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◇政治的意図はございません。
続編はありません。
午前0時
大都会は,眠ることを知らない___
「台湾,もっと遊びに来てよ」
甘ったるい声。
「やだなぁ,今,こうやって遊びに来てるでしょ?」
「ん~,最近,あんまり来てくれてなかったじゃん!」
「あはは…ちょっと最近忙しくて」
台湾は,小さく溜め息をついた。
「嘘~!」
「嘘じゃないよ…」
きらびやかな照明。湿っぽくてこもった空気。気を抜けば絆されてしまいそうな,卑猥な空気感。
(何回来ても慣れないな…)
手元のグラスをカランと鳴らし,中に注いであった酒を飲みきった。
正直僕は,あんまり酒に強くない。だから,こういう店に入り浸るのは…向いてないんだと思う。
「ねぇ,聞いてる…?」
「…ああ,うん,聞いてるよ…」
隣には,この店でトップを争う売上を持つキャバ嬢。やっぱり顔がいい。
「嘘…聞いてないでしょ」
「聞いてるって」
「台湾って,なんかぼーっとしてるとこあるよねぇ」
「まぁ,そこが好きなんだけどねっ」
勢い良く腕を捕まれる。
「あはは…」
流石。こうして冷たい態度を取ってるのに,なかなか折れない。
「…ねぇ,この後空いてる?いっしょにさ…どこか,行こうよ」
「あー…えっと,明日早くて…」
「え~!いいじゃん!最近来てくれなかったし,今日はめいっぱい楽しもうよ!」
「いや,でも仕事が…」
「…それとも,何?他の子と用事あるの?」
…どうしてそうなった!
内心そう叫びながらも,僕は弁明した。
「違うよ,本当に明日は仕事が早いんだ」
「…そんなわけないじゃん」
だんだん雲行きが怪しくなる。
「…この前,他の店入ってくの見たんだからっ!全然…全然人気ないとこなのにっ!」
「ねぇ,まさか,寝たの!?あんなとこに居た奴と!?何処の馬の骨かも分からない女とっ…!」
…声が大きい!他のお客さんも見てるよ!
ほぼヒステリーを起こしたような状態のその子を前に,僕は見切りをつけた。
「…そうだよ,君に飽きちゃって。」
冷たく事実を突き付けてやると,その子は黙り込んだ。
「嘘…でしょ?」
弱々しい声と共に,崩れ落ちる。
「嘘…嘘だ…!あんな店の奴と寝るわけない!!おかしい…おかしいよ!私の方が絶対いいのにっ!!」
メイクが崩れるのも気にせず,その子は泣き叫ぶ。しゃくり上げるその姿は…お世辞にも,可愛いとは言えない。
「…まぁ,そういうことだから。もう来ないからね。」
全く,どの店の子も最後はこうだ。僕が悪いのかは知らないけど,キャバ嬢として,客にガチ恋は辞めて欲しい。
…もうちょっと遊べると思ったんだけどな。
少し名残惜しさを残して,僕は店を後にした。
突き刺すような光を放つネオン。
ここは夜の街。
いつだったかは良く覚えていない…人との繋がりを求めて,ここを彷徨い始めた時のことを。
「あ!台湾く~ん!私のとこ寄っておいでよ!」
たまに顔を出す店の子。悪いけど,さっきあんなことがあったんじゃあ,すぐに遊ぶ気にはなれない。
「ごめんね,今日はもう帰るんだ。悪いけどまた今度」
柔らかく断って,言った通り帰ろうとするけど…
みほり
「え~…そんなこと言わずにさ!ねっ!一杯でいいから飲んでいこ?」
まぁ,簡単には帰らしてくれない。この子達は命懸けてやってんだもんな。
「ごめんね…今日はもう沢山飲んだから」
「…沢山って?他の店の子と?なら,尚更私が上書きしてあげなきゃ!」
こうなると,少し時間が掛かる。今日は本当に早く帰りたいのに…
「…お兄さん,今日は僕の店で飲んで行くんでしょ?」
突然腕を捕まれる感覚に,驚いて振り向く。
(…誰?)
そこに居たのは…見知らぬ少年。いや,厳密に言えば…中性的で幼い風貌の,青年。
「え~…ねぇ,他の店の子?見かけない顔じゃん,勝手に割って入って来ないでよ!」
「割って入って来たのはそっちですよ。だって,お兄さんは今日,僕と飲む予定だったんですから」
嘘だ。そんな約束はしていない。
「ね,お兄さん?優しいですよね,この子を傷付けないために,僕のこと話さなかったんでしょ?」
いや,何もかも身に覚えが無いんだけど。
…でも,ありがたい。僕はそう思った。
「…ごめんね,実はこの子と飲む約束してたんだ。もう予約もしちゃってるから…」
「そんなぁ…じゃあ,今度絶対来てね?これ以上浮気したら許さないからね?絶対だよっ!」
その子は予定があると分かると,足早に店の中へと戻っていった。
「…ごめんなさい,ありがとうございます。…助けてくれたんですよね?」
僕は,見知らぬ青年に声をかけた。彼は,こくんと頷いて言った。
「そうですよ,ご迷惑じゃありませんでしたか?…困ってそうだったので」
「いえいえ,本当に助かりました…」
この街では,自ら人を助ける人は殆どいない。だって,何の利益にもならないからだ。
「…あっ,タダじゃ無いですよ?」
あっ,そんなこと無かった。やっぱ皆,利益を求めてやってる。
「…助けて貰って申し訳ないんですが,本当に勘弁してください…」
「まさか,今日とは言いません。今度,今日の分の埋め合わせをして欲しいんですよ」
ああ,何だ。ほっとした。この街にはしょっちゅう来るし,今度なら別に苦じゃない。
「…それならいいですよ。えっと,君はどこで働いてるの?」
「本当ですか!嬉しい!僕はですね…向かいの店を曲がった路地裏のビルの一階で働いてます!」
「分かりました,今度行きますね。…あ,あと,名前は?」
「…『日本』と申します。こんなナリですけど,ちゃんと成人男性ですよ!」
そう言った彼は,影を落とす程に長い睫をはためかせ,嬉しそうにはにかんだ。
「お兄さんの名前は何ですか?僕,新入りだけど凄く売れてるんですよ。…今度,特別に指名させてあげます」
「あはは…そうだったんですね。僕は台湾って言います。」
「…台湾さんですね,素敵な名前!今度いらっしゃるのを楽しみにしてます!」
「はい,僕も…。」
まばゆいばかりに光輝くネオン。
彼…日本さんと別れ,僕は改めて帰路を辿った。今日は何だか,色んなことがあった。
僕は目を細めた。
それが,このネオンのきらめきによるものなのか…日本さんに出会えたことに対する期待なのか。
その時の僕は,まだ知らない。