テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#異世界転生
しめさば
7,067
#魔法
Nemuri
177
comi
8,136
「シャロンさん。急で申し訳ない」
「いえいえ。これもお仕事ですから」
俺たちはコット村を出発し、ハーヴェストへと向かう馬車に揺られていた。目的地はもちろんリブレスだ。
依頼を受けた特別な冒険者として、入国を許されてはいるが、土地勘は皆無。ということで、今回はエルフ族であるシャロンに同行を頼んだのだ。
「楽しみだね、ミアちゃん」
「うん!」
ミアと一緒に楽しそうにしているのはシャーリー。
シャロンを借りるには、シャーリーをパーティメンバーとして連れて行く以外に方法がなかった。
「シャーリー。カイルはいいのか?」
「まあ大丈夫でしょ? 一応課題は出してきたし。やってなきゃ帰ってからとっちめればいいしね」
俺たちの旅立ちを嬉しそうに見送っていたカイル。
出された課題がなんなのかは、聞かないでおこう。
「そうか……。まあお手柔らかにな……」
従魔たちをモフモフしながらも、シャーリーとミアは嬉しそうだ。
「どんな所かな? わくわくするぅ!」
ミアとシャーリーは、まだ見ぬ新天地へと思いを馳せているようだが、俺はというとそうでもない。
頭の中にどうしても仕事というワードが浮かんでしまうという点と、歳のせいか素直に楽しめないというのが実情だ。
家族旅行で海に行くと、ほとんどの場合、父親は泳がずに荷物の番をしている。それはやらされているのではなく、進んでやっているのだ。
それほどに楽しめない身体になってしまっているのである。親は子供たちが楽しんでいる様子を見ているだけで満足なのだ。
「シャロンさん。リブレスでの注意事項なんてあったりします?」
種族間の問題。それは根が深く、宗教問題にも似ている。故に軽視はできない。差別用語やマナー違反など、色々な制約があることは承知している。
ましてや、排他的種族であるエルフの里であるならば、守らなければならないルールはある程度存在するはずだ。
「そうですね……。普通にしていれば、特に問題はありませんが、樹木を傷める行為は酷く非難されます」
「それは禁止されているということですか?」
「いえ、そこまでは……。木材は建材として使いますし、許可があれば伐採も可能ですが……。大昔にドワーフ族と木材を巡り争ったことがありまして、その名残といいますか、他種族には特に厳しいというのが現状ですね」
「なるほど……。その樹木に明確な線引きはないんですか? 例えばその辺りの雑草とか……」
「雑草は大丈夫です。明確な線引きと言われると難しいですね……」
悩むシャロンを見かねたシャーリーが小言をぼやく。
「九条って案外細かいわよね」
「細かいんじゃない。慎重なんだよ」
郷に入っては郷に従えだ。仕事といえど、相手の敷地内にお邪魔するのであれば、それを尊重するのが作法である。
何も喧嘩を売りに行くわけじゃない。ちょっとした観光旅行のついでにお仕事をするだけ。
どうせ行くなら楽しむべきであり、無用な争いを避けるのは当たり前。俺のやっていることは、旅行のガイドブックを確認しているようなものなのだ。
ハーヴェストが近くなると、シャロンは俺の異変に気が付き、顔を覗き込んだ。
「九条様。もしかして体調が悪かったりします?」
「いえ、少し考え事を……」
「何かお悩みですか?」
「いや、大したことではないのですが、船酔いが気になって……」
「あら。九条様にも弱点があったのですね。でも大丈夫ですよ? 私、|異常耐性術《ディヴァインオーラ》使えますから」
「ディバ……なんです?」
「|異常耐性術《ディヴァインオーラ》です。状態異常予防魔法とでも思って頂ければ……。ミアちゃんが使えなくてもギルドに言えばかけてもらえますよ? 効果時間は少なく見積もっても一日。熟練者であれば一週間は持ちますが、私は三日ほどです。と言っても、今回は同行しているので、切れたらすぐにかけ直しますから」
初耳である。そんな魔法があるとは知らなかった。
ギルドは扱える魔法を公表しておくべきではないだろうか?
ギルド情報誌なぞ作っているのだから、ついでに載せておけばいいのに……。
個人差があるのは承知しているが、担当が使えなければ存在しないと思っても仕方がない。他の冒険者たちはそういう情報をどこで手に入れているのだろうか?
