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今回の外出はお忍びではなく、きちんと屋敷の人間に『とまり木』までケーキを買いに行くのだと伝えた。近いからひとりで大丈夫と言ったけれど、それは聞き入れて貰えず、3人も護衛をつけられてしまった。ガタイの良い男性の護衛を引き連れて歩く私は、町中でかなり目立っていたのではないかと思う。でも目的のケーキはちゃんと買えたので良かった。

護衛の方達にもケーキをお裾分けし、私は自室に戻った。ケーキはお父様達の分を除いても、まだ個数に余裕がある……


「ルーイ様にも食べさせてあげたいなぁ。このところ全然姿を見せてくれないし、今度はいつ来るんだろう」


「呼んだ?」


「わっ! ルーイ様!?」


「久しぶりクレハ。ふた月振りくらいか?」


「こんにちは、ルーイ様。お久しぶりです」


びっくりした……なんて心臓に悪い。相変わらず彼は神出鬼没だ。慣れたと思っていたけど、期間が空くとやっぱり驚いてしまう。しかし、今回はとてもタイミングが良かった。


「ルーイ様、丁度良かったです! 美味しいケーキがあるんですよ。『とまり木』っていうカフェのケーキなんですけど……」


「クレハ……お前、その耳のどうした?」


「え?」


ルーイ様が私の耳に触れる。さっきまで朗らかだった彼の雰囲気が一転し、緊張感が漂う。表情も険しくなり少し怖かった。


「このピアスだよ。いつから付けてる?」


「えーと……ひと月くらい前からです。ある方から御守りとして頂いたのですよ。このピアスがどうかしましたか?」


セドリックさんもピアスを気にしていたが、何かあるんだろうか。


「まさか……とんでもなく高価な宝石とかですかっ!?」


ピアス自体はとてもシンプルなデザインで、プラチナの土台に5ミリくらいの宝石が付いている物だ。この宝石を最初に見た時はとても驚いた。全体的に深い瑠璃色で、その中に黄色や青の光の粒がキラキラと輝いている。まるで、夜空をそこに閉じ込めたような美しい石なのだ。

ルーイ様は渋い顔でピアスを眺め、考え事をしだしてしまった……私の質問にはまだ答えてくれない。











クレハのピアスにくっ付いてる石……あれは宝石なんかじゃない。魔力を吸収する石、『コンティドロップス』だ。すでに力を貯め込んでる状態だが、コンティレクトのものではないな……だが、とてつもなく強い力だ。魔法属性は水と、雷といったところか。メーアレクトと似た気配を感じるが……あいつの血縁か?

クレハにこれを贈ったという人物……そいつ自身の力なのか。それとも偶然石を手に入れ、石の正体を知らずにただの宝石と勘違いしているだけなのか。後者なら石の入手経路は気になるが、そこまで心配することはない。だが、前者なら……


「クレハ。このピアスをくれた人のこと、詳しく話してくれないか?」













「ペットの鳥を助けた礼ねぇ。色々突っ込みたい所はあるけどまずは……何でお前はそのローレンスとかいう得体の知れないおっさんと文通なんてしてんの?」


「得体なら知れてます! 『とまり木』のオーナーさんですよ。それに、まだ男性と決まったわけじゃ……」


「ローレンスって男性名だろ? 大体、直接会えない事情ってなんだよ。怪し過ぎんだろ」


「お仕事が忙しいのかも……」


「仕事忙しい奴がわざわざこんな小娘つかまえて、手紙のやり取りするか?」


ゔっ、それは……。ルーイ様の指摘に言い返せない。最初にエリスによって届けられた手紙に、私についての質問がいくつかあった。ピアスのお礼も言いたかった事もあり、すぐに返事を書いてエリスに持って帰って貰ったのだ。そして、その2日後にまたエリスは手紙を持ってやってきた。それにまた返事を書いて送る、その返事が来るの繰り返しで……いつの間にか文通をしているような状態になってしまった。


ローレンスさんは私の事をもっと知りたいのだという。今日は何をして遊んだとか、何を食べたとか、最近興味のある事はどんなこととか……本当に何でもいいらしい。ローレンスさんは、そんな私の取り留めの無い内容の手紙に、毎回律儀に返事を返してくれる。


ルーイ様に言われるまでもなく、ちょっと変だなとは思った。でも、私はローレンスさんとの手紙のやり取りが楽しくなっていたのだ。相手の顔が見えない事と、ローレンスさんが家とは無関係の人だからだろうか。変に気を張る必要も無く、お勉強の愚痴やこっそりおやつをつまみ食いしたとか、言わなくて良い事まで書いてしまった。カミルやリズのような友達とも違う。ローレンスさんとの交流は、私にとってとても新鮮だった。


「ローレンスさん……悪い人ではないと思いますよ」


「いや、俺もそこまでは思っていない。ただ……そのピアスがどうも気にかかってな」


「このピアスの石、コンティドロップスだったんですね。私の時とは全然色が違う」


「クレハは風の属性だったな、石の色の変化は白色。こいつの魔法属性は水と雷だ。そのローレンスとかいう奴自身の力かどうかは分からんが……そうだとしたら、えげつないほど強い魔力の持ち主だ」


「そ、そんなに……?」


「人間かどうか疑うくらいにはな」


「そんな事言われたら、身に付けるのが怖くなってくるんですけど……」


「ただ持ってるだけなら害はない。前に教えただろ? コンティドロップスに込められた魔力は、体内摂取しなければ使えない。魔力が詰まった状態なら、何もしなければただの石と変わらないからな」








そうだ……使い方を知らなければただの美しい石だ。けれど、もしこの石の魔力がローレンスという人物本人の物で、コンティドロップスの事も、それの使い方も全て理解していたのだとしたら……。御守りだなどと称しているが、俺は自身の魔力を込めたコンティドロップスを他人に身に付けさせる理由なんて、ひとつしか思いつかない。それは――


対象の追跡、もしくは監視だ。


これほどの強い力を有しているのだ……当然、魔力の感知もできる可能性が高い。魔力感知はその名の通り力の気配を読み取り、その強さや自身との位置関係を把握する事ができる能力だ。

コンティドロップスは魔力を貯める事ができる石、よって魔力感知で位置を探る事が可能。ローレンスという人物は、クレハに自身の魔力が詰まった石を身に付けさせ、クレハの位置状況を把握しているのではないだろうか。感知の精度にもよるが、この石に込められている力の強さなら、国内全域はおろか隣国に至るまでの探知も可能だろう。

考え過ぎだとは思うが……。クレハに伝えるべきか……いや、まだ何の確証もないのに不安がらせるのもなぁ。俺が真剣に悩んでいると、クレハが呑気に声をかけてきた。


「取りあえず、プリン食べませんか? ルーイ様。このプリンは1日20個の限定品です!」


「……そうだな。考え事は甘いモノを取りながらの方が捗るしな!」


決して限定品という言葉に釣られたわけではない。

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

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