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漆黒に染めた空が、星屑一つうつさない真っ暗な夜。

私は重い屋敷のドアを音を出さないように注意しながら閉めた。

ヒールがコツコツと床を蹴る音が廊下に響いている。

そのまま自室には戻るわけではない。

洋服にべっとりとこびり付くこの生臭い液体を落とさなければ、我が仕える美しいあの方と同じ屋根の下にいることさえ許されないのだから。

シャワーの栓をぎゅっと捻ると、水が勢いよく出てくる。

水でどれだけ洗い流しても、石鹸でどれだけ擦っても、私自身が穢れているからにはそれは落ちない。

今晩、執着的に此方に危害を加えようとする貴族を始末してきたのだ。

手を下す寸前、あの中年の小太りの貴族が意地汚く最後まで罵ってきた言葉を思い出す。

『この化け物!悪魔に身を売り、それでいて平然と生き続ける異常者!!地獄の果てまで呪ってやる!』

最後までよく回る口だと感心してしまった。

化け物。汚い泥水を煮込んだような目と空っぽの脳味噌の持ち主から見て、私が化け物に見えるというのならば、身も心も素晴らしく美しいあの方から見た私はどのようにうつっているのでしょう。

化け物以下、それかもはや生き物でもないおぞましい何かなのかもしれない。

それでも彼女は私を軽蔑せず、大切なものを慈しむような目で私を見るのだから、本当にすごい御方だ。もしかしたらものすごく演技がお上手なのかもしれない。

何にしろ、私に優しくしてくださるその御心が、あまりにも綺麗だということである。

しかし、穢れを知らない清廉潔白で麗しいあの御方に、化け物が仕えてしまってもいいのだろうか。

思わず自嘲的な笑みが毀れた。

______________________


翌日。仕事部屋にて簿記を付けていると、主様がいらっしゃった。

主様はときどき、こうして仕事を手伝いたいと自ら此処に足を運んでくださるのだ。

なんと素晴らしい心がけなのでしょう。初めてそう仰られたときは、感動で涙が出そうになった。

だが、主様に仕事をさせるわけにはいかないので

一度断ろうとしたが主様自身がしたいのだと押し切られてしまった。

そして、そんな主様は仕事も素早くこなす。主様が手伝ってくださると、2倍の速さで終わるのだ。

それ故、元々仕事の時間に宛てていた時間は主様と談笑する時間になった。

これこそ、安寧の時である。

こんな私にも楽しそうにお話をしてくださる主様が、心底愛おしい。

「でね、そのときムーが…..」

突然、目が合った。

それと同時に話が止まったと思うと、何か美しいものでも見るかのように動きが止まってしまった。

何か顔についているだろうか?

どうしたのかと問うも、その瞳をきらきらとさせるばかりであまり聞こえていないようだった。

そろそろ心配になってきたところで、漸く主様が言葉を発した。

「きれい…..」

あまりにも予想外の言葉に面食らってしまった。

彼女は「綺麗」と言ったが、目線は私に向かっているので尚更困惑してしまう。

「主様?どうかされましたでしょうか….」

私の言葉に、主様は頬を紅潮させながら言う。


「ナックの髪も目も、まるで宝石みたいだよ」

突然のことでよく分からないが、褒めてくださっているのだろう。私が御礼を伝えようとするも、矢継ぎ早に彼女が口を開く。

「日光に反射してきらきらしてる!本当に綺麗ね」

そう言って彼女は此方に近づき、私の髪を一束とって眺めた。

それこそ宝石を見ているようだった。

「ナックは宝石箱なんだね。髪も目も心も、宝石みたいにきらきらしてるもの。」

ああ。彼女は本気で言っているのだ。目を見たら分かる。

主様は演じてなんか居なかったのだ。意図的では無いといえ、彼女を信じることが出来なかった自分を恥じる。

思い返してみると、私がいつも自身を責めるとき、彼女はいつも悲しそうにしていた。そして言っていた。『そんなこと言わないで』と。

「あ、ごめんね。あまりにも綺麗で。驚かせちゃった?」

「…..いいえ。本当にありがとうございます。」

「ふふっ。いつものナック節が出なくなるくらい驚いたの?」

ころころと笑う彼女の鈴の音のような声を聞くと、身も心も浄化されるような気分だった。

それと同時に、自然と全てを話したくなっていた。

「昨日、貴族に化け物だと言われたのです。」

「酷いことを言うのね」

「はい。ですが、妙に納得してしまった自分もいました。そして、考えたんです。己も認めるような化け物が、大切な主様に仕えていていいのだろうかと」

見上げると、貴方はまた悲しそうな目をしている。

「でも、主様のお言葉で救われてしまいました。主様には本当に敵いませんね」

次第に主様の顔が綻んでいく。これを見るために生まれたのかもしれないとも思わせるその笑顔は、それこそ宝石のようであった。

「ナック、あなたが化け物だったとして、それはそれは美しい化け物だと思う。きっとその貴族は、あなたの輝きに嫉妬したのよ。」

そう語る貴方は、力強かった。

「そんな貴方が仕えてくれるのだから、私は世界一幸せ者ね。」

それに、私はありのままのナックが好きなんだから、と彼女は少し口を尖らせて見せた。

この御方は、私が化け物でも、それでも良いと仰るのか。

私は少しぼやけた視界を誤魔化すように、いつものように、主様への感謝の言葉を次々に並べる。

彼女は満足したように満面の笑みで頷いた。

悪魔執事と黒い猫

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