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『美久璃(ミクリ)、ここ最近体調が悪いらしくてずっと病院にいて学校に行けてないんだって波瑠(ハル)さんが言ってた。』
波瑠さんというのは美久璃の母である。ショートで173cmと女性としては背が高く、私の中学の担任だ。言う訳もなく、生徒からは男女共に人気である。特に男子から。
「そんなの寂しいよな。」
『うん。美久璃も寂しいと思う。だからせめて私たちの日々を話してあげよう?いいよね、そうちゃん?』
咲雨が蒼太(ソウタ)の事をそうちゃんと呼ぶのは殆どない。ただあるとすれば、頼み事の時か…。何故、頼み事の時なのか、それは蒼太がそうちゃん呼びに弱いことを私は知っているからだ。そうちゃんと呼ぶと最初はのり気じゃなくても結局、蒼太が折れる程だ。
「うん。そうしよっか。」
蒼太は私の意見にすんなり賛成した。美久璃は学校に行くのに医者の許可が必要だった。ストレスが溜まらないように週に1回程度しか行くことが出来ない。だから行けない美久璃の為に今日の出来事を話してあげよう。そう蒼太と内緒で話し合って決めた。小学校を卒業し、蒼太は私立のいい中学校へ行ったので離れてしまった。咲雨も私立に行ける学力はあった。だけど、美久璃を一人残すのが嫌だったのもあり、受験をしなかった。入学式の前に校長先生に頼み込み、美久璃と咲雨は同じクラスにしてもらった。この事もきっと美久璃は知らないだろう。クラスが馴染み始めてからすぐの事だった。美久璃は検査のせいで数ヶ月の間、登校できなかった。そして、クラスメイトたちは美久璃が学校に来ないのは、ヤバい病気にかかっているからだ、という噂が流れ始めた。病院から出てきた、頭に包帯を巻いた美久璃を見たと言っていた。咲雨は必死に、病気ではない。違うと主張していた。でも私一人の言葉は信じてくれなかった。美久璃が学校に来るとみんな怖がって挨拶をしなかった。美久璃が話しかければ無視をしていた。美久璃はきっとこうなると分かっていたんだと今は思う。自分と周りは違うんだと。そのいじめは徐々に悪化していった。
「病気移るから近寄ってくんな」
「ヤバい病気持ってるやつは病院にいろよ」
「学校なんかきてんじゃねぇよ」
なんて文字が机に大きく書かれていた。美久璃は苦笑いをして、咲雨は美久璃の背中をさすって。二人で雑巾で机を拭いていた。ある時は下駄箱に菌扱いした手紙と消毒液でビショビショになった上履きが入っていたり、机がなかったり。クラスメイトは日に日に勢いを増していった。中二の2学期の途中から美久璃はストレスにより、何ヶ月も学校に来れなくなっていた。美久璃はちょっと風邪ひいちゃっただけだよ、なんていって誤魔化していたけど。
(ねぇ?美久璃、隠したって分かるんだよ。何年一緒にいると思ってるの?)
学校に来れなくなってから、蒼太がいなくても続けていた、毎日、あの桜の下で今日の出来事を話すという日課すらもできなくなっていた。その頃から、蒼太と咲雨が遠距離で付き合っているのではないか、と噂をされていた。実を言うと中学で疎遠になったわけじゃない。蒼太は中1の途中までは毎週美久璃の入院している病院に行って、4階の隅にある428号室で待ち合わせて美久璃のお見舞いに行っていた。それをクラスメイトか、誰かに見られていたんだろう。でも、ずっと放っておいた。関わるなんて意味ないと思っていたから。それは連絡して前々から蒼太と決めていた。もし、美久璃がいじめられたら美久璃にこれ以上酷くならないように無視をする、と。それがのちに悲劇を起こす事になるなんて知らずに。ある朝、いつものように一人で学校へ向かったら黒板に
「東は邪魔だった?!!遠距離恋愛してた幼馴染の怖い姿!!!」
なんて記事のようなものが黒板の全体にプリントが挟まれてあった。胸糞悪い内容だ。咲雨は何も言わず、ただ腕を動かした。全てのプリントをクシャクシャにしてゴミ箱に捨てた。美久璃の机を綺麗にした。美久璃の上履きを片付けた。その夜、美久璃はもう、中学校には来れないかもしれない、と蒼太にメールで伝えた。蒼太は
「そっか…..」
その一言だけだった。それから蒼太とは連絡も、週一会うのも突然になくなった。
