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…殆どの人間は、他人に縋って生きたいものだ。
何故なら……自分の行動には、責任が伴うから。
その行動で他人が傷ついたらどうする?多額の請求をされたらどうする?
…他人から、恨まれたらどうする?
私は小さい頃からそんな考え方だった
別に、自分の行動で誰かを傷付けた事がある訳でも無いし、多額の請求も、誰かから恨まれた事も無い
…ただ、この都市で生きていれば自ずと判ってしまったのだ
だから私は、常に誰かに寄り添わなければ生きていけなくなった
大学へ入るまでは親に良くして貰い、大学を出れば『親指』へ…誰かから指示され、自分の行動全てが他の誰かのせいというのが、あまりにも心地良かった
人を殺した
目の前の男…『人差し指』の男は首を失い、地へ這いつくばっていた
その断面からは大量の血が流れ、下の地面へ浸透していく
先程まで動き、涙を流し、「人差し指の指令で」なんて私へ許しを請いていた人間は、ただの肉塊となっていた
私の手によって
…けれど、全く何も感じない
だって、これは私の意思じゃないから
私の責任じゃないから
……何処かの、誰かの所為だから
…L社が倒産し、巣の人間が溢れてきた頃
我々”親指”に”人差し指”に”黒雲会”に”錆びた鎖”に”剣契”に…様々な組織がL社の巣を奪い合っていた
親指構成員の私は連日駆り出され、何度も殺されかけて殺してを繰り返しながら生きてきた
…これも誰かの意思
私はそれに従うだけ
「ハァッ…ハァッ……っあいつ………ふざけっ………っな………!!!
…ぜった…っはあっ……許さない……!!!」
これまで順調だったのに……!
何も考えずに生きて来られたのに…!
あの親分がゴッドファーザー様の意中を問い質したせいで………!!!
…親指の会談が行われた日
夜の錐の親分がふと、問いてしまったのだ
『何故』などと
その場で親分は頭を切り落とされ、アンダーボス様の伝達によって今夜にでも夜の錐構成員の粛清が決まった
…その為、私は持ちうるカネ全てと銃剣一つ持って一人、裏路地を駆けていた
巣の中ではいずれ見つかってしまうと考えたからだ
私以外の親指構成員は…L社の巣へ向かっていた私を除いて図書館へ向かってしまった
一か八か都市の星である図書館の本を回収し売っ払い、別の裏路地へ逃げ出す…もしくは親指に献上して見逃して貰おうとでもしてるのだろう
…それに比べ、連日L社の巣で人差し指、黒雲会構成員の処理を行っていた私は乗り遅れてしまったのだ
……しょうがない
しょうがない事なのは分かっている。私を待つ意味なんて微塵も無い上、そんな事して少しでも出遅れれば全滅するであろう
私達に友情なんて物は無いし…
「はぁっ…はあっ……」
今私を追い掛けている組織は夜の錐以外の親指組織全て
今頃夜の錐事務所内はもう探し終わっただろう
(…………あれ?
どうやって逃げれば……?)
重い重い足を動かし続け、やがて裏路地の何処かでぶっ倒れてしまう
うつ伏せの形となり、腹の下にある銃が食い込んで痛──…
「っ痛ぁ!?」
倒れ込んだ拍子に銃先の剣先が左の眼球へ突き刺さり、視界の一部が黒く染まる
脊髄で銃剣を引き抜き、放り投げる
…立ち上がる事を諦め、左目を押さえながら仰向けとなる
「………これから…どうしよう……。」
先が見えないこれからへの不安と恐怖を込めた一言が、裏路地に溶けて消えた
殆どの人間は、他人に縋って生きたいものだ。
何故なら…自分の行動には、責任が伴うから
……私は、その姿をよく知っている
上司によるたった一つのミス…それにより部下全員が被害を被る。
手綱を握る人間には、それ相応の責任が伴うのだ。
…なんて恐ろしいのだろうか
…私は結局、フィクサー事務所の代表となってしまった
私は元親指だから他の指への加入は不可能。
黒雲会やその他組織も…親指は他組織との溝が深すぎるから無理。
私には工房で働けるほどの技術もコネも無いし…翼なんて論外。
ならばフィクサー事務所にでも加入しようと思ったのだが…
…何故か直接赴くと相手にもされなかった為、新しく事務所を作ることにしたのだ
…あれだけ手綱を握られ、誰かに寄り掛かっていきてきた私が手綱を握る側となり、誰かへ指示を出す立場へとなったのだが…
(…いやいや、無理でしょ。)
…という訳で、事務所とは名ばかりに一人で依頼をこなして生きていた
猫の捜索だったり超小さな治安区域を担当したり…と、小さな依頼ばかりだったが、他の親指構成員に見つからない為にも細々と活動していた
…のだが……
「……あのフィクサーの方ですか……?」
「…?え私ですか?そうですけど──」
「!お願いします!!!俺を貴方様の事務所へ入れさせて下さい!!!
