テラーノベル
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凜寧.@ていふ
どれくらい走ったのかわからない。気づけば息が切れて、足がもつれ、その場に膝をついていた。
世界は、まだ歪んだままだ。
校庭も校舎も、ぐにゃぐにゃと形を変えている。
まるで“俺の答え”を待っているみたいに。
「……ハァ……ハァ……っ…………」
ここから逃げられない。
それはもう、嫌ってほどわかった。
だけど、それでも帰らなきゃいけない。
どれだけ変な世界だろうと、どれだけ怖くても、俺はここで終われない。
みんなの笑い声。
ゲームしながら騒いだ夜。
ふざけて作ったオリジナル料理。
くだらない喧嘩して、すぐ仲直りして——。
あんな毎日が、ここに飲み込まれて終わるなんて、絶対にイヤだ。
「俺には……帰る場所がある……!」
自分に言い聞かせて吐き出した言葉は、震えていたけれど、それでもはっきりと自分の耳に届いた。
そのとき——
カシャン。
何かが足元で音を立てた。
「……え?」
砂に埋もれかけていた小さな金属の光。
拾い上げると、それは——小さなキーホルダーだった。
透明の板に、カラフルな飾り文字。
『カラフルピーチ』
「これ……みんなと作ったやつ……。」
全員で名前を彫って、ふざけて交換して、笑って——
そのときの声が、まるで耳の奥からこだまのように蘇ってくる。
俺は、忘れてない。
俺は、みんなとの時間を覚えてる。
だから——ここが俺の帰る場所じゃない。
*——ゆあん。*
また声が聞こえた。
いつもより、少し弱い。
泣きそうな子どもの声にも聞こえた。
*——本当に……忘れたのかい?*
「違うよ。俺は“忘れてない”んだ。
だから帰るんだ。ここじゃなくて、みんなのところに!」
声を張ると、影が大きく揺れた。
*——……置いていかないで。
君しかいないんだ。
君だけが……“覚えている”んだ。
私は、忘れてほしくなかったんだ……。*
その言葉に、胸が少しだけ痛んだ。
校長先生の影は、怒りではなく“孤独”を抱えていたのかもしれない。
忘れられるのがイヤで、ここに縛りつづけている。
誰にも必要とされなくなるのが怖くて、俺を捕まえようとしている。
……でも。
「それでも、俺は帰らなきゃいけない。」
影が静かになる。
「誰かに覚えててほしい気持ちはわかるよ。
俺だって……忘れられたらイヤだし。
でもさ、“閉じ込めたまま覚えててほしい”なんて、それは違うだろ。」
言葉にすると、自分でも胸の奥が苦しくなった。
影は、動かなかった。
風もないのに、空気だけが沈んでいく。
俺は手の中のキーホルダーを強く握りしめた。
「戻る方法を絶対に見つける。
そのために——俺は“忘れない”まま、生きて帰る。」
影が、ほんの少しだけ揺れた。
怒りでも悲しみでもない。
まるで、理解しようとしているように。
……そのときだった。
校庭の真ん中に、大きな亀裂が走った。
ズズ……ズズズズ……ッ!!
「うわっ!?」
亀裂に沿って地面が盛り上がり、何かが地の底からせり上がってくる。
古い木の扉。
校庭の中心に立つ、見たことのない地下へと続く入口。
それは、影が俺に向けて差し出した最後の道のようだった。
*——行きなさい。
君が、帰り道を見つけられるか……確かめてごらん。*
……試されている。
でも、それでいい。
これが最後の鍵になるなら。
「いいよ。俺が帰る道、見つけてやる。」
地下へ続く扉が、ギギィ……と開いた。
暗闇の奥から、冷たい風が吹き上げてくる。
俺は、キーホルダーを握りしめたまま、一歩、降りた。
――そして、闇の底へ。
コメント
1件
今回も楽しいお話ありがとうございました!!先生も孤独が嫌だったんだ…。でも、ゆあんくんの言う事正論なんだよなー笑 ゆあんくん頑張れ!続き楽しみにしてます!!