数日前の、青葉総理の演説は退屈だった。日米安保の更なる強化と情報公開、そして、現内閣維持という言葉は、
『権力にしがみ付く醜い大人』
といった印象を、多くの若者達に与えた。
翌日に、アメリカ合衆国大統領が行なった演説からは、
『同じ価値観を有する国』
と云った文言が外され、日本に不信感を抱くアメリカの本音が垣間見えた。
ところが、最も国民を驚かせたのは、翌る日に放送された報道番組での、幣原元統合幕僚長の発言だった。
『桂木内閣とアメリカ政府による、新型兵器実用実験の失敗が東京事象をもたらした』
番組内では、日米で交わされた極秘文書も明らかにされた。
『ファイル222』と『データ9696』である。
東京テロに関わったとされる、公安の女性職員の話題は、ネットニュースが先行配信していた。
テレビは、その跡を追う形で報道していた。
この時に、渡辺は閃いたのだ。
反米感情を利用した動画を流せば、再生回数が増えるだろうと。
事実、各地の米軍基地周辺では小競り合いも発生していた。
渡辺は、徹夜で台詞をこしらえて、小道具のモデルガンを車に積み込みながら考えた。
「カメラは本格的なモノにするか・・・スマホカメラで臨場感を演出するか…」
合流した宇徳も萌も、スマホで撮影するべきだと語っていた。
臨場感と手軽さが理由だった。
そうして3人は、現実の中の非現実の世界に迷い込んでしまった。
『自我認識欠乏症』
3人共に、侵されていた。
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