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ワンク
水白
BL
nmmn
鬱展開
流血表現🐜
⚠️こちらの小説はとても長いです。 お時間のある際にお読みください。
水視点
痛い。
火の粉が舞う黒煙の中でその感覚だけが分かった
左目は潰され、右足の血が止まらない
弾丸が脚に撃ち込まれた
3箇所も風穴の空いた太ももではもう戦うことは出来ない
残った左足で片足を引き摺りながら歩く。
どこに向かっているのかも分からないまま、呆然と逃げ出していた
なんと無様なのだろうか。
水)い”ッ!?
後ろから追撃されたみたいだ
右手が撃たれた。
風穴が綺麗に空かず、どろりと垂れる肉片と弾丸がすり抜けた骨が見える
水)逃げるくらい許してよ、
残った左手で相手の顔を撃つ
ベチュッと肉の潰れる嫌な音がした。
酷い叫び声と共に喉を抑えて倒れた
水)…ごめんね
ハンドガンをベルトに戻し、また真っ直ぐに進む
終われない、こんな所で朽ち果てられないんだ
水)…ん”…
)…お目覚めかな…?
低く心地の良い声が聞こえた
ゆっくりと右目を開く
水)…こん、にちは…
)こんにちは、笑
)体調どうですか?どっか痛いとかあります?
口調から敵では無いと思った
優しくて、朗らかな声
水)…痛いも何も全身穴だらけですよ?笑
)あぁそっか、まだ見てないんやもんな!
水)…?
)目は…ちょっと出来んかったけど他は動くと思います
フードを深く被った男だった
膝枕をして貰っているようで、少し目元が見える
紫の目をした綺麗な人だった
よく働かない頭のまま全身を見回す
確かに傷付いていたはずの箇所が綺麗に戻っている
右手もまともに動く
水)…これ、どうやって…?
)あー…まぁ、ここ森なんで!
)薬草とか…その辺に売ってる薬より優れてますからね
ふわっと笑った笑顔が素敵だった
なんだか悪い夢を見ていたみたいだ
世界が明るく見えた
水)…君、名前は?
白)初兎、好きに呼んでや
独特な喋り方をする人だった
でも、嫌いじゃなかった
動くようになった腕で彼に抱きつく
水)僕はほとけ、君は命の恩人だね
白)そんな大層なことっ…!
明らかに動揺している姿がなんとも愛おしかった
良い香りがする服に顔を押し当てる
水)んーん、ほんとにありがとう
水)優しい人だね
白)…あ、ありがとう…
水)ねぇ、初兎ちゃんって呼んでもいい?
白)俺男だよ?笑
彼も少し慣れたみたいで僕の頭を撫でてくれる
僕の手みたいな豆がなくて綺麗な白い手
水)んー何となく呼びたくて
白)まぁええけど…
水)僕の事はいむくんって呼んで?
白)ほとけやないん?
水)あだ名だよあだ名
水)初兎ちゃん専用なんだから、受け取ってね
白)…分かった笑
白)…!
水)初兎ちゃん?どしたの?
楽しく会話をしていた筈なのに突然彼の身体が強ばった
顔色も悪い
白)…いむくん、俺はお別れみたいや
水)…ぇ
水)何、何言ってんの?笑
水)このまま一緒に居ようよ、ね?笑
声が震える
あの時の、黒煙が立ち込める世界を思い出す
あれは夢じゃ無かったの?
もしかして
)ほとけ様!!
水)…えっ
)ご無事でおられましたか…!
)…本当に良かったッ…泣
5名程の鎧を着た男が来た
僕の側近だった。
水)あ、あぁ…
水)僕の事を探しに来るなんて…戦いはどうなったの…?
)我々の勝ちでございます…!
水)あ、あぁ…!!
水)やった…
終戦の知らせは嬉しかった筈。
なんだか胸につっかえた
)さぁ!国に帰りましょう…!
