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ようやく部屋をキレイにし終えて、息をついていると、ピンポーンと、インターホンが鳴った。
ドアを開け、緊張しつつカイを中へ迎え入れる。
ベッドの他に小さなテーブルがあるばかりの8帖のワンルームに、長身に黒のロングジャケットが映えるカイが入ってくると、部屋の空気が一変したようにも思えた。
「ワイン、買ってきた……飲めるか?」
ベッドの手前にあるガラスのテーブルに、ワインの瓶を置き、
「……いきなり来て、ワルい。外とか俺の部屋だと、記者が張ってるかもしれないから……」
彼の話に、「うん、わかってるよ…」と、解けない緊張のままに答えた。
「あの…私の方こそ、急に会いたいだなんて言い出したりして、ごめんね…」
今や人気アーティストとなった彼には、なかなかプライベートな時間も取りにくいだろうに、わがままを言って迷惑をかけてしまったと感じた。
「いい…そんなの気にすんな…ミクル…」
名前を呼びかけられると、それだけでドキリとする。
「……ワイン飲むか? コルク抜きとグラスを、持ってきてもらえるか?」
彼に頷いて、キッチンから持ってきたのを手渡した。
あけられたワインを、グラスに分けて注ぐと、軽く乾杯をした。
「……カイ、こないだの話だけど、実はあんまりめどが立ってなくて……」
最初に例の一件を謝ると、
「ああ…別に、かまわない…。……俺には、まだ歌える場所があるから…」
カイは逆に私を気づかうように言い、グラスをひと息に空けた。
空いたグラスにワインを継ぎ足すと、喉が渇いていたのか続けざまに飲み干した後で、
「タバコ吸ってもいいか?」
と、彼が私に訊いてきた。
「うん、いいけど……ねぇカイ、前から聞きたかったんだけど……」
もったいぶった風な問いかけに、カイが「なに?」と、首を傾げる。
「カイは、なんでタバコを吸ってて……別に、たいしたことではないんだけど、カイは歌うために、その…喉を大事にしたりしないのかなって……」
タバコを取り出したカイが、「ああ…」と、声に出して呟く。
「……喉は、大事にしてる。だから、タバコはたまにしか、吸ってない……。1日吸わないことも、よくあるくらいだし……」
タバコをすぐには口にはくわえないまま、ただ指で弄びながらカイが話した。
「そうなの? じゃあ吸わなくてもいられるんだよね……」
「うん…いられる。けど今までは、吸わないといられなかったからな……」
その返しに、不意に「あっ…」と、気づいた。
「……もしかして、シュウたちと何かある度にだったりとか?」
コクリと首が縦に振られる。
「……タバコは、俺の精神安定剤だった……」
「そうだったんだね…」切ない思いで頷く。
「うん…でも、今は、ミクルがいてくれるだけでも、助けになってるから。だから、やっぱり吸わなくてもいい」
そう軽く笑って言うと、その場でタバコをしまい込む様子に、彼の少なからず支えになれていることが嬉しくて、私も自然と顔がほころんだ……。