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王子の部屋を出た後、私専属の従者であるメイアが待機している場に着いた。


「アンジェラお嬢様」


すらりと長身。メイド服がよく似合う赤毛の女性だ。シニヨンの髪、綺麗な琥珀色の瞳。美人なのだが、無表情なのが玉に瑕。もっとも従者というのはこういうものなのだけれど。


「お屋敷に帰るわ、メイア」

「何かございましたか?」

「わかる?」

「わたくしは、アンジェラお嬢様にお仕えしている身ですから」


物心ついた頃から彼女はいた。見た目は二十代半ばの姿は変わらず、実年齢がいくつなのか知らない。……否、教えてくれない。


「婚約が破棄されたわ」

「おめでとうございます」

「ちょ、それヒドくない!?」


メイアの言葉に、私は思わず彼女の顔を見た。感情の読み取れない顔で、メイアは言った。


「お嬢様があの好色家の毒牙に掛からなかったことは、とても喜ばしいことにございます」

「メイア……」

「手を出していたら、その腕切り落とすところでした」

「ちょっと、相手は王子様よ!?」


たぶん、次の国王になる人だよ。


「知りません。王子だろうが国王だろうが、アンジェラお嬢様に触れる者には容赦は不要。わたくしは、お嬢様以外、関心がございませんので」

「私は王陛下より上?」


これである。真面目な顔して、実はかなりおかしいのがメイアという女性だった。魔術に優れ、何でもそつなくこなす、非常に優秀なのだが、こと私が絡まないと、とんと働かないのである。

私専属というのは天職とのたまうが、それ以外のところでまったく働かないせいでもある。


「あなたにとっては、私は何なの?」

「アンジェラお嬢様はアンジェラお嬢様です」


真顔である。世界は私を中心に回っていると言わんばかりである。そんな私こと、アンジェラ至上主義者であるメイアに、これを言ったらどう反応するか……。


「それでね、メイア。新しい婚約相手を宛がわれたわ」

「新しい婚約相手、でございますか?」


ピクリと、その細い眉が動いた。


「そう、アディン王子がね。侯爵家の面目もあるからと、代わりの相手を用意したというのよ」

「その相手とは?」

「目つき怖っ!」


刺すような視線とはこういうものか。


「レクレス王子よ。第三王子の……メイア?」


鳩が豆鉄砲を食ったような、呆然とするメイア。こんな表情を見るのは初めてかもしれない。


「だ、大丈夫? メイア?」

「お構いなく」


いつもの表情に戻るメイア。


「しかし、あの王子は、大層な女性嫌いと評判ですが」

「そうみたいね」


どうして、アディン王子は、レクレス王子を私に薦めたのかしら? 王族の兄弟に関して、第三王子のレクレスは他の兄弟たちと母親が違うので、何かと冷遇されていると聞くが……。そんな相手を紹介するなんて、嫌がらせかしら。


「嫌がらせですね、ええ」

「ちょ、メイア!? 私の心を読んだみたいなことを言わないでよ」


心は読めないが、私の言動や仕草を見れば何を考えているのかわかる、というのが、このメイアである。

王城を出る。侯爵家の馬車に乗り、屋敷へ帰宅する。


「それで、今後如何いたしますか?」

「まずは、お父様に報告かしら」


果たしてどんな顔をするだろうか。考えると、憂鬱になるけれど。


「正直に言えば、アディン王子にフラれてホッとしているところもある。家の体面がどうとか関係なくね」

「お嬢様も、ひとりの人間でありますから」


メイアは淡々と言った。


「自分の感情に素直でもよろしいと思います」

「そうね」

「問題は、次の婚約相手でございますが――」

「女嫌いのレクレス王子」


私は座席にもたれ、天井を仰ぎ見る。


「私の記憶違いでなければ、あの王子は辺境にある直轄領にこもっていると聞いた」

「はい、それで間違いありません」


メイアが何もない空間を触れると、魔力のオーラをまとった本が現れた。魔法使いでもあるメイアの魔法だ。私は見慣れているけれど、いったいどうやるのか理解できない。

宙に浮いている本が勝手に開き、メイアはそれに目を落とす。


「レクレス王子領は、王国北東の国境にあります。お嬢様のご記憶にある通り、辺境でございます」


第三王子への王国の扱いが透けて見えそうな配置だこと。


「北に隣接するのが魔の森と呼ばれる魔物が出現する森ということもあり、王子指揮の青狼騎士団が守備しております」

「武勇に優れたお方」

「王都では極端な女嫌いであると同時に、粗野で荒々しい猛獣などと言われております。少なくとも、よい評判は聞きませんね」

「私に、猛獣を扱えというのか」


思わず苦笑してしまう。アディン王子も酷いことをおっしゃる。


「よくはわからないけれど、私の中のイメージと齟齬があるわね」

「そうですか?」

「見た目はとても素敵だったと思う」


猛獣、という言葉がどうしても結びつかなかった。


「まあ、幼い頃の記憶だろうけど」

「美形ですよ、ええ」


メイアはそっけなかった。


「だからこそ、乱暴な物言いや、女性嫌いか重なって悪評になっているかと」

「そういうことね」


そういうことにしておく。しかし、婚約者になるのよね、その王子が。


「女嫌いということは、まあ向こうから会いにくることはないでしょうね」


だがそのまま会わずに宙ぶらりんなのは、お互いの家にとってもよろしくない。


「会いに行きましょう。私の方からご挨拶に伺うわ」


ただし、相手は筋金入りの女嫌い。いくら婚約相手でも渋られるかもしれない。そうだわ。


「男装して、一度会ってみましょう!」

「お嬢様!?」


ビックリするメイア。彼女の驚く顔が見られるのは珍しいわね。決めたわ、男装しましょう。いざ、レクレス王子領へ!

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