)馬車を待たせております、ほとけ様が帰らないと何も始まりませんよ!笑
鎧で軋む手で背中を押された
辺りを見ても彼は居ない
水)…血痕、
一方向に垂れ続ける血痕だけがそこにあった
僕のかな、どこまで歩いたかもよく分からないし。
白昼夢みたいな人だった。
僕はとある一国の王子。
ちょうど一ヶ月前。
隣国から襲撃にあった
獣人を使った、非道な虐殺が行われた。
この世界には獣人という人種がいる
獣人は耳としっぽを生やし一見可愛らしく見える
だがしかし、侮るなかれ。
彼らは元の動物の力を数倍にして持ち、人類が支配できる幅を超えた存在。
例を出すと、熊の獣人なんかは家を破壊し人を引きちぎる事など造作もない。
ライオンの獣人は頭から喰い、骨を噛み砕く程の歯を持つ
そんな荒くれ者たちが15人送り込まれた
それも満月の夜に。
満月は獣人達の意志と関係無く攻撃的にさせる。
きっと送り込まれた獣人達の中には上手く言うことを聞かない、心の優しい者が居たのだろう
そう思うと少し同情もするが殺したのもまた事実。
許されるものでは無い
街の人の殆どが苦しみ、悶え、泣き叫びながら血と共に亡くなった。
そんな隣国との戦争だった
親和国との協力を得て戦った戦争
人が足りずトップの僕まで出る自体に発展した。
銃の扱いもままならないまま出た戦場は酷く苦しいものだった
人を殺して、弾丸で凹む肉片の音を聞いて覚えた銃の扱いはあまりにも不要な物だった
水)…
右手をそっと見つめる
確かに血だらけで泣き叫びたくなるような痛みを感じた
それなのに今では綺麗さっぱり、傷跡すら分からない
そして何故彼が森に居たのか、何故助けてくれたのか
今思えば疑問が溢れ出てくる
あの時聞けなかったのは、そう。
頭が働いていなかったんだ
彼に魅了されたからでは無い、きっと。
)お〜!帰ったか!
水)…はい
)無事で良かった笑
この人は僕の父親、つまるところこの国の王様。
でも僕は嫌いだ
戦争から帰った息子に笑って「無事で良かった」なんて。
血反吐を吐くような思いをしていないから出せる言葉だ
水)…お褒めのお言葉ありがたく頂戴します。
)うむ!ご苦労だったな!
)で、悪いんだが近い内にまた隣国へ向かってくれ。
)戦争の落とし前はつけてもらわないとな…笑
不気味な笑いと共に、メイドに注がせたワインをがぶがぶと飲む
足を組んで、肘を立てた大柄な態度
全てに嫌気が差す。
水)いつ頃でしょうか?
)…明後日とかどうだ?
水)分かりました
僕に拒否権なんて無いくせに
形上の問い掛けに苦笑せざるを得ない
)では少し身体を休めなさい
水)ありがとうございます。
この部屋にいるだけで嫌悪感が脳を占める
本当に嫌いだ。
昔からそうだった
横柄で、我儘で、権力の使い方を知らない子供みたいな人だった
幼少期の記憶はこの人から蹴飛ばされた物しかない
素直で真っ直ぐな気持ち等無下に扱われた
狂わないわけが無いだろう
…まぁ、抗えないから従順でいるだけ。
水)…ふぅ…
自室の柔らかなベッドに身を委ねる
目を閉じると彼ばかり浮かんでしまう
柔らかな笑顔と甘い匂いが頭から離れない
水)…ダメだなぁ、僕
机に置かれた山積みの資料。
気を紛らわせる為に椅子に座った
水)…あ、左目…
潰された左目、どうなっているのかまだ見ていなかった
この机には三面鏡がある、丁度いいな
包帯をするするっと解く
水)…瞼は綺麗なんだ
撃たれる瞬間、反射で目を閉じた。
だから瞼を破り目玉を潰された筈
なのに綺麗に治っているということは彼のおかげなのだろう
瞼を少し撫でると、ぐじゅりと潰れた眼球がある
少し指を押し込みすぎたせいで血と肉片がボタボタと落ちてしまった
水)あ、タオル…
使用人を呼び出しハンカチを貰った
流れ落ちた肉片はどろどろとしていた。
神経が切れているからか腐っているのかもしれない
血とはまた違う、嫌な匂いがした
いい機会だったので潰れた目玉をほじくり出した
弾丸は清潔じゃ無いから、これ以上腐食されても困る
水)瞼が綺麗でよかったなぁ
水)義眼を入れても違和感が無いだろうし
水)…やりますかぁ…笑
山積みの資料に手を伸ばす
少し、明後日が楽しみだった
白視点
痛い。
じんじんと滲むその感覚の中、森の奥深くに逃げ込む
大木に背中を預けフードを下ろす
少し息苦しかった
白)…はぁ…
垂れ下がったうさ耳
これのせいでまともに生きていけない。
俺はうさぎの獣人、世間でもまだあまり知られていない種族だ。
白)あっダーメ、ばっちぃからな
足首に近寄ったリスの頭を撫でる
…さっきの治癒で少し使いすぎた。
くるぶしから下、俺の両足は無い
引っ掻きながら千切ったせいで爪に肉が詰まってしまった
白)…洗わなあかんな
あの日は酷いガソリンの臭いがしていた。
車が潰され、火がつき燃え盛る熱い日だった
俺は森の奥でただ殺されないよう、息を潜めていた
白)…あっおい…
白)危ないやろ、
小動物と会話が出来る俺は、大きめなケープの中にリスや猫を隠し込んでいた
今となってはこの子達は食料として扱われてしまう
水)は”ぁッ…ひゅッ、…
白)…!
