多分計画性も何も無くて、場当たり的にやって来たバストロの答えは…… やはり、場当たり的な物でしかないのである。
「えっとぉ、そうだっ! ザンザス! ヒールを頼む、いいやっ、フルヒールをヴノに頼む!」
この要求を聞いた、巨大なザンザスは戸惑った声を漏らして躊躇(ためらい)を滲ませている。
『ふ、フルヒール? それは構わないんだがぁ、え、えっとぉ……』
バストロは厳しい声で続ける。
「おいおいっ! もう待った無しなんだぞっ! ザンザス早く頼む!」
『あ、ああ、えっと『全回復(フルヒール)』』
パアァッ!
眩い光が全身を包み込み、有り得無い程の多幸感に包まれて、幸せ一杯の表情を浮かべたバストロは意識を失ってしまうのであった。
彼の手から地面に向けて真っ逆さまに落下していくヴノの体、慌てて駆け寄り確りと掴んだフランチェスカはウッカリ者の自身のスリーマンセル、獣奴(じゅうど)のザンザスに対して的確な指示だ。
「何やってるのよザンザス! バストロじゃないわよ! ヴノに掛けなくっちゃ駄目じゃないの! さぁ、早くしてっ! のそのそしてたら手遅れになるわよぉ!」
焦り捲る声とは対照的に無表情を維持し続けているフランチェスカに求められるまま、ザンザスは再びの詠唱を試みる。
『あ、ああ、判ったぞ、『全回復(フルヒール)』、どうかな? 当たった、かな?』
「あああぁ~、あ、アタシじゃないってばぁ~、はぁ~ん、あああ~」
なんと言う事であろうか! バストロに続いて彼の奥さん、五年もの長きに渡って別居生活中だったフランチェスカまでが気持ち良さそうな表情を浮かべて気を失ってしまったではないか!
つい先程、彼女が落下の危機から掬(すく)い上げた(文字通り)ばかりのヴノは再び地面、硬い岩肌に向けて頭を下にして迫っていく。
ズザッァァ!
「ぐ、グフゥッ!」
『ガッ? レイブッ!』
『れ、レイブお兄ちゃんっ!』
ヴノの体がフランチェスカの腕を離れて硬い地面に激突する直前、足先から素早く滑り込んで見せたレイブは、無警戒だった腹部に二メートル超の猪を受け止めた後、笑顔で答える、因みにこの間も喉の奥に丸まって窒息させようと画策し続けてて居るヴノのトンタン、いいや舌べらを掴んだまま、である…… 結構凄い、と言うかナイスガッツ! であろう。
「ざ、ザンザスさん、は、早くぅ~、ケッホケホケホケホォ……」
一連のガッツ溢れる行動を見ていたザンザスは、コレまでに無く正直な感じ溢れる口調でレイブに返したのである。
『れ、レイブ少年っ! す、済まない、私にはそんなに小さなヴノに照準を合わせられない様なのだ…… ど、どうすればぁっ!』
「えええぇっ! ケホッ! じゃ、じゃあどうすればぁっーー!」
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