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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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イーヴァがホグワーツに来てはや4年。俺はここの教授になって6年が経とうとしていた。

今学期には一大イベントである他校との交流会_トライウィザードトーナメントが控えている。それぞれの学校の代表1人が様々な競技で勝利を奪い合い、ダンスパーティーや晩餐を経て各学校の親睦を深めるという、4年に1度のビッグイベントだ。この時期になれば生徒諸君_特に男子生徒は気持ちが高ぶる頃だ。

何せ交流会中に開かれるダンスパーティーでは、男子から女子にダンスへ誘うのがしきたりだからである。学校関係なく男子は気になる女子に声をかけ、女子はそれを心待ちにする。両者にとって欠かせない、とても重要な時期だ。

次の授業に備えて教室に向かう途中、廊下や中庭に屯する生徒らが、例のダンスパーティーについて盛り上がっているのを見た。今回の交流会は、俺がここに着任してから2度目のことだ。大体の概要は既に掴んでいるし、盛り上がる生徒を見ても、ただ4年前を思い出し懐かしく感じられるだけだった。

そんな中ひとつ少し気になることがある。

実の娘のように今まで気にかけてきたイヴァンナのことだ。果たしてあいつはダンスパーティーに参加するのだろうか。もしそうなれば、最高の衣装を見繕ってやりたい…そう心から思っていた。何気なく参加への意向を聞いてみようと思いイヴァンナを探すが、あいにく今はこの辺りにはいないようだ。探すのを諦めて再び視線を進行方向へ戻すと、

???「菊田先生」

背後から名前を呼ばれるのを感じた。

咄嗟に振り返ると、声の主はレイブンクロー生の有古力松。聞き分けがよく謙虚なヤツなので、普段から可愛がっている俺のオキニだ。

菊田「よぉ、有古」

有古「…今、お時間よろしいですか」

こいつはいつもこんなかしこまった言い方をするので、その度俺は少しむず痒い思いをしている。

菊田「構わんが、どうした?」

有古「少し、相談に乗って頂けないかと…」

菊田「相談〜?……あ、恋愛相談か!好きな女でもできたか!」

有古「あっ…いえ!そういう訳では…というか、まぁ…それに近しいことのような気も…」

茶化したつもりが案外図星だったらしい。特有の褐色肌がみるみる紅潮していき、声の調子もどんどん小さくなっていく。なんだか申し訳無い気持ちになった。

菊田「んならもっと時間を取れる時に来るといい。今日の放課後、都合つくか?」

有古「はい、大丈夫です。…ありがとうございます」

菊田「いいってことよ!んじゃまたな」

そう言って有古に背を向け、また歩き出した。

若者の青い話を聞くのは嫌いじゃない。初々しくて、ときにいじらしい。そういう話を聞くと新鮮な気持ちになれて、心がスッキリする気がする。

約束通り、放課後に有古が俺の部屋を訪ねてきた。

菊田「おう、来たか。まあ座れ」

有古「はい、失礼します」

相変わらずかしこまったままの有古。そんな彼が俺に相談したいこととは果たして何なのか。胸の中で密かに期待を膨らませ、改めて彼に問う。

菊田「…で?相談ってなんだ」

一瞬緊張で強ばった唇が、微かに震えた。大きな図体を縮こまらせ、目を泳がせて答える。

有古「今度の交流会の、ダンスパーティーのことで…」

答えは大方予想がついていたが、普段大人しい彼が積極的にパーティーに参加しようとしている、と想像しただけで口角が緩む。

菊田「まぁ、大方そんなとこだと思ってたぜ。で、お前はどうしたい?」

あえて彼を試すような口調で訊ねる。すると彼は決心したように、真っ直ぐ俺の目を見て答えた。

有古「誘いたい人がいるんですが、声のかけ方が分からなくて…」

菊田「はははっ…」

初々しすぎる相談に、俺はとうとう笑いをこらえることが出来なかった。当の本人は、笑う俺が理解できないというように、眉尻を下げる。

菊田「そうかぁ…誘い方がわからんかぁ…」

先の質問の余韻に、自然と口角が上がった。

菊田「遠回しにしないで、真っ直ぐ伝えるのが一番だと思うぞ。良かったら一緒に出ないか?とか…一緒に参加して欲しい…とか、まぁ色々あるだろ」

有古「やっぱり…わかりやすいのが一番ですよね、」

菊田「女ってのはそんなもんだぜ。クサい台詞なんかよりよっぽど魅力があるってこった。」

この手の質問は今までに何度か受けてきた。その度に答えは「真っ直ぐが一番」だった。恋愛経験の薄い人間ほど、真っ直ぐなアプローチに惹かれるものだ。

菊田「ところで、誰を誘うんだ?俺にだけこっそり教えてくれよ」

秘密の共有…というものだ。ここからが面白いところである。俺の問いに有古の体は再び縮こまり、耳が真っ赤になった。青いヤツをからかうのは正直楽しい。

一方有古は、答えるのを躊躇っていた。俺に言ったとて方々に言いふらす訳でもないし、何せパーティーに出席するなら、否が応でも誰と組んでいるのか丸わかりになる。彼が返事に躊躇っているのは、単に相手の名前を口に出すのが恥ずかしいからだろう。

少しの沈黙を過ごしていると、ふと部屋のドアがノックされた。反射的に入れ、と言ってしまったあとで、有古の存在に気が付き、まずいと思った。しかし、彼はさほど気にしていなさそうだった。

ドアが開くと、書類を腕に抱えたイヴァンナが入ってきた。

イ「提出課題を集めてきました」

菊田「おう、ご苦労さん!そこの机に置いといてくれ」

イ「はい」

イヴァンナとのやり取りの間放ったらかしにしていた有古に再び目を向けると……

面白いことに大焦りの様子だった。

イ「有古くんこんなところにいたんだ」

有古「だ、誰か俺を探してたのか?」

イ「うん、谷垣くんがね!話があるから後で来て欲しいって。都合が着いたら行ってあげた方がいいんじゃないかな?」

有古「あっ…わ、わかった……」

菊田「(分かりやすいなぁこいつ……)」

有古の反応にますます乗り気になってきたので、彼への茶化しとも取れる助け舟を出してやろうと思った。

菊田「そういえば!なぁ、イヴァンナ。お前は交流会のダンスパーティー出るのか?」

俺の突拍子もない質問に、イヴァンナではなく有古が驚いていた。

イ「んん〜…誰か誘ってくれる人がいたら参加しようかなって、……誰かいたら、ですけどね」

菊田「ぼちぼち誰か来るかもなぁ」

イ「えぇ…そうですかね……」

イヴァンナと会話しながら、目線を有古に向ける。彼はハラハラしながら一連の会話を聞いている。イヴァンナが部屋から出て行って、再び2人きりの空間になった。

菊田「先約ができる前に声掛けた方が良さそうだな!あいつなら承諾してくれるだろうよ」

少し間を置いて有古をひと押しする。

彼は焦ったように俺の顔を見た。まるで、なぜバレたと言わんばかりの顔だった。

菊田「さ、消灯まであと少しだ。戻った戻った!」

半ば強引に彼を送り返す。戸惑いが隠せない表情をしながら、きちんと礼を言って帰って行った。

有古の春の予感に、俺はただただしんみりするだけだ。

貴女の瞳に幸せが映りますように

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