近くで枯れた喉の音がした
千鳥足。手負いのまま森に来たらしい
白)…この子達は俺が守らなあかんねん、
大木の奥に動物達を隠して、鋭利な木の枝を持つ
水)ぁ…
白)えっ、あ…
目の前で倒れそうになったので、つい支えてしまった
腕の中には暖かみの薄れた肉付きの悪い人間がいた
白)…左目は潰れてる、右手に2発、太ももに3発…
腐敗臭がした
手当の無いまま歩き続け、約4日というところか
ハエがたかるのも時間の問題。
白)なんか見捨てるのも後味悪いしなぁ…
白)…ま、俺なんてあってないようなもんか。
そう残し、彼の傷口に噛み付いた
腐った肉はやっぱり美味しくない。
嘔吐きそうになるくらいだ。
白)足でええか
利き手で自分の足を引きちぎる
べキッと骨が折れ、大量の血が流れる
爪を刺し込んだせいで手が真っ赤になってしまった、あまりいい気分では無い
白)あ、顔に付いちまった…
両手が血だらけになった為、舌で血を舐めとる
白)まっず、
口に含んだ血を吐き出す。自分の物はどうにも上手くない。
もう片足も折り、彼の傷口に無理やり詰め込む
流石に眼球は作れない為、瞼用に肉の膜を張った。
白)…これでよし。
手をかざし、少し間を開けて力を込める。
俺の肉が姿形を変え彼の体の一部になっていった。
うさぎの獣人は簡単な治癒魔法が扱える。
誰かの傷口を自分の肉で塞いで行うものだ。
まぁ死体には使えないので重宝される事は無い
病気を治すことも出来ない、ただ少しの傷を自分で埋めるのだ。
俺もまだ自分が何処まで治せるのかを知らない。
やりたい訳もないが。
白)…綺麗な顔しとるなぁ…
頬を手で撫でるといい生活をしていたのだろう、兵士とは思えない程艶がある
白)…え
彼の手が俺の手にそっと重なる。
意識はまだ無い筈、きっと無意識のうちの行動だろう
土で汚れていて豆だらけ。そんな手は俺よりも暖かかった
目が覚めた時、俺はこの人に殺されるかもしれない
それでも良いと思えてしまった。
水視点
水)しょーちゃーん!
水)…やっぱり居ない…
隣国との話し合いが終わった。
現在居るこの土地は僕の国の物となり、王率いる貴族達は終身刑に。
暫くは国の復興に当たることとなるだろう。
側近たちには一度国に戻ってもらい、父に状況説明を頼む事にした
晴れて僕は自由の身となる。
彼と再開する為に森に来たが、やっぱりここは広大で簡単に会えそうにない
水)困っちゃうなぁ…
白)…いむくん?
水)わぁッ!?
白)あぁごめんな驚かせるつもりやなくて…
不意に後ろから聞き覚えのある声がした
振り向くと初兎ちゃんが居た。
靴底が柔らかい赤色の木で出来たロングブーツを履いていた
とてもよく似合っていた
前会った時と違うのはそれくらい。
水)あ、会えたぁ…!
白)覚えててくれたんやね、嬉しい笑
水)そりゃ当たり前だよ!命の恩人…忘れたの?
白)そこまで大層なことしてへんのに笑
水)いーやしてるね、だって普通に生活できるの初兎ちゃんのおかげなんだよ?
白)でも目は…ごめんな
水)いやいや謝らないで!
水)それに左目は見えなくても右目が見えるから大丈夫だよ!
白)そっか、なら…良かったわ
今日は前より深くフードを被っていた。
彼の表情が読み取れなかった。
白)…いむくんってもしかして王族?
水)あ、気付いちゃう?笑
重苦しい上着を脱ぐと、彼はそう聞いてきた
街にこんな重たい毛皮と装飾の付いたコートなどまず出回らない。
純粋な質問だったのだろう。
水)僕はお隣の国の王子様だよ!
白)王子様なんや…!
白)よく聞く許嫁とかいるの?笑
水)あー…居たんだけど前の襲撃で死んじゃった笑
白)…そう、
明らかに暗くなった彼のトーン。
分かりやすくてなんだか可愛らしい
実際許嫁は居たのだが本当に嫌いだった。
僕として見てくれなかった、「一国の王子」というレッテルだけを見ていた。
そんな人、どんだけ綺麗な人でも好きになれない
水)でも気にしてないんだ!
