――ぎゅっ
「……っえ?あっ……」
僕は優しく抱きしめられる感覚で目が覚めた。
ソファーベッドは案外心地よく眠ることができ、程よく疲れを解消することができた。
隣で顔のきれいな彼が僕を抱きしめながら寝ている。
長いまつげに僕の息がかかり、柔らかく揺れていた。
「……ふふ」
さっきまであんなに頼りになった彼が今はあどけない表情で眠っている。
その姿がなんだかかわいくて唇が持ち上がってしまう。
「――うーん」
「ひわっ!」
彼の髪の毛を撫でながら彼の寝顔を見ていたら強く抱きこまれてしまった。
僕の体と彼の体が密着しているので心臓の音で彼が起きてしまわないか不安だ。
そう思っていると彼の瞼がゆっくりと持ち上がった。
「おはよーしゅうくん」
「お、おはよ。ごめん、起こして」
――ちゅっちゅっ
「ふっ……んっあ、ふふふ」
寝ぼけているのか、それともまだ夢の中なのか瞼から頬へおでこへキスを落とされる。
それがくすぐったくて思わず声に出して笑ってしまった。
「あはは、やめっ」
「珠羽くんもキスしてよ俺に……ほっぺでいいから」
笑っているとそんな言葉が耳に入る。
ねだるようなその声に思わずドキッとしてしまう。
「……ちゅ……っ?」
申し訳ないないけれど今の僕には直接口づける勇気がない。
だから己の人差し指にキスをし、そのまま彼の頬にくっつける。
「珠羽くん……」
恥ずかしそうに視線を逸らし、耳を赤らめている。
さっきまでの余裕な表情が嘘みたいに散った
「……?」
「してくれるとは思わなかったから……」
そんなに照れられるとこっちが恥ずかしい。
「もう五時か……」
「えっ、もうそんな時間なんで……なの?」
にこりと笑って立ち上がった彼は椅子に掛けてあったエプロンをつけ始める。
「ご飯作ろっか。なにがいい?」
「えっと……お、オムライス」
実は夢の中でオムライスが出てきて密かに食べたかったのだ。
ちょっぴり甘い卵にケチャップでにこちゃんマークが描かれたそのオムライスはおいしかった…はずだ。
「うん、わかった。待ってて」
柔らかく返事をしてから斗希くんが立ち上がる。
しばらくすると僕の前においしそうなオムライスが運ばれてくる。
器には星型の人参とブロッコリーが乗っていてお子様ランチみたいで少し可愛い。それに……
「にこちゃんマーク……!」
「うん、可愛いでしょ。珠羽くんもよく書いてくれたよね」
夢の中で見たのとほぼ同じオムライスが僕の目の前にあった。
おいしそうな匂いにぐぅーっとおなかが鳴る。
「いただきます」
僕が言うと彼は微笑んで召し上がれ、と言ってくれた。
「んっ、おいしい!ほら、斗希くんも食べる?あーん」
「あう、あ……ごめん」
つい、スプーンを差し出してしまった。とても恥ずかしい。
――パクッ
しかし彼は嬉しそうな顔でそのままもぐもぐと食べてしまった。
「ん、おいし」
じわじわと顔が熱くなる。普段の僕なら友達相手にこんなことしないのに彼には不思議としてしまった。……が嫌じゃない自分がいた。
「そ、そういえば、自分の分は?」
僕は自分の頬を両手で覆いながら彼に訊ねた。見たところ僕のところにしか用意されていない。
「俺は二色丼にする。卵の賞味期限きれそうだったから」
そういうと彼はまたキッチンのほうへと戻っていく。……が今度は早く帰ってきた。
僕の隣に座り、いただきます、と手を合わせる。
「おいしい?」
「うん、まあまあかな。お肉は作り置きだから味落ちちゃってるし……」
彼はそういうがこちらの二色丼もおいしそうだ。いい匂いが漂ってくる。
「食べてみる?」
「う、うん」
すると彼は僕の口にスプーンを運ぶ。本日二度目、いや僕の指も合わせると三度目の間接キスだ。
三度目と言ってもなれるわけではなく……
「おいしい?」
「う、うん」
恥ずかしさに涙が出てきそうだ。でも、おいしい。男である僕でさえこんな家庭的な男が夫だったらいいなと思う。
「そっか、良かった」
僕の耳は食事が終わるまでずっと熱かった。
「もう電気消すね」
「うん」
ここにも僕の部屋があるにはあるが、ベッドは置いていない。
しかも寝室まであるとなると僕がそこで寝るのは必然だった。
「寒くない?」
「ちょっと寒いかも……」
すると彼はエアコンをつけ、僕を抱きしめてから布団をかぶった。
相変わらず、なのか。過保護というか、心配症というか……。
「人の世話をするのが好きなの?」
「……いや、それは珠羽くん限定」
「そうなんだ……」
暖かい布団の中で一緒に話す。まるで修学旅行みたいで楽しい。
斗希くんの声は昼間よりも優しくささやく。その低い声に僕はドキドキしっぱなしだ。
それより、僕の世話が好き、とはどういうことだろうか。
僕はそんなに危なっかしい自覚はないが、彼にはそう見えるのかもしれない。
僕も斗希くんに甘えている節があるのかもしれない。少なくとも瑛太には食べさせてもらうとかもないし、自分から彼とスキンシップをとりたいと思うことはない。
「僕、斗希くんのこと思い出せないけどさ……やっぱり僕斗希くんといると安心する。初めてなのに、初めてじゃない感覚」
緊張でドキドキするのに、胸の奥では甘くて、嬉しくて……
でも同時に思い出せない自分の胸が痛くて苦しい。
大切にされている自覚はあるのに、彼は自分の面影を見て笑っているようで少し不安だ。
「大丈夫、俺は、どんな珠羽くんでも大好きだよ。記憶がないとしても変わらないから」
斗希くんは僕を安心させるように背中をたたいてくれる。
「ほんと?僕が実は斗希くんをだましてる悪い奴だとしても?」
「うん、俺は珠羽くんに騙されても、たとえ百番目でも一緒にいたい」
できれば一番がいいけど、と少し笑いながらおどけたように言った。
恋、かは分からないけれど無性に一緒にいたい。
以前の僕も彼のそういうところを好きになったのかもしれない。






