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約束通りに、前倒しで仕事をやっつけた宮本を助手席に乗せた橋本は、後部座席にいるふたりをルームミラー越しにチラッと眺める。ゴーカート場のパンフレットに顔を寄せながら微笑み合う姿に、仲の良さを感じた。それを邪魔しちゃいけないなと思い、隣にいる宮本に話しかける。
「スピード狂の雅輝くん、今日はどれくらいかっ飛ばすんだろうな」
「他の人だっているんですから、安全運転するに決まってるでしょ」
「またまた~! 難しそうなコーナー見たら、自然とアクセル開けちゃうくせに!」
「宮本さん、パンフ見ますか? ゴーカート場のコースを見たら、走りたくてたまらなくなるかもです」
和臣くんが恭介と眺めていたパンフを後ろから差し出しながら、俺らの話に割って入った。
「ありがとうございます。どれどれ」
助手席でパンフを受け取り、口角の端をあげてまじまじと見つめる姿を、橋本はこっそり盗み見た。
(あーこの顔は頭の中でハンドルを握って、すでに危ない運転をしてる表情だ。すっげぇ楽しそうだな)
「ところで恭介」
脳内でドライブしている恋人に話題を振れないので、橋本は仕方なく後部座席にいる榊に話しかけた。
「なんですか?」
「このメンバーで、唯一ペーパードライバーのおまえが、ハンドルを握ることに不安があるんだけど、大丈夫なのか?」
「恭ちゃん免許をとってから、一度も運転したことがなかったよね?」
榊に話しかけた和臣の不安そうな顔を、ルームミラーで確認した。あからさますぎるくらいに不安そうにしている和臣の面持ちに、橋本は苦笑いを浮かべる。
「子どもでも操作できるゴーカートで、こんなに心配されるとは……」
「恭介が運転するところが、どうにも想像つかないんだよ。なんでもそつなくこなすおまえがハンドルを握ったら、俺らの知らない顔が拝めるかもしれないなと」
橋本の言葉に同意するように、榊の隣で和臣が何度も頷いた。ふたりの心配を他所に、榊は若干呆れた口調で話し出す。
「確かに普段穏やかな人が、運転したとき限定で違う一面を出すという実例はありますけど、俺は至って普通ですから」
「そうは言ってくれてもな、すぐ傍に違う一面を出すヤツがいるせいで、俺と和臣くんの不安が拭えないわけなんだぞ」
言いながら、助手席にいる宮本に指をさした橋本。ひょいと話題に出された宮本は、橋本の指先をまじまじと眺めた。
「陽さん、俺ってば、なにかしましたか?」
パンフをガン見していたため、なんの話をしていたのかわからなかった宮本は、自分が当てはまりそうな質問をするしかなかった。