水)僕その子嫌いだったし笑
白)そうなんや、なら良かった…んかな?笑
水)良かったよ!僕好きな子と結ばれない人生なんて嫌だし
白)それもそうやな、笑
嗚呼、この子は本当に素直だ
大人ぶった変な気遣いも、無駄な敬語も、なんにも気にしなくていい
僕が王子様で居なくていい、唯一の人だ。
白視点
今日は昼間からずっと誰かの声がしている
この森は広いからな、遭難したらまず戻れないだろう。
白)…かわいそ
そっと木の実を取って口に運ぶ
まだ熟れていないからか少し酸っぱかった
白)…食べる?
近くに居たリスに木の実を渡すと嬉しそうに住処に戻って行った
俺を避けないで居てくれるのはやっぱり動物達だけ
水)困っちゃうなぁ…
歩いていると聞き覚えのある声がした。
木陰からそっと覗くと目立つ髪色をしていた
彼だ。水色の髪にピンと立った髪の毛ですぐに分かった
フードをしっかり被って声を掛ける
世界一大事にしたい人だ
それから日が暮れるまで話をした
好きな食べ物、得意なこと
彼の王子様としてのお仕事や愚痴
俺の森での生活、ご飯、好きな本の事
彼に持ち家が無いことを伝えたが特に態度は変わらなかった
むしろ
水)えぇ!?病気とかなったりしないの…?
水)風邪とか…あとは怖い動物とか居ない…?
心配そうに話す彼に心底驚いた。
隠し事をするのが苦手なあまり口走ったが、この判断は失敗では無かったらしい。
白)この森に肉食はおらんのよ、笑
白)もう病気も効かないくらい元気な体に育ったから安心せい!笑
「そっか」と笑う彼は本当に楽しそうで、敵意を向けられない事がただただ嬉しかった。
そのまま他愛のない話をして、ゆっくりと時間だけが流れて行った
白)暗くなっちまったな〜…
白)いむくんは今日どうするん?
水)…一緒にいてもいい?
白)街の宿じゃなくてええの?
水)うん、初兎ちゃんがいい。
白)…そっ、か…
顔が熱くなるのを感じた
まだ春は先だと言うのに、よく分からないな
水)いやー…食べた、もうお腹いっぱい…
白)まさか魚3匹も食べるなんて思わんかったわ笑
水)初兎ちゃんが美味しく作っちゃうから行けないんだよ〜
水)太っちゃっても責任とってね
白)おん、
火の後始末をしながら彼と会話する
逐一発言に胸がザワつく
きっとこの言葉では正しくないが、それしか分からない
知らない
水)…あ、火起こそうか
水)さっきのは魚焼いてちょっと匂うだろうし
白)あ、じゃあこの油使ってや
白)火が長持ちするんよ
水)さっすがサバイバル慣れしてる〜!笑
白)今夜はその火で寝ようかね〜
水)いつもその格好で寝てるの?
白)そうやね、替えの服とか無いしな笑
水)…洗濯とかは…?
白)流石にするわ!笑
白)まぁその日は素っ裸やね
水)えっ
白)え?
水)…色々危ない、
白)この森肉食おらんで?
水)うーーん…違うんだよなぁ…/
白)…??
少し顔を赤らめながら火を起こした彼
…火の元は熱いしな
火傷してなければいいな
水)…じゃあお休み
白)おん、おやすみな
草っ原に横になって二人で眠る
火のパチパチという音が心地よい
水)…ねぇ、初兎ちゃん
白)なんや?
水)…寒い
あぁ、人間と獣人とじゃ基礎体温が違ったな
少し顔色が悪い、真冬に野外なんて人間には寒すぎたな
彼に風邪をひかせる訳には行かない
白)俺暖かいけど…来る?
水)えっ…あ…っと…
白)…風邪引かれたくないから来てや
水)…わかっ、た…
腕を広げていた筈なのに体格差からか彼に抱きしめられる形になった
自分の心音が煩くてたまらない
暖かい手が俺の頭を撫でていた、あの日と同じ豆だらけの手だった
水視点
今日、馬車が到着する予定だ。
自国に帰らなくてはならない
白)…寂しくなるなぁ笑
水)絶対また来るよ!
白)…待ってる、笑
悲しそうに笑う彼に申し訳なさが募る
ここ数日一緒に過ごして幸せが過ぎた
水)…ねぇ、最後にぎゅってしてもいい?
白)ええけど…笑
白)ほらじゃあ…おいで?
彼の広げてくれた腕に飛び込む
ふわっと香る甘くて優しい匂い
水)帰りたくなぁい…
白)王子様は忙しいんだろ〜笑
水)でもさ〜…
少し気怠そうな声を出すと彼は優しく頭を撫でてくれた
この細くて真っ白な手がたまらなく好きだった
僕はこの人に恋をした
本気でそう思えた、初めての人だった
水)初兎ちゃん、
白)なーに
水)いつか、僕の国に来て
水)それでずっと一緒にいよ?
