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2025.8.4
水目線
姿見の前で何度も何度も確認する。
帯も問題ないし、髪型も変じゃない。
「よしっ!今日の俺は可愛い!!」
どんな反応してくれるかな。彼がどんな顔をしてくれるのか想像するだけでわくわくする。
でも、もしこの姿を見て引かれたら?
……怖い。嫌だ。
やっぱり着替えよう。まだ待ち合わせ時間まで余裕あ、る…
「やばっ!?」
大切なものだけとりあえず突っ込んで、大慌てで玄関へと向かう。
「いってきます!!!」
迫る電車の発車時刻。
まだまだ明るい夕方の中を駆けた。
カラコロと音を立てて待ち合わせ場所に向かう。電車の中でちらちらと見られているような気がしたけどやっぱおかしいんだろうな……遅れたとしても優しい彼は許してくれただろうし、やっぱり着替えればよかった。
ざっと周囲を見渡す。
いつもより人が多い駅前でも、背の高い彼はすぐに見つかった。一歩ずつ近付く度に心拍数が上がる。
「…ぶるーく、ごめん遅くなった……」
「んーん、そんなに待って…」
スマホから離れた視線が俺に向かう。
「…どう、したの……そんな格好して…」
「あっ…いや、その……喜んで、くれるかなって……」
陽炎が揺れる。
引かれた。絶対に引かれた。
紫陽花が花開く浅葱色の浴衣。
グロスで色付いた唇。
長い前髪は少し巻いて、後ろはいつもより高めの位置で括った。身長とか骨格は変えられないけど、高身長のぶるーくにお似合いの『彼女』に今日くらいはなりたかった。
「っごめん!どっかで服買って、」
「可愛い…めっちゃ可愛いよ……」
「…っえ……」
「えぇ…どうしよ…僕のなかむが可愛すぎるんだけど!///」
「わっ!…ちょっ、みんなみてるから///」
「…なかむが可愛いからでしょ?」
「はぁ?そんなわけっ、」
「……気づいてないの?なかむのこと見てるの男の人ばっかりだよ?」
露出した俺の首筋に顔を埋める。
ピリッとした痛みが走る。
「ぃ”……なに噛んでんだよ…」
「取られないように僕のっていう印。」
「……見えるとこやだっていつも言ってるじゃん…//」
「うん、ごめんね?でも虫除けさせて。」
瞼にリップ音が乗る。
つくづく溺愛されているんだと実感する。
「ねぇなかむ…」
「ん?なに?」
「今日は僕ん家に泊まろっか。」
噛み跡に指を沿わせる。
その言葉を真意がわからないような子供じゃない。一気に体温が上昇する。
「ぁはw顔真っ赤、暑い…?」
「…わかってるくせに……///」
「えぇ〜わかんなぁいwなに想像したの?僕に教えてよ。」
「うるさい!はやくお祭り行こっ!」
「はいはいw」
ガヤガヤとした人混みを歩く。
日が沈み出したとはいえ、はぐれないようにと繋がれた手がじっとりと濡れる。
それを紛らわせるために買ったかき氷。無意識で選んだ味はブルーハワイとイチゴだった。
多分俺らはずっとこうなんだ。
また少し暗くなった夜の中、挑発するように口内を見せた。
「みて、俺の舌凄いことになってない?w」
「うわ!真っ青だぁw…僕は?」
無邪気に出された舌先。
真っ赤に熟れたそれに拍動が跳ねる。
肌をなぞる感触が蘇る。
あぁもう。
あんなことを言ったぶるーくのせいだ。
「…あんまり、かな。元々赤だし。」
「うーん、そっかぁ……これってさぁキスしたら紫になるかな?」
「はぁ!?」
「ん?」
驚いて勢いよく見上げると、そこにあったのはなんとも思っていない表情。本当にただ気になって言っただけなのだろう。こうゆうところがあるから狂わされてしまう。
「…家に帰ってからね。」
「……え、」
誰も聴いていないだろうが、人前で言うのは恥ずかしくてすぐに顔を逸らした。きっと言った張本人は祭りを楽しみ、忘れているのだろう。
ぶるーくも俺のこと意識してよ。
そんな思いは伝わっているのか、いないのか。時折、指を絡めては彼を見上げても、赤い提灯で照らされた顔色は読み取れなかった。
「ここまで来たら結構少ないね。」
会場からは少し離れた縁石に腰掛ける。
辺りを照らす光。
少し遅れてやってくる音。
色鮮やかな花々が瞳に反射する。
綺麗だと思い見ていたら、ふいにこちらを向いて目線があった。
「……もうそろそろ帰ろっか。」
「え?花火もうすこしっ、」
「足、痛いんでしょ。」
「……気づい、てた…?」
「当たり前じゃん。ずっと歩きにくそうにしてたし。花火が終わって混んじゃう前に帰ろ?」
「いやっ、でも気をつけてたら大丈夫だしっ、」
「…足見てもいい?」
「いいけど…本当に大丈夫だよ?」
跪き、足を取られる。
まるでシンデレラみたいだとどこか他人事のようにその光景を眺めていた。
「……うっわぁ。」
「え、やっば。」
うーん…これは思ってたより酷いかもw
靴擦れなんて何度も経験してきたし、なるべく擦れないように歩いていたら平気だった。
あー、傷口みたら痛くなってきた。
「こんな状態なら言ってよ…」
「いや、俺もここまでとは。」
「絶対痛いじゃん…」
「でもっ歩けるしっ、」
「だーめ。僕が嫌なの。」
「それに…」
すこし屈み、耳に息がかかる。
身体にちからが入る。
「…はやく抱きたい。」
「……っは…」
「ねぇ…帰ろっか。」
甘く耳を撫でる。
熱を孕んだ血液が全身を回る。
身体が熱い。
花火を楽しむことより、もうぶるーくのことしか頭になかった。
ゆっくりと頷き、欲に塗れた顔で見上げる。
「ん、素直でいい子…おいで。」
小柄だと言ってもシャークんのように細身なわけじゃない。そこそこ体重のある俺を簡単に姫抱きする。
立ち止まっている人は夜空に咲いた花に心奪われている。俺らを見に目をやる人は誰もいない。
まるで世界から切り離されたみたい。
2人きりの世界。
首に回した手で引き寄せ、唇を重ねると彼に色が移る。きょとんとした顔にしてやったりと笑う。
「はやく連れ去ってよ、王子様。」
コメント
3件
今回も最っ高でした!!!!!! 尊すぎて本当にえぐかったです…破壊力の塊ですねw