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蒼月
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グリルタ
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地下の調整室兼秘密拠点に戻り、高圧液体窒素弾のセッティングと指向性地雷の最終検品を終えた俺は、ようやくパイプ椅子に深く身体を預けた。「……ふぅ。やれやれ、これで準備は完了だ」
完徹続きだった身体の関節が、悲鳴混じりの軽い音を立てる。
冷えた缶コーヒーのプルタブを引き、喉へと流し込む。苦みが疲弊した脳をわずかに覚醒させてくれた。サブヒロイン共のくだらないゴシップ追及を撒き、セリスから得た裏情報の精査も終え、ようやく手に入れた一束の休息(プライベートタイム)だ。
ふと拠点の換気ダクトに耳を澄ませると、地上――王都の街並みから地鳴りのような「絶望の悲鳴」が伝わってきた。
『うあぁぁぁッ! オレの給料全額が……! あの雷鳴のエレナ様が負けるわけねぇだろッ!』
『カミラに続いてエレナ様まで沈めやがった! あのハーフの出来損ない、一体どんな呪術使ってんだよッ!』
『胴元が夜逃げしそうだぞ! 誰だクロードの180倍の単勝にブチ込んだ狂人はーっ!!』
街中は、俺が二戦連続で下馬評を叩き潰したせいで、スッテンテンになった賭け狂いどもと、大損ぶっこいた貴族どもの嘆きと怒号で溢れかえっていた。
「……ハッ、言わんこっちゃない」
俺はダクト越しに聞こえる悲鳴を子守唄代わりに、フッと口角を上げた。
大雑把な「魔法の火力」や「派手な知名度」だけに目を奪われ、泥臭い暗殺術と現代兵器の理屈を理解しようとしない脳筋どもの自業自得だ。俺の勝ちに賭けなかった愚かさを、空っぽになった財布を抱えて悔やむといい。
もっとも、その「180倍の払戻金をブチ込んだ狂人」こそが俺本人なわけだが。
「ハンス、発注した追加装備の受け渡しは次の試合の前でいい。……ああ、払戻金から引いておけ」
端末越しに闇商人への連絡を済ませると、俺は端末を机に放り投げ、パイプ椅子の背もたれに頭を預けて両目を閉じた。
カミラ、エレナ、そして次の相手である【流血の美学】ジャン=リュック。
街中の連中は「奇跡の勝利」だの「異端の呪術」だのと騒ぎ立てているが、俺がやっているのは奇跡でも何でもない。
相手の攻撃パターンを分析し、最適な兵器を選定し、0.1秒の『時間の隙』を突いて喉元を穿つ。ただそれだけの「作業」だ。
(……見下してろよ、大貴族ども。次もお前たちの期待通りに、大金を溝に捨てさせてやる)
静かな暗闇の中、次戦のジャン=リュックの血界魔法をどう凍らせ、どう追い詰めるかのイメージトレーニングを脳内で繰り広げながら、俺は深い眠りへと意識を落としていった。
「……いいかクロード。魔王とはな、ただ威張り散らして玉座にドカッと腰掛けてりゃいいってもんじゃねぇ」
……まただ。
本戦三回戦、ジャン=リュック戦を控えた束の間の仮眠。
深い睡魔の底で、俺の意識はまたしてもあの鬱陶しい地下秘密鍛錬場へと引きずり込まれていた。
血と硝煙と、安煙草の不快な匂い。
目の前では、顔の潰れた大男――かつての師匠(そして俺の知らない前魔王)が、ビール瓶を片手に熱弁を振るっていた。
「魔王ってのはなぁ! 誰よりも冷徹で、誰よりも往生際が悪く、土壇場で泥を啜ってでも最後に立っている奴のことだ! 派手な魔法で街をひとつ吹き飛ばして『俺様最強!』とか言ってる脳筋どもはな、ただの巨大な爆竹なんだよ!」
『……師匠、その話もう耳にタコどころか魚の目ができるくらい聞いた。頼むから静かに寝かせてくれ……』
俺は泥のように重い身体を起こそうともせず、床に転がったまま顔を背けた。
幼少期から何百回、何千回と叩き込まれた「魔王の心構え講座」。うんざりするほど聞き飽きた説教だ。
「聞けクロード! 玉座に座る奴に必要なのは二つ! 『死線で絶対にパニックにならない冷血さ』と『相手が油断した瞬間に喉元を噛みちぎる卑怯さ』だ! 魔王の威厳? そんなもんハナから犬にでも食わせておけ! 最後に生き残った奴が歴史を書く! それが魔界の真理だ!」
『はいはい、生き残った奴が勝ち、大技に頼る奴は木偶の坊、準備を怠る奴から死ぬ……だろ。暗記してるからもういい』
「声が小さいッ! 復唱だクロード! 敵が一番嫌がる手は何だ!?」
『……相手の死角からC4爆薬を叩き込んで、180倍のオッズで大儲けすること……』
「よし! だがC4は手段に過ぎん! 心構えだ! 心構えを刻み込めぇッ!」
ガバッと首根っこを掴まれ、耳元で怒号を浴びせられる。
耳の奥がキーンと鳴るほどの熱血スパルタ教育。教わりたくもない「魔王の帝王学」という名のドブネズミ生存戦略。
魔王が病死しただの、直系がいないだのと世間は大騒ぎしているが……俺に言わせれば、このしつこくてウザいオッサンこそが一番魔王に向いていなかったし、同時に一番魔王らしかった。
「……ハッ!」
跳ね起きるように目を覚ますと、そこは地下の拠点の無機質な天井だった。
嫌な汗が背中を伝っている。
「……くそッ、あのアホ師匠……死んでまで夢に出てきてウザい説教垂れてんじゃねぇよ……」
額の汗を雑に拭い、俺は盛大に不機嫌な溜息を吐き出した。
耳の奥には未だに「魔王とはなぁ!」という師匠のダミ声が残像のように響いている。
だが、おかげで目が完全に冴えた。
俺はパイプ椅子から立ち上がると、懐から消音拳銃を引き抜き、スライドを引いて薬室の弾丸を確かめた。
「……耳タコになるまで聞かされたんだ。嫌でも身体が覚えてる」
誰にも期待されず、派手な魔法も使えないハーフの落ちこぼれ。
だが、あのアホ師匠に散々叩き込まれた「泥臭く、冷徹に、手段を選ばず最後に勝つ」という最悪な魔王の心構えだけは、俺の血肉に完全に染み付いていた。
「さて……次はジャン=リュックか」
高圧液体窒素弾を装填した予備マガジンを戦術ベストへ突っ込み、俺は不敵に口角を上げた。
美学を気取る大貴族の御曹司に、師匠から耳タコで教わった「一番嫌らしくて冷徹な殺し方」を叩き込んでやる時間が来た。
コメント
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お疲れさま、第24話読了! クロードが準備を整えて、いよいよジャン=リュック戦か…今回は師匠の「魔王の心構え講座」が夢に出てくるのが、逆に可笑しくて、でも説教がちゃんと血肉になってるのが伝わって熱かったなあ。街中大荒れで自分が大金をブチ込んでる狂人っていう伏線の効かせ方も好き。次戦、どうやって「一番嫌らしく冷徹な♡♡♡方」を仕掛けるのか、めちゃくちゃ楽しみにしてます!