白)…そんなプロポーズみたいな事言われると思って無かったわ、笑
水)僕も言うと思ってなかった笑
笑って誤魔化しているが心臓が飛び出そうなくらいだ。
顔が見えないのをいい事に涙さえ出てきた
白)ええよ
白)いつか、俺を連れてって
水)い、いいの…?
白)そんな泣きそうな声しなくても笑
白)…いいよ、俺もいむくんが良い
水)初兎ちゃん…泣
白)あー泣いた笑
水)だってぇ…泣
白)うんうん泣かんでいいからね〜笑
背中をさすられるのが嬉しくて仕方なかった
はっきり言葉にされなくても初兎ちゃんからの愛を感じた
泣くほど嬉しかった、愛されている事が幸せでたまらなかった
水)んっ…そろそろ来るかも
白)そうやね、音が聞こえるわ
水)…またね
水)次来た時は街に出て買い物しよ!
水)僕が奢ったげる!
白)それって…デート…?/
顔を赤くする彼が可愛くて少しだけ意地悪した
手を握って、少し顔を寄せて。
水)えぇ?まだ付き合ってもないのにデートなの?笑
白)あっ、いや…/
水)嘘嘘、デートしよ
白)うん、笑
白)…いむくん、
俯いたままの彼がボソッと僕の名前を呼んだ気がした。
水)ん?
白)…好き。
そう言って唇にキスをした
ほんの少し触れるだけのキス
水)…っぇ
白)じゃあまたね、/
水)…ま
後ろから馬の足音がした
反射で振り返ると馬車が来ていて、顔馴染みの側近が手を振っていた
)ほとけ様!森なんかに居られて…どうされたんですか?
水)…あ、あぁ…
水)ごめん、ちょっと…迷っちゃったみたいで笑
)そうなんですね、ご無事で何よりです笑
)では乗ってください!自国に帰りましょう!笑
水)…うん、笑
馬車に乗り込み窓を覗く
やっぱり何処にもいない
いつも去り際に立ち会えない
だからなんだか現実味が無くてふわふわとする
水)…暖かかったな…/
唇に残る一瞬の感覚が、僕の心を射止めていた
キスをされたあの日を最後に彼とはまだ会えていない
なんせ僕は一国の王子。
元々2カ国だった土地をひとつに貰い、住宅街の復旧や一時的な生活スペースの確保など
やらなくてはならないことが山ほどある
そしてこのタイミングで父が病に伏せた。
身体のあちこちで不調が起こっていたが、お構い無しに堕落した生活をしていたツケが回ってきたみたいだ。
そのせいで僕が統率を取らなければならなくなった、なんて面倒な事を。
水)あー…もう全く終わんない…
僕の執事を2人に減らし、残りの従事者は現場手当に回らせている
本来100人以上でやる仕事を3人で、しかも僕はまだ21歳
水)こんなのって無いでしょぉ…
)ほとけ様
水)…なに、いつもノックしてって言ってるじゃん
)これは失敬、コンコンコン♪
水)口で言っても意味無いでしょ〜!
)すみませんね笑
入って来たのは60代半ばの老人、僕の執事1人目。
水)なんの用?
)手紙が届きました。
)いつもの方から見たいですよ
水)ほんと!?
水)早く頂戴!
)どうぞ
水)ありがとう!
水)…じゃあまた
そう言って無理やり部屋から押し出す
ワクワクしてたまらない
)酷いおぼっちゃまですねぇ…笑
この手紙は初兎ちゃんからだ。
暫く会えそうにないからと、僕の権力を使って2人だけの配達員さんを雇った
その人は一定の場所を往復するだけ
要するに初兎ちゃんは住所が無いから普通の郵便局では対応出来かねる
でもその人がいてくれるおかげで文通ができる
1週間に1回くらいのペースで届く手紙は僕の生きる活力となっていた。
水)わぁ、今日のはお花が入ってる…!
水)白い…ガーベラかな?
水)花瓶に差しておこ…笑
初兎ちゃんはよく手紙に花を入れてくれる
森は自然が豊かで、季節の花を貰うと嬉しくなる
いむくんへ
今日は少し暖かい日差しの日でした。
春が近付いていて川の水に足をつけても気持ち良いくらいです。
街に出ると少し賑やかさを感じます。
いむくんのおかげなんだなぁと思うと会えなくても嬉しくなる。
無理はしていませんか?