やはり経験の差だろうか? ……いや、違う。恐らくは担当が教えてくれるはずだ。
そこで俺は気付いてしまったのだ。なぜ、ミアがそれを俺に教えなかったのかを。
「なあ、ミア……?」
ねっとりとした視線でミアを見つめると、それを嫌うようにミアはサッと視線を逸らした。
「ミアは、なぜそれを教えてくれなかったのかなぁ?」
ミアの頬に流れる一筋の冷や汗。気まずそうにしながらも、カガリの尻尾をいじくり回す。
あの時、グリムロックでのことだ。俺がそれを知っていれば、白い悪魔の討伐にミアを連れて行く事はなかった。
「何か申し開きがあるなら聞こうじゃないか」
と言っても、本気で怒っているわけじゃない。
俺だってダンジョンの事は、ミアも含め隠していたのだ。自分の事を棚に上げるつもりはない。
ミアの事だから、きっと俺と一緒にいたかったとでも言うのだろう。なんと健気で可愛らしい模範解答。
だが予想に反し、ミアからは想定外の答えが返って来た。
「シャーリーさんも知ってて黙ってたよ?」
「えっ! ちょっとミアちゃん!?」
急に名指しされたシャーリーは、まさかの共犯者扱いに動揺したのか声が裏返る。
「確かにシャーリーもあの場にいたな……。まさか知らなかったとは言わないよな?」
恐らくシャーリーは、ミアの顔を立てて黙っていたのだろう。
「いや……確かに黙ってたけど……」
俺に詰め寄られ、しどろもどろのシャーリーであったが、相手が悪いと悟ったのかわざとらしく視線を逸らし、その先のミアに愚痴をこぼす。
「ミアちゃん……。なんか最近、九条に似て来てない?」
ミアはしてやったりといった表情でクスクスと笑顔を見せていた。
シャーリーを巻き込み味方に付ければ、優位に立てるかもしれないとそう思っているのだろう。
そもそも、勝ち負けの勝負をしているわけではないのだが……。
「私は、ミアちゃんのために……ねぇ?」
「頼んでないもん!」
なぜか二人の間で起こる水掛け論。いつの間にか、俺は蚊帳の外である。
あーだこーだと言い合う二人に、カガリは気を悪くしたのか、不満を漏らす。
「うるさいですね……。どっちでもいいじゃないですか……」
まるで自分には関係がないとも言いたげな口調ではあったが、そうは問屋が卸さない。
「カガリ。お前だって同罪だぞ?」
「なぜです!?」
「ミアが嘘をついていたのを知っていて、黙っていたんだろう?」
「う゛ッ……」
どうやら図星の様子。カガリの耳はぺたりと倒れ、気まずそうだ。
そんな賑やかな車内を静めたのはシャロンである。わざとらしい大きな咳払いに、注目が集まる。
「少し静かにしてください。まだ九条様には言っておかなければいけないことがあるのに……」
それに全員が首を傾げる。
「なんでしょう?」
「リブレスで冒険者がパーティを組んで活動する場合、チーム登録が必要になります。到着後、円滑な登録のために、九条様にはその名前を今の内から考えておいてほしいのです」
「へぇ……。そうなんですか。初耳ですね」
「リブレス国内限定なんです。一人の責任はパーティの責任になります。リブレスではそれが特に顕著で重いんです。パーティメンバーの誰かが罪を犯せば、全員が同様に罰せられます」
「意外と厳しいんですね……」
「はい。それとエルフは他の種族とあまりパーティを組みたがらないので、もしパーティメンバーの補充を考えているなら、ハーヴェストかグリムロックで探してからの方がよろしいかと……」
「わかりました。でも、パーティメンバーはこれ以上増やすつもりはないんで、その辺りは大丈夫でしょう」
パーティの名前。正直何でもいいのだが、ハーヴェストから海路で約一週間。さらにそこから陸路での長旅だ。
急ぐ旅路でもないのだから、そのうち適当に思いつくだろうと、俺は気楽に考えていた。
コメント
1件
しめさばさん、第352話読みました!今回の話、めちゃくちゃ好きです。九条が船酔いを気にするところとか、ミアが異常耐性術を隠してた件を問い詰める流れ、めっちゃ笑ったw シャーリーを巻き込んで「頼んでないもん!」って言い返すミアが可愛すぎる。カガリまで同罪って言われて耳ペタンってなるのも、このパーティの空気感が伝わってきてほっこりしました。リブレスって思ったより厳しいルールあるんだな…パーティ名、九条ならどう決めるのか気になる!次回も楽しみにしてます🔥