴がやりたいことをやって、楽しそうに、しあわせそうにしている姿を、一番近くで見たいなって。元貴がつらいときや大変なときに、一番に頼ってほしくて……元貴に僕だけを見て欲しいって、思っちゃったんだよね。大森元貴っていう存在を、独り占めしたいって」
なるほど。それまではグループのメンバーとして一緒に活動できればそれで満足できると思っていたのに、独占欲を覚えたからこれは恋愛感情だと悟った、といったところだろうか。自分だけのものにしたい、2人に共通している感情だ。
まるでそれが悪いことかのように呟く涼架くんの目に涙が浮かぶ。叶うはずがないって諦観を滲ませる涼架くんの表情が曇る。
あぁ、その表情が歓喜に変わる瞬間を見ることができないのが残念だな。
そっか、と応じてゆっくりと立ち上がる。お手洗い? と訊いてくれる涼架くんににっこりと微笑む。そうだね、お手洗いついでに俺はお暇するからさ。
「――だ、そうですよ」
あとは大森さんとゆっくり話し合ってよ。
隣室との境界となる扉をガラッと開ける。えっと驚く涼架くんが、大森さんの姿を見つけて絶句する。ここのお店、人数が増えても大丈夫なように奥座敷は襖一枚で仕切られているだけなんだよね。
「も、もと、き……?」
震える声を上げる涼架くんが大森さんを見て、俺を見る。涼架くんにはにっこりと微笑みかけ、大森さんには表情を消して向き合う。ビクッと大森さんが肩を震わせた。
「これで逃すとか有り得ないから」
静かにそれだけを告げ、呆然とする涼架くんを振り返る。
「じゃ、涼架くん、またご飯行こうね。ちょっと早いけど10周年おめでとう」
「りょ、亮平くん!?」
涼架くんの叫びにも近い声は無視をさせてもらって、大森さんに向かって言う。
「適当にお会計しておくから不足したら出しといてください」
「いやっ、ここは僕が!」
「そうですか? じゃぁ次回は僕が。ご報告、お待ちしていますので」
「はいっ」
姿勢を正していい子の返事をする大森さんに噴き出しそうになりながら、自分の荷物を持ってさっさと部屋を出る。荒療治だけど、どうしたらいいか分からない、という状況は脱することができるんじゃないかな? できなかったらそこまでの人間だってことだけど、チャンスはものにするタイプだろう。
ねぇ涼架くん、どうか忘れないで。どうか知っていてほしい。
あなたが大森さんや若井さんのしあわせを願うように、俺はきみのしあわせを願っているんだよ。
さて、と。風磨に文句のひとつでも言いながら、あいつの話も聞いてやろうかな。
続。
ほんっと、何も考えないで書き始めるのやめようって毎回思います。
こんな話になるなんて、と自分が一番驚いている。
次回最終話予定(未定)。
10周年をお祝いする文章を書きたいけれど、これまたなぁんも浮かんでない。どうしましょうねぇ。
コメント
19件
阿部さん視点、新鮮ですね✨ めちゃくちゃ役に立っててビックリしました、さすが藤澤さんの友達。 阿部さん、菊池さんのお話聞き疲れるほど聞いてあげてください...笑
💚くん、劇薬すぎます!でも、💛ちゃんへの思いやりや愛情もあって、素敵過ぎます🤤 次で最終話とか、寂しいですが、楽しみにしてます🍏 いつも素敵なお話、ありがとうございます✨
いや何も考えずに書き始めてこの内容なら才能ありまくりですよ😂 あべちゃんカッコ良すぎる‼️年上の貫禄✨ いつも強強魔王がタジタジ🤣結末が楽しみです!