テラーノベル
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その言葉と共に繰り返される虐待の日々。傷だらけになった僕は、外に出してもらえなくなった。
でもあるときから、お父さんは仕事をしに外へ出なくなった。
月に何回かしか外に行かないのに、欠かさず3食の食事が出るようになった。会話なんてしなかったけど、なぜかいつもお父さんは機嫌が良くて、でも、いきなり怒り出すときもあった。怒ったときだけ殴られたけど、お母さんが出て行った後に比べれば回数は減っていた。
「白銀剛士だな。覚せい剤取締法違反、大麻所持により逮捕する。」
小学6年生になる頃、お父さんが警察に連れていかれた。お父さんは重度の薬物依存症になっていたらしい。捜査の関係で警察の人が家に来ることが増えた。
でも、お父さんが返ってくることは1度も無かった。外に出ていいのかもわからない。どうやって生きていけばいいのか分からない。だから、家に来た警察の人に聞いた。
「なんで僕のお父さんは帰ってこないの?」
「君のお父さんはね、壊れちゃったんだよ。働くことも、君といることも、生きていることも苦しくなって、やってはいけないことをしてしまったんだよ。」
お父さんは生きていることに疲れてしまった。僕といることが苦しくなってしまった。
僕のせいでまた人を傷つけた。優花ちゃんも、お母さんも、お父さんも……皆、僕のせいで傷ついた。僕がいたから壊れてしまった。
だったら僕が消えるしかない。これから先僕はもっとたくさんの人を傷つける。その前に、僕はこの世から消えなければいけない。僕は生まれてきちゃいけない子だったんだ。
僕も、生きていることがつらくなった。だから、12歳の誕生日に手首を切って死のうと思った。
僕の人生には後悔しかない。僕がダメな子だったから、名前のような大きな人間にはなれなかったから人を傷つけて、皆を不幸にした。僕は罪人だ。
「それで死んで何になる……?」
手首を切ろうとしたとき、知らない人の声が聞こえた。声のする方を振り向くと、白髪交じりのおじさんが立っていた。
「僕は罪人だ。生きていても人を不幸にしかしない。だから死にたい。」
「それで本当に後悔しないかのう?」
「今まで僕のせいで傷ついた人がいるんだ。僕は消えなければいけない。」
「お前の話を聞く限り、天国には行けないじゃろう。死んで地獄へ行くことを望むのかい?」
「それが僕が受けるべき罰だから。」
「わしはそうは思わんのう。人は死んだら感情が無くなるという。そうしたら、果たして死ぬことに意味はあるのか?罰を受けるために地獄に行ったとしても、お前は何も思わない、何も思わず成仏もできず彷徨うことになる。そして思うことはこれだけじゃ……死ななければよかったと。そう思わんかい?」
「…僕に生きろっていうの…?」
「こういうのはどうじゃ。そんなに自分を罰したいのなら、終わりのない人生を生きるというのは。」
「……終わりのない人生……?」
「ああ。周りの人が死に行く中、自分だけは決して死ぬことのない、そして生まれ変わることもない、永遠の命。吸血鬼としての人生じゃ。」
「……本当に一生死なないの…?」
「ああ。お前の親が死んでも、友達が死んでもお前だけは何十年、何百年と生き続ける。」
一生、自分を罰することができるって事……?死ぬこともなく、生まれ変わることもない。
きっと、優花ちゃんの生まれ変わりにも会えない。もう一生、同じ時間を生きていける人はいないかもしれない。
それでも……
一生罪を償うことができるなら……
「……僕、吸血鬼になる。それで罰することができるなら。」
「交渉成立じゃな。わしの名前は黒鬼院霧想。老いぼれた吸血鬼じゃ。」
「……僕は…輝石。白銀輝石。」
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