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――2週間ぶりの、静かな朝。
だぁは一人、レイの家の前に立っていた。玄関をノックするとすぐに、レイが静かに扉を開けた。
「……入れよ。」
その一言に、だぁは軽く頷き、靴を脱いでリビングへ。
そこで目に入ったのは――
ネグがソファの上で、柔らかく笑いながらレイと話している姿だった。
その光景に、だぁはふっと力が抜けたような微笑を浮かべた。
「……なんだ。ちゃんと……笑えてるんだな。」
だぁが小さく呟くと、ネグがふと顔を上げて、だぁを見た。
その瞬間――ネグはにこ、と柔らかく微笑んだ。
けれど、声は――返ってこなかった。
何も言わず、ただ静かに笑うだけだった。
レイは少し苦笑しながら、だぁの隣に立つ。
「今はああやって笑ってるけどな……前みたいに、声を返すことはあんまりなくなった。」
だぁは静かに頷き、スマホを取り出す。
その場で、マモンと夢魔、すかーに通話を繋いだ。
「……今、ネグを見てる。……ちゃんと、笑ってる。」
その言葉に、電話の向こう側で3人がそれぞれ静かに息を呑む気配があった。
マモンが、掠れた声で言う。
「……本当に?」
夢魔も、低く重たい声で続けた。
「……良かった……。」
すかーは何も言わないままだった。
だぁは微笑みながら、続けようとしたその時――
「なんで、なんで!!ヤダ……殴られる、怖いよ!ねぇ…!!やめ、て…やめてよ…!痛い、痛いってば!!」
突然、ネグの声がリビングに響き渡った。
だぁの手がピクリと止まり、電話の向こう側でマモンの息が詰まるような音が聞こえた。
「……!」
ネグは耳を塞ぎ、震えながら泣き出していた。
「見たくない…会いたくない…兄さ、助けて…殴られたくない…逃げたい、今すぐ逃げたい…なんで、なんで……やっと、夢でも思い出さなくて済んだのに…なんで、どうして…」
震えが止まらないネグに、レイが必死に声をかける。
「大丈夫、大丈夫…ここには居ない、だから……」
けれど、ネグは完全にパニック状態で耳を塞ぎ続け、涙を流し続けた。
レイは眉をひそめ、だぁの方を見た。
「……悪い、だぁ…その電話、切ってくれ……ネグが泣いてるんだ…な?頼むから…」
だぁはスマホを見つめたまま、静かに、でも確かに言葉を返す。
「……わかった。」
そう言って、通話を切った。
――
その瞬間。
すかーはソファに座ったまま、両手で顔を覆っていた。
マモンは、拳を膝の上で強く握り締め、唇を噛み締めている。
夢魔もまた、黙ったまま、下を向いていた。
誰も何も言えない。
ただ、さっきまで聞こえていたネグの震える声が、耳に残っている。
マモンが、低く震える声でやっと言葉を絞り出す。
「……あいつ、まだ……あそこまで……」
夢魔も目を閉じたまま、呟いた。
「……俺たち、本当に……何してんだよ。」
すかーは、顔を覆った手をゆっくりと外し――
そのまま、膝に顔を埋めた。
「……ごめん……」
誰に対してなのか、自分でもわからない。
ただ、それしか言えなかった。
――
その夜。
だぁは家に戻ってきた。
玄関を開けた瞬間、マモン、夢魔、すかーの3人がリビングで待っていた。
だぁは靴を脱ぎ、静かにリビングへ入り――
ソファに座ると、静かに言葉を落とした。
「……ネグ、笑ってた。」
その一言に、3人が息を呑んだ。
だぁは続けた。
「でも……声は、返ってこなかった。」
静まり返ったリビング。
「レイが言ってた。……最近は、悪夢を見る回数も減った。……でも、話すのが疲れるんだろうって。」
だぁは俯いたまま、手を組んで静かに言葉を繋いだ。
「……だから。あの男の名前は……ネグの前で言うな。」
「……もう、ネグが泣いてるのは見たくないんだ……。」
その一言が――重く、深く、みんなの胸に響いた。
マモンは俯き、静かに拳を握ったまま。
夢魔も、目を閉じたまま何も言わず。
すかーは――
膝に手を置いたまま、ひたすらに、何も言えずにいた。
胸の中に響くのは、あの怯えて泣いていたネグの声だけ。
誰もが、心の中で叫んでいた。
『もう、あんな顔をさせたくない』――と。