スーツ姿の男が、舞台の上にハードケースを持ち上げた。ケースの中から現れたギターは、意外なものだった。
パールホワイトの、星型シェイプ。ピックアップは3つ装着されていて、フロントとミドルがシングルボビンの幅の狭いタイプ。リアが幅太の、ハムバッキングタイプだ。ミューズ系の総大将が、ロックギタリスト憧れのギターを持っているなんて、こんな不調和なことはない。
「バルドゥビーダギターなんですね」
米子氏に近づき、声をかけた。
「ただのギターだよ」と彼は答えた。
音の調整には、しばらくの時間がつきものだ。
俺はウォーミングアップを始めた。ベースが、ドラムが、バックバンドがついてくる。指もよく動く。今日はいつもに増して特に調子がいい。観客が湧いている。表情には出ないが、社長の心臓は縮みあがっているに違いない。
社長が近づいてきた。恐れ入ったね、とでも言うのだろうか。
「フィードバックをちゃんと聞いたほうがいい。そうすれば、もっとよくなる」
「は?」
この人は、音楽会社のプロデューサーでもミュージシャンでもなく、経営者だろ。俺に、そんなことを言える資格などあるものだろうか。ギターは俺のフィールドだ。
「まさか、バックの音も聴けっていうんですか」と俺は言った。