……12区の翼が手折れてから黒雲会の保護を受けて来たのですが……いよいよお金も尽きてしまい……妻も………」
そう嘆く男は片腕に片目を失っており…適切な処置も受けられなかったのだろう。流れた血は固まり膿となっていた
今の時刻は0時頃だ。…このまま放置すれば……
…いやいや…この人が私の事務所へ入る?
つまり私がこの人を従え、指示を出し、その行動に対する責任を全て負う?
……いやいやいや
…申し訳ないけど、ここは断らせてもらって──
「…だから……だから!!!お願いします!!!」
「う”っ………分かり…ました……」
…ああ…本当に私は………
断るという選択すら出来ないのか
…でも事務所に一人増えただけならば問題は無かった
いやあるけど…まだ、まだ何とかなった
…それなのに私は、同じ様な境遇の人全てを受け入れてしまった
断れなかっただけなのだが…だんだんと裏路地内で『あの事務所は誰でも受け入れてくれる』という噂が出回り、今では数十人が所属する巨大な事務所となった
(いや…いやいやいやいや!!!何で!?!?
そもそもこの人達元は死にかけだった訳だし!…依頼なんて出来る訳…)
事務所へ届く依頼は基本的に簡単かつ人手が必要な依頼ばかりな為、依頼は迅速かつ確実にこなす事が出来ていた
(…でもこんな人数…払う給料なんて…)
迅速に解決される依頼という実績。
裏路地内で広がったあらぬ噂。
…以下の理由から入ってくる依頼は急増。その上その依頼全てが完璧にこなされるため、金銭面による問題は解決しきっていた。
実際私の左目は結構良い義体になってるし、身体施工のお陰でめちゃめちゃ強くなっていた
(…いやだとしても!この人達は裏路地で落ちぶれていた人達!!
同じ事務所の仲間といえど協力なんて…)
同じ様な悲劇の境遇
同じ自分を救ってくれた人への尊敬
有り余る金銭により行き届いた身体施工、殉職者が一人も出ない職場
その為か、事務所内は常に和気あいあいとしていた。
(うぐぅ……酷い事考えてゴメンみんなぁ……)
確実にこなされる依頼
入ってくるお金
更なる身体施工
上がるモチベーション
確実にこなされる依頼
…という好循環により、私の事務所はどんどんと成長を遂げていた
それに…事務所の仲間に聞いた事だが、親指は私が逃げ出したその日に崩壊したらしい
図書館へ赴き、全滅。
あの日に図書館へ行かなくて良かったと心の底から思った
…これにより、私が不安だった要素は無くなった
…ただ一つだけ、どうしようもない問題がある
…それは……私。みんな仲良くして毎回テキパキと依頼をこなしているのに…私自身は何も成長していない。未だに選択も自分で考えた行動も碌に出来ずにいる。
…未だに、怖いのだ
これだけ仲良く、和気あいあいとした仲間達を私の行動一つで壊してしまうかもしれない。
事務所の仲間達全員から恨まれるかもしれない。
今まで何となくだった信念が、あの親分の経験によって確固たる物となっていた。
「……はぁ……みんなの中から代表変わってくれないかなぁ…」
「……ははっ。この事務所はすごく素敵なのに……噂通り、君はずいぶん弱気なんだね。」
「!!!!!」
背後から聞き覚えのない、そして気持ちの悪い声が響く
すぐさま飛び退き武器を構え、その顔を見上げる
…青を基調としたコートに灰色の長髪、その片手には巨大な鎌が携えられていた
その隣にはシルクハットを被った骸骨がスーツを着こなし、何やら一枚の紙が握られていた
「そんな怖がらなくていいよ。……俺はただ、少し契約を結びたいだけだよ。俺の”お願い”…聞いてくれないかな?」
「う”っ……」
……結局、断ることが出来ない
自分による選択が怖くて、他人の言葉に従ってしまう
……だから駄目なのだ
だから恨み言を吐くハメになるのだ
だから……だからあんな事に………
(………あ)
「ぁぁぁああああ”あ”あ”!!!!
