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祥平は貰った水を飲み、詳しく状況を理解するために頭を動かした。
「最初から代行にお願いするつもりだったんですか」
静まりきった空間を破るように田中先生が喋り始める。
「あぁ、うん」
「気を付けてくださいね」
田中先生はいつも落ち着いた喋り方をするのだが今の喋り方はとても冷やかだと感じた。
「祥平先生を狙う人も多いので危ないですよ」
ずっと下を向いていた田中先生はやっと祥平の顔を見た。
しかし、自分が1番の人気を誇っているだろうに。なぜこんな男1人に注意を呼びかけるのかよく分からない。田中先生は本当に掴めない人間なのだ。
「俺はそういうの興味無いしそういう人達もいつか冷めるでしょ 」
興味があまり無いのも冷めていくのも本当の事だ。今まで付き合ってきた彼女と別れた理由のほとんどは愛想を尽かされたからという理由が多い。
何かと色々気にしてしまう祥平は恋人の事も気にするため、縛られるのが嫌な者とは合わない。当の本人も理解している。
「全く分かってませんね…分かりやすいようにしてきたつもりなんですけど…」
そう言い放つと田中先生は祥平に近付いた。
その瞬間、唇に柔らかい感覚を覚えた。
「え……なに…」
何が起きたのか全く分からない。祥平の頭の中は紐が複雑に絡まったように、何から情報を処理すれば良いか理解に苦しんだ。
「祥平先生の事好きになって長いですけど…未だに好きでいる男がここにいるんです」
顔は少し離れたものの距離は近いまま、祥平は田中先生の真っ直ぐな目線を受けた。
(好き……?え何が起こってんのこれ…?)
何が何を呼び起こしたのかも分からない。
だがこれは告白だと受け取りたい気持ちが頭の片隅に居着いて離れない。
「祥平先生は俺の事どう思ってるんですか?」
田中先生は祥平の顔を覗き込むようにして見る。
「えっと……その……」
緊張と驚きと焦りで口が動かない。言葉すら考えられない。どう伝えたら田中先生は喜んでくれるのだろうか。
「…じゃあ好きなら抱きしめて下さい。好きじゃないならそのままそこでステイで」
少し笑ってそう答える田中先生をふと見ると心臓が痛いくらいに鼓動が早まった。
この感情は無視するべきものだと思ってきたのに、ここできちんと向き合っていいのだろうか。そんな考えが頭の中を飛び交う。
(でも…俺は…)
頭の中でやっと全てに理解が行き届き、考えがまとまる。
「俺も好きです田中先生が好きです。結構前から…」
そう言って祥平は優しく田中先生を抱きしめる。
「そう…なんですね。良かった…… 」
田中先生の優しい鼓動と優しい声が近くに聞こえる。不思議と全く嫌じゃない。安心する。
田中先生の大きい手が背中に触った。
しばらくお互いの気持ちを受け取るように抱きしめ合った。