梅雨の湿ったこの時期になるとみっちゃん、美久璃の誕生日がやってくる。美久璃の誕生日は6月の27日。今年は事情があって蒼太は来れないらしいとお母さんから聞いたので、蒼太抜きの2人での誕生日パーティーになるはずだった。そのパーティーが主役が、、もう二度と開催することが出来なくなる事を私も含めて誰もが予想もしていなかった。
6月の27日の金曜日、当日の空は太陽が私たちを照らしていた。梅雨の時期にも関わらず、雲ひとつない快晴だった。美久璃は
「パーティー日和だねー。」
なんて呑気だったけど。咲雨は不気味でしょうがなかった。すごく嫌な予感がしていた。
(こういう予感というものは当たってしまうものなのよね…)
呑気な美久璃と反対に咲雨は気鬱だった。
三時間目の休み時間だっただろうか。階段の方でなにか、鋭い音がした。すると、誰かが大声を出している。
「だれか…~-救急車-,~…~血が」
嫌な予感がしたのはこれだ、と咲雨は確信した。
梅雨だと言うのに雲ひとつない晴れだった、
美久璃が学校に来ていた、
学校に行く時はいつも野良猫ちゃんを見てくから遅刻ぎりぎりで登校するのに今日は真っ直ぐ早歩きで学校に向かっていた、
思い返すと不自然な行動がいっぱいあった。咲雨は思わず、廊下を走って声のする階段へと向かった。教師の、波瑠さんの、美久璃を呼ぶ声が聞こえた気がした。ただ、無我夢中で声のする方へと駆けた。そこには階段で血を流した、女の子の、、倒れた美久璃の姿があった。目を擦った。もう一度見た。何度か繰り返しても美久璃以外には見えなかった。
(……信じたくない。信じられない。こんなのは、もう二度と経験したくないと思っていたのに…..っっつ…..。これは美久璃ではない。これは、、、、夢だ。そう夢、悪い夢だ。早く夢から覚めないと。夢であってほしい。悪い夢であって…….)
視界がぼやける。そして、意識が途切れた。そこからの記憶はなんにもない。なにをしていたのか、ご飯を食べていたのか、寝ていたのか、それすらも分からない。気づけば、美久璃と同じ病室で眠っていた。あの時と状況が似ていたためにパニック障害を起こしたのだろうと言われた。結論をいうと美久璃は亡くなった訳ではない。でも死んでると言ってもおかしくはないだろう。美久璃は話すことも歩くことも目を開けることもなくなったのだから。ただ、呼吸器をつけて体内だけが動いているだけの植物人間だ。原因は転落した時の脳挫傷。昔、1度強く頭を打ち付けていて記憶障害になっている為、脳波が正常にならなければ極めて危険な状態だったらしい。咲雨が目を覚ました時には美久璃は既に山を超えて植物人間になった後だった。咲雨はホッと胸を撫で下ろした。生きていてくれて良かった、と。でも、
もう二度とおふざけできない。
あの桜の下で会うことも。
話すことも。
一緒に笑うことも。
\\ 一緒に遊ぶ //
美久璃のその夢も。
誕生日を祝うことも。
祝われることも。
もう二度とできることはない。
それこそ、奇跡が起こらなければ。
今年の誕生日は一生、忘れることは無いだろう。美久璃の体を、、手を、、触る。
(……温かい。)
その温もりは、ほぼ死んでいるといってもおかしくない植物人間とは思えないほどに温かかった。その温もりだけが美久璃が生きている事を指していた。体温を感じられなくなった時、美久璃の最期ということになる。考えたくもないが、波瑠さんはそう医者に告げられた、と途切れ途切れに涙声で話してくれた。波瑠さんはもう動くことも、喋ることも、笑うこともできなくなった美久璃のそばでただ名前を呼んで、うぅん、泣き叫んでいた。ベットの横には亡き、美久璃の父、昴(スバル)さんの写真が花束と共に置いてあった。心做しか悲しみを浮かべていたような気がした。
ーー続くーー
【あとがき】
読んで下さり、見つけて下さり、ありがとうございました。続きがみたい!!って思った方は是非ハートをお願いします!今後の励みになります。
そして、かぎかっこの意味を少し書いておきます。『』が主人公(今は咲雨)で「」が他の人、()が心の中の声と、わかり易いようにつけていますので見ながら理解を深めて頂けると幸いです。
更新が遅くなってしまうかもしれませんが、頑張ってつくっていきます!!
梅雨の時期にお会いしましょう。ではまた。
2023.5.6