テラーノベル
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2025.8.10
紫目線
けたたましい音に頭を殴られる。
設定音量はなにもいじっていないはずなのに、やけに響く。
「…ぅ”っ……る”せぇ……」
いつもなら日が差しているはずの部屋は薄暗く、何処からか迷い混んでくるあの独特な香り。
「……っはぁ…」
スマートフォンが知らせるのは豪雨警報。
しばらくはこの雨が続くらしい。
少しでも治まるかと期待しながら、額に拳を叩きつけた。
緑目線
スマイルの様子がおかしい。
通話に入ってきたときはただ寝起きなんだろうと思っていたが、時間が経っても反応が遅い。
窓から見えるのはモザイクがかかった風景。
そういえば偏頭痛持ちだっけな…
こんなにも悪天候であれば、相当しんどい思いをしているはずだろう。
「スマイル、大丈夫?」
「…なにが?」
「頭、痛くねぇの?」
「ぁ、あぁ…大丈夫…」
「……無理そうだったらいつでも言えよ。今日撮影しなくてもストックあるし。」
「…このくらい、支障ないから。」
このくらいって……やっぱ頭痛いんじゃん。
ただ、本人がそう言っているのであれば俺には手出しできない。あんまり無理してほしくないが、スマイルのことだしなに言っても聞かないだろう。
気にかけながらも撮影に戻ったが、このときの判断を誤ってしまった。
30分もしないうちにスマイルからの返答がなくなる。お得意のミュート芸かと思ったら微かに苦痛に歪んだ声が聞こえてくる。
「ん”っ……ッ”……」
「スマイル?返事して。俺の声聴こえてる?」
「……っなにぃ”…?」
「…もう撮影終わろうぜ。」
「うん、そうだね。このくらいでも大丈夫でしょ?」
「大丈夫!今日はこの辺で終わろっか!」
「はーい、シャークんお願いね〜。」
「ん、またあとで連絡するわ。」
「は……ぇ”、なんっ……」
「ありがと、じゃあまた。」
みんなも気にかけていたのか、終わった後の雑談もなしに次々とディスコードの退出音がなる。撮影予定時間よりかなり早く切り上げて、外に出る準備を始めた。
『今からそっち行く。』
個人チャットにそう送り、防水機能が備わったブーツを履いた。
慣れた手つきでエントランスのテンキーを押す。有事の際にと交換し合った鍵で玄関を開き、家主がいるであろう寝室へ向かう。
「よぉ、大丈夫か。」
「っは…?なんで、きたんだよ…」
「頭痛いだろ。大人しく寝ろ。」
「いや、別に…」
「こーゆうときに強がんなって。」
「…シャークんなら、わかってくれるだろ。」
強がる理由なのか。
スマイル自身のことなのか。
なにを指して言っているのかは分からないが、どっちでもいいことだ。どちらであろうともなんとなく理解できている…つもり。
「しばらくは一緒にいてやるから。」
「……ん”…」
「何かあったら教えろよ。」
汗で張り付いた前髪を掻き分け、痛みを取り除くようにキスをした。
狐に摘まれたみたいな顔。
なにをされたのか理解し、みるみるうちに赤くなり瞳が揺れる。澄んだ凛々しい表情が熱でほどけて、初めてみるスマイルの表情に一瞬、激しい雨が止んだ。
「あ”ー……いや、まぁその…」
「…シャー、クん…」
「俺っ、リビングにいる、」
「……きて。」
「っは、」
緩慢と布団を開く。
これはどう考えてもベッドに入ってこいと言うことだ。
「え、あ”…ま、まじで言ってる…?」
「はやく…」
「ぉ、お邪魔、します…」
恐る恐る小さく丸まった身体の横に寝そべると、わざと開けていた距離を詰められる。
背中に回される腕。
胸元に押し付けられる頭。
え、なに本当に。そんなに人と触れるの好きなヤツじゃないだろ。
熱っぽい息が胸にかかる。
痛みに耐えるためか、力強く抱きしめられる。
体調が悪いときには素直になるというか、心細い気持ちになるというか。きっとこれは口下手なあのスマイルが甘えているのだ。
そっと跳ねを抑えるように頭に手を乗せた。
触られるとは思っていなかったのかピクリと身体が反応を示す。特に嫌がる様子を見せずに大人しく撫でられるスマイルはまるで猫のようだ。
「……かわいぃ…」
「っ…それ、言うのやめろ…」
「あっ、ごめん。嫌だよな。」
「……」
「…スマイル、?」
「そうとは、言ってないだろ…」
「はぁ?んだよそれ。」
こっちの気も知らないで、そう易々と言葉にしないでほしい。
「…勘違いするからそーゆうこと誰にも言うなよ。」
「言わねぇよ…シャークん以外には。」
「……なぁ”、お前分かってて言ってる?」
「ん…」
ぐりぐりと胸に頭を押し付けているせいで顔は見えないが、髪の隙間から見える耳が確かに赤い。
「ねぇスマイル。俺に何してほしいか言って?」
普段の声よりも高く、自分でも信じられないくらいの甘ったるい声。ぎゅうっと抱きしめられる力が強くなる。
弱っているところに漬け込むなんて最低だな。
蕩けた紫色の水晶。
……ああ、そうか。
どうやら利用したのは俺だけではないみたいだ。
コメント
3件
神様ぁ!!? 尊きが尊すぎてお亡くなりますね…w