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その日の帰り道。夕焼けに染まった空の下を、紗奈と陽葵は並んで歩いていた。
けれど、二人の間に会話はほとんどなかった。
紗奈はただ、足元を見ながら歩いている。
さっきまでの出来事が頭から離れないのか、顔色はまだ少し青かった。
その様子を横で見ていた陽葵は、静かに口を開いた。
「紗奈」
呼ばれて顔を上げた紗奈に、陽葵は少し迷うようにしてから言った。
「今日……俺んち来ない?」
紗奈は一瞬きょとんとする。
「え……?」
「やっぱり少し不安で…」
陽葵は少し困ったように笑った。
「もう少し紗奈と一緒にいたいなって 」
紗奈は少しだけ迷ってから、小さく頷いた。
「………うん」
陽葵のマンションに着いた頃には、もう空は暗くなっていた。
部屋に入っても、紗奈はほとんど喋らない。
ソファに座っても、どこかぼんやりしている。
まるで、
そこにいるのに、どこにもいないみたいだった。
陽葵はその様子を見て、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
「紗奈」
呼びかけても、少し遅れて反応が返ってくる。
「………なに?」
その声も、どこか弱かった。
しばらく黙っていた陽葵は、意を決したように言う。
「あのさ…」
「……一緒に住まない?」
紗奈は目を丸くした。
「え?」
「だって今の紗奈さ、正直めちゃくちゃ心配だし」
陽葵は苦笑した。
「まだ、何抱え込んでるのかなって」
「…1人にするの不安だよ」
その言葉に、紗奈の肩が少し震えた。
「だからさ」
陽葵は少し照れくさそうに頭をかく。
「しばらくここにいなよ。 俺もいるし」
「紗奈は一人で抱えこみすぎだと思う」
その言葉は、軽い口調なのにとても優しかった。
紗奈はしばらく何も言えなかった。
でも、やがて小さく頷いた。
「………ありがとう」
その日から、二人は同じ部屋で過ごすことになった。
それから、学校には行っていない。
正確には
行けなかった。
紗奈は外に出るというのに抵抗があるようだった。
陽葵も「今は無理して行かなくていい」と言ってくれた。
だから二人で、学校を休んでいる。
(………迷惑…、かな…)
同じ部屋で、静かな時間を過ごしていた。
そして
それから二日くらい経った夜。
紗奈はリビングのソファに座っていた。
陽葵はキッチンで飲み物を用意している。
その背中を見ながら、紗奈はぎゅっと手を握った。
(………言わなくちゃ…)
胸の奥が重い。
ずっと隠してきたこと。
ずっと誰にも言えなかったこと。
でも、
(陽葵には……秘密を…)
このまま黙っていたら、きっとまた迷惑をかける。
それに
もう一人で抱えきれない。
陽葵が戻ってきて、コップをテーブルに置く。
「はい、あったかいのだよ」
紗奈はそれを見つめたあと、小さく口を開いた。
「…ねぇ……陽葵」
「なに?」
陽葵が顔を上げる。
紗奈は少し震える声で言った。
「僕……話さなきゃいけないことがある」
その言葉に、陽葵の表情が静かに変わる。
「……分かった」
部屋の空気が、少しだけ静かになった。
紗奈は深く息を吸う。
そして、 ずっと隠していた、過去の話をしようとした。
「………あのね」