あまり根を詰めすぎると辛くなるので沢山休んでください
街のみんなは活気に溢れています。
配達員さんから聞きましたが、今日は3月10日らしいです。
いむくんと会えるのは15日なのですごく楽しみです。
気を付けて来てください。
初兎
少したどたどしい文章が可愛くて仕方がない。
初兎ちゃんは森に住んでいる為、文字の読み書きが最初は出来なかった
配達員さんに少しお願いして教えて貰うとこんなに上達している
水)はー可愛い…
水)このファイルに閉じてと…
そう言えば初兎ちゃんと会うのは明日の予定だった
今夜の内に城を出る事にしよう
水)んー”っ…
水)頑張っちゃおっかな…!
ガーベラの花びらがひらりと1枚舞い落ちた。
封筒に入れてから4日も経てば枯れ気味なのは仕方の無い事だ
水)…勿体ないし、いっか。
落ちた花弁を口に運ぶ
やっぱり苦かった、でも彼の様な優しい香りが口いっぱいに広がった
飲み込んでしまっては舌に苦味だけがこびりついた
白視点
あの手紙を書いてからようやく5回目の夜が来た。
今日は3月14日の夜だ。
白)あぁワクワクして寝れん…!
白)明日にはいむくんと…デート…/
白)考えたら嬉しくってもう…!
何処にもぶつけられない気持ちを振り払うように髪をぐしゃぐしゃにする
こんな感情は初めてでどうしていいのか分からない
白)はぁ…/
白)いむくん…
少し悲しく思いながらパタリと倒れ込む
明日が楽しみな事と同じくらい、悲しみも募る
白)…今夜は星が綺麗やなぁ
白)明日も綺麗やとええなぁ…いむくんと見たい、
目を閉じれば彼の姿しか無くて、抱きしめられていた時の熱を思い出す
そのままふっと意識を落とした
白)…ん…?
なんだか不快な音がする
金属が擦れるような音と…銃撃…
白)…ぇ
目が覚めるとそこは、また熱く苦しい戦場となっていた
金属の擦れる音は女の金切り声だった
状況が分からないまま寄り付いてきた動物達を抱き抱え、森の奥に逃げる
白)なんでっ…なんでまたっ…泣
白)いむくんっ…泣
走りながらまだジンジンと痛む足首に嫌気がさした
うさぎの獣人が治癒に使った部位は二度と再生しない。
血は固まって出なくとも骨が剥き出しになっている
白)…痛いっ、
それでも走ることを辞めなかった
生きてさえいれば、また彼に会えると信じたから
水視点
馬車に乗ってから暫く時間が経った
あともう少しで彼に会える、約2ヶ月会えなかった彼に
水)…ワクワクするなぁ♪
)左様ですか…笑
水)そりゃそうでしょ!
ガタッと音を立てて馬車が止まった
なんだか嫌な予感がした。
焦げ臭く肺が拒絶するような血の匂い
そして、鈍く重たい銃撃音。
水)…はっ、?
水)え、なにこれ知らないよ?笑
水)なんで…国が燃えてんのって…
)ほとけ様、只今双眼鏡で確認いたしましたところ
)王族が脱獄したようです。
水)…ぇ、は…?
水)ちゃんと閉じ込めてたじゃん…なんで出てこれてんの…?
全身から汗が吹き出す
手の震えが止まらない、心音が気持ち悪いくらいに木霊する
)…
水)ねぇ執事…?
)獣人が居ます。
)隠していたのか…なんて事を…
水)獣人、?
)獄中に居たメンバーに獣人がいた模様です。
檻を食いちぎったかと
水)ねぇ初兎ちゃんは!?
水)明日…明日会うって手紙でもっ…!!
)ここからでは確認できません
)森は町外れにありますから…幸いな事に森に火は移っていませんね
)ほとけ様、どうされますか?
