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|上《あが》りの古御所の妖猫が一瞬出て、全員消えた。
勝ったのは、壱花だった。
「レアキャラですかね?
もうちょっと見とけばよかった」
と派手な着物をまとったあやかし猫の姿を思い出しながら、壱花は呟く。
「すっかり、あやかしに慣れたようだな」
と倫太郎が言った。
「そりゃ、何度も同じコマを行ったり来たりして、何体も同じ妖怪に背後に並ばれ、店中みっしりに正座されたら、さすがに慣れますよ。
ところで、このすごろくって妖怪が遊ぶんですかね?」
と言って、
「知るか」
と言われる。
「でも、毎日こんなことしてたら疲れますよね、社長」
「いや、毎日、こんな阿呆なことはしてないが……。
でもまあ、仕事の後だから疲れるな」
と倫太郎は言う。
「ちょっぴり小賢しいことを小生意気に言っただけで、これはひどいですよね」
「……お前、微妙に俺をディスってるぞ」
と倫太郎は言ったあとで、
「まあ、あんなこと言わなければ、こんなことにはならなかったかなと思いはする。
だから、ビジネスの世界でも余計なところでは出しゃばらないよう気をつけるようになったし。
よかったかなと思うようにしている」
と突然のよかった探しをはじめた。
壱花は思わず、
「え? 出しゃばらない?」
誰の話だと訊き返してしまったが。
でもまあ、確かにこの生活が何年も続くと疲れるよな、と思う。
それでなくとも、社長って激務だし。
一度だけ、他の秘書の人たちがインフルエンザで倒れてしまったので、壱花が社長に帯同させられたことがあった。
車での移動中、うとうととし始めた倫太郎が少し、壱花の肩に寄りかかる感じになった。
あのときもさっきと同じ香りがしたっけな……。
「社長」
「なんだ?」
「……わたしがここに残りますよ」