ごめんなさい!!!ごめんな”さ”い”!!!
私が!!!私のせいで!!!」
あの二人と交わしてしまった契約
『図書館で本を回収してくるまで、契約対象から好きに奪う事が出来る』
私の心臓が奪われ、また戻された時…自分のしでかした事を理解した
あの二人は図書館への招待状を放り投げ、何処かへ消えていった
このことを事務所のみんなに相談したら…全員、文句一つ言わずに着いてきてくれた
その結果……図書館の人間に事務所の仲間は一人、また一人と殺されていった
「みんな……みんな”ぁ”……!!!」
私が殺した癖に、今私は泣き叫んでいる
……だから嫌だったのだ
……自分の行動には、責任が伴うから。
その行動で他人が傷ついたらどうする?他人から恨まれたらどうする?
………どうしようも、出来ないのだ
上司によるたった一つのミス…それにより部下全員が被害を被る。
手綱を握る人間には、それ相応の責任が伴う。
………分かっていた事なのに、私は手放してしまった
事務所の仲間達全員、私の事を恨んでいるだろう
…誰よりもその気持ちを知っていたのに、誰にも施すことが出来なかった
自ら代表となり、部下まで作っておいて…他人に縋る生きた方を選んでしまった
「……あっ………あぁ…………」
…お前だけは絶対、許さない。
……全て、何処かの誰かの所為にしてしまいたい
”……ねえ”
……美しい声が聞こえてくる
きっと、この声の主になら………
”全部。全部全部全部、誰かの所為にしちゃわない?”
………え
”貴方は何も悪くない。
悪いのはあの親指の親分とか、断れないのを良いことに話を持ちかける事務所のみんなに…あの二人。
そうじゃない?”
……………そっか。
全部、何処かの誰かの所為なんだ
……私は悪くないんだ
…なら────
「ッ代表!!!!!」
…………えっ
声の先に視線を向けると…私が、一番最初に助けた人が居た。
義体にした片腕も片目も既に崩れており、足先からゆっくりと紙へとなっていた
「俺は……貴方に救われました。
片腕も片目も愛していた妻も失い…カネも使い切り…後は掃除屋に殺されるのみだった私を…貴方は助けてくれたのです。」
「…………ぁ」
「俺の所為で噂が流れ、どんどんと人が増えていった時も…貴方は代表として悩み、相談しながら様々な事を決めてきました。」
「……違う……私の所為で…」
「”貴方のお陰で”俺は此処まで来られたんです。
なので……だから。
………ありがとうございました。」
『 ■■■■■の本 獲得 』
「…………」
”………これも全部、誰かの所為。”
「違う。…全部全部、私の所為。」
”貴方は何も悪くない”
「違う。全部私が悪い。」
”全部誰かの所為にしちゃ──”
「黙って。
……これは全部、私の罪。私の責任。
だから、私が償わなくちゃいけない。」
…心臓が張り裂けそうなほどに痛い
これは全て私の意思で、私の責任。
全てが、私の所為。
…だから、行動しなくちゃいけない
”……………あ~あ”
───E.G.O.が発現する
「……私はこれから、私の行動の責任を取る。」
だから。
…私は、もう私の行動に迷わない