水)…どうって…
僕は一国の王子。
ここからでも聞こえる悲鳴と銃声音
すぐに親和国に連絡を取って援軍を送って貰い、被害を最小限にとどめるべきだ
でも、それをしていたら森は…初兎ちゃんは守れないだろう。
水)ごめん。
水)僕行くね
)…承知いたしました。
)こちらですぐに援軍を呼べるよう連絡しておきます。
水)ほんとにありがとう
執事はすぐ運転手に引き返すよう伝え、自国に帰って行った
水)…初兎ちゃん待っててね
水)僕が連れ出すから
あの日のハンドガンに弾を入れる
黒煙を肺いっぱいに吸い込んで走り出した
白視点
身を潜め続けてかなりの時間が経った
都合良く前の動物が住んでいたであろう場所を見つけた
大きな木の中に食いちぎって作られた空洞があった
その中に丸まって動物達と銃撃音が聞こえなくなるまで隠れていた。
1度外が明るくなりまた暗くなった、今は3月15日の夜だろう。
未だこの森の中での足音は無い。
銃撃音は少し前から落ち着いていて、きっと彼が何とかしてくれたのだろうと思う
反面彼が特攻し、既に亡くなって居たらと思うと外に出られなかった。
白)…いむくん、生きてるよな…
白)ほら、お前らはもう安全だからご飯とか探しに行ってき
白)お腹減ったやろ、
リス達を木の中から出そうとしたが、どうにも俺がいないと怖いらしい
手を掴んで離さない。
白)…しょうがない奴らやなぁ…
一緒に木の外へ出ると安心したのかお腹がすいたのか、皆森に帰って行った
白)またなー、気をつけるんやで〜
手を振って見送った後、辺りを見回す
無我夢中で走ってきたせいで気付かなかったが、ここは国の端らしい
白)…海や、
白)こりゃ相当走っとったな〜…笑
白)そりゃ誰も来ない訳やな!笑…いむくんも見つけられないわな、
その場に座って深呼吸をするが上手くできない。
肺が痛い
白)…いむくんっ…泣
白)もう…おらんくなってしまったん…?泣
乾燥した手で涙を拭ったが気持ちはちっとも癒されない。
ふと前を見ると、急激な頭痛に襲われた。
白)ぇっ…あ”…ぃッ…
頭を抱えて倒れ込む事しか出来ない
心拍が上がる、息も上がり段々人の形では無くなる
嗚呼、今日はなんて不運なんだ。
満月の夜じゃないか。
白)ぁ”ッ…来るな来るなっ”…!
耳が良いせいで足音が聞こえてしまった
自分の名前を呼ぶ声も、それが悲しそうなのも分かってしまう
必死にフードで耳を隠した。
どんなに押し込もうとしても自分の力に敵わない。
水)…初兎ちゃん…?
白)違う”っ!
水)ぇ、いや初兎ちゃんじゃん…!
水)やっと会えた…泣
白)ごめん”っ、ほんとにッ…
水)なんで…なんで謝ってるの?笑
水)もしかして誰かに襲われた…!?
優しいこの人を傷付けたくなかった
そして隣国の王子ということは、国民が獣人に襲われる所を見たはずだ
俺が獣人なんて分かったら…きっと
白)どっか行ってや”っ!
水)そんな…行けないよ…
水)辛そうな声してるし、なんかあったんでしょ?
水)教えてよ、笑
白)っ…
唇を噛んだ
誰か食べたくてしょうがなくて、目の前に彼が居るから余計に我慢できなくて
血の味がして、地面にポタポタと赤い斑点が付く
伝えなきゃいけない
俺は思いっきりケープを外した。
白)ごめんっ…俺…”獣人なんや…泣
白)今夜が満月で、見てしまって”、もう耐えられへんねんっ…
水)…そ、うなんだ…
分かっていた。
失望されるって、嫌われるって。
それでも好いてしまった、王子だって分かった時一緒に居ていい筈がないって分かってたのに
白)…いむくんっ、
白)無責任に愛してごめんな、…泣
水)…そんなのって…無いよ…泣
膝から崩れ落ちた彼を抱き締められない
もう爪が伸び切っている、きっと触れただけで怪我をさせてしまう
牙も出てきた。こんな口ではキスも出来ない
白)いむくん!
水)…何?泣
白)その、ハンドガンで
白)俺を殺して。
水)ぇ…は、そんなのっ…
白)それしか無いんだよっ…
白)じゃないといむくんを食べてまうッ… 泣
水)じゃあ食べてっ、食べてよッ!泣
水)初兎ちゃんの中で死ねるならッ…本望だよ…泣
白)そんなのッ…もうっ…泣
水面に映る俺はまるで別人。
涙を流す化け物と優しき人間、どちらが死ぬべきかなんて決まってるんだ。
白)…いむくんッ、撃ってや…
白)もうすぐ身体の自由も効かなくなるねんッ…笑
水)…っ分かっ、たよ…泣
頼りない震える手でハンドガンを構える彼
きっといむくんは今後素敵な人と結婚して、俺は記憶から消える。
そして俺だけが片想いをし続ける。
嗚呼、なんて残酷なエンドだろうな。
水)…出来ないッ!
カンッとハンドガンを落とす音が響いた
彼をしっかりと見ればもうボロボロだった。
指が2本しか無い左手、潰れた右目、撃たれた肋骨、貫通した腹部
動けているのが不思議なくらいだ。
水)初兎ちゃんっ、僕もうすぐ死ぬからさっ…笑
水)…一緒にどう?笑
白)ッ俺は、もうこんな化け物になっちまってるのにッ…泣
白)一緒になんて…逝けないんよッ…泣
水)あれっ…そうなの?笑
水)僕もう両目見えなくてさぁ…笑
水)でも僕の中で初兎ちゃんは変わってないよ
水)可愛いくて優しい人、笑
最期までこんな事言ってしまう人だ。
本当に憎めない。
大好きだ。
水)ねぇ…初兎ちゃん
水)僕もう見えないからさ…抱きしめて欲しい…笑
水)ぎゅってしたたまま海に行こ、笑
白)わかった、
水)…わぁ、もっふもふだね…笑
水)気持ちいい。僕これ好き
白)…良かった、泣
水)初兎ちゃん
水)来世は…ちゃんとプロポーズさせてね、
白)待っとるわ、笑
彼を抱きしめたまま後ろに飛び降りる
海の中は苦しくて暗かった。それでも彼を抱きしめ続けた
海の温度と変わらなくなって行く彼を離さなかった。
白)神様がいるなら、来世は二人で幸せにしてくださいっ…。
最期の息を使い切った。
暗く歪んで行く視界の中でも、彼だけは鮮明に美しく捉えた。
水)…こーらっ!
ペシッとバインダーで頭を叩かれる
白)あぃった…!
水)仕事中に居眠りしないでくださーーい
白)だからって叩かんでもさぁ…
水)声はかけました
白)…はいごめんなさーい
水)んもー…
変な夢を見た。
無駄にリアルで感覚もあった。
なんだか後味の悪い目覚めだったな…
俺は社会人3年目の初兎。
今年で27、そろそろ婚活に焦る時期。
このご時世でもバインダーでぶっ叩いて来たのは親友のいむくん。
同い年なのに上司に上り詰めてました。
白)…はぁ…
水)どしたのため息なんて
白)いやぁ…なんでもないっすよ、貴方に話しても意味無いんで
水)えぇ…もうバインダーでは叩かないよぉ
白)別にその事じゃないですけどね
カチッと時計の針が進む。
待ってましたと言わんばかりに彼は勢い良く立ち上がった
水)よし!昼休憩!!
水)初兎ちゃんランチしよランチ!
白)どんだけ楽しみなんだか…
水)ほらいーくーよー!
白)あーはいはい引っ張らないでくださいねー
水)うわー!今日は焼肉定食か…!
白)良かったですね、笑
水)え、今なんで笑ったの
白)なんでもないです笑
水)酷いハブりだ…
彼は目の前で食事をする。
いつものルーティンだ、変わらない。
水)いつも食べ終わるの早いよね…
水)リスみたいにほっぺ詰めてない?
白)いむくんじゃあるまいししてませーん
水)ぐぬ…
暇潰しにインスタを眺める
1日1回は見てしまう、いむくんのインスタ
2ヶ月前の
「結婚しました!💍💘」
の文字。
ご丁寧に相手の顔は消し込みされているが綺麗な女性であろう。
目の前で見ても左手薬指の指輪が光っている
まさに幸せの絶頂にいる。
俺は親友だから、綺麗におめでとうって言うよ
気持ちは二の次で良い。
水)…ねぇ、なんか顔色悪くない?
水)大丈夫?
白)あぁ、平気平気…笑
白)ちょっと考え事してただけやで
水)そっか…なら良いけど
水)無理しないでね笑
白)…おん、笑
)お会計700円になります。
水)あっ!
水)初兎ちゃん!
振り向いて笑う姿が誰かに似ていた。
明るい声も、仕草も似ている誰かがいた。
その人と重なって頭に鳴り響いた声。
白)…
水)だ、大丈夫…?
白)あぁごめん…なんか今日変やな…笑
水)…じゃあそんなお疲れ気味の初兎ちゃんに僕が奢ってあげましょう!
白)良いん!?
水)その代わりしっかり休んでね!
やっぱりどこか似ている。
あの夢の中の話…?
いや、もうよく覚えていない。
ただまぁ
白)いむくんが幸せなら、俺はええか
水)初兎ちゃんなんか言った?
白)なんでもない!
白)てかもうすぐ時間やで?笑
水)え!嘘!?
水)初兎ちゃんも急がなきゃ!
白)俺は資料室だからここでお別れ〜♪
水)酷ーい!
白)…またね
水)?…またね!
彼が遠くに行き、やがて見えなくなった。
資料室の前に立ったまま、自分の意図しない動きに身を任せる。
白)…このまま幸せになってね。
白)いむくん。
上記の言葉は、俺の知らないものだった。
コメント
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初コメ失礼します⸜🙌🏻⸝💕 とても感動的なお話で思わず涙を流してしまいました😭✨ 幸せの中にいた白ちゃんと水くんが一瞬で絶望に追いやられてしまう所が凄くぐっときました…! 最後のところは個人的には転生して白ちゃんの中に前世の記憶が流れてきたのかな?と思いました!✨️ 細部まで凝っていてとても素敵な作品でした!!🫶🏻️︎💕