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最近、学生たちの間で噂になっていることがある。
「ねえ、十文字くん聞いた? なんか、裏社会の人たちの間で、異能力が増やせる薬があるらしいよ!」
彼女はただのクラスメート。
俺は、中学生初のNo.10入りを果たし、学校中の的になっていた。
いい意味でも、悪い意味でも。
「興味ねぇな。別に、異能者が増えたところで、俺の敵じゃねぇし」
しかし、求めていない時、それらは訪れる。
「やべぇな……帰り遅くなっちまった……。母ちゃん怒ると怖ぇし、近道しないとな……」
俺の親父は探偵局の局長を勤めている。
基本的に裏での仕事だが、中身は十年前の異能学史を優に超えると名高かった人ばかりが揃っている。
俺の力なら親父の力になれると思って、少しの事件でもいいから携わらせて欲しいと話していた。
でも、親父はいつになっても俺を認めなかった。
「クソっ……嫌なこと思い出しちまった。親父は親父だ。俺は警察にでもなって、力の証明をしてやるんだ」
そして、いつもとは違う、薄暗い路地を駆ける。
基本的に、私欲での異能使用は刑罰の対象になる為、普通に中学生平均の速力で走っていた。
「あれ、あんなところに花屋なんてあったっけ?」
寂れた路地に、ポツリと小さな花が点々と並べられた、寂れた花屋が設営されていた。
そう言えば、今月は母の誕生日があるんだ。
帰りが遅れたこともはぐらかせそうだし、母に似合いそうな鮮やかな花でも買って帰ることにした。
「すみませーん」
しかし、中に人の気配はない。
「上がりますけどー」
俺は、点々と並べられた花を見遣る。
「マジで少ねぇな……営業してんのか……?」
無駄足になったらただの時間のロスだと思い、俺はズケズケと、『関係者以外立入禁止』と書かれた扉を開き、店員を探しに行った。
扉の奥には長い廊下が広がり、小さな店内とは裏腹に、奥行きが広く何層もの扉があった。
「一個ずつ探すのは面倒だなぁ……」
俺は、細かい作業は性に合わない性格だった。
その為、適当に目を付けた扉に向かって、ゴンゴンゴン! と三回ノックをし、「開けますよー」と声を掛けてから勝手に扉を開いた。
「なんだよ……人いるじゃん……」
扉を開けると、綺麗な白髪を靡かせ、窓を開けて丁度、換気でもしている様な姿を見せた男がいた。
「この部屋に三回ノック。お待ちしておりました。貴方のコードネームをお聞きしても?」
そう言いながら、男は窓を閉める。
そして、対面に置かれたソファに腰を掛けた。
コードネームってなんだ……?
いきなり俺のナンバーでも聞いてんのか……?
あ、異能者は学生が多いから、ナンバーが高位な程、割引してくれるとか……!
「えっと……10っス……」
「ジュースくんか。可愛らしい名前だね。僕のコードネームはキキョウ。白い花の異能を持つ」
待て、待て、待て。
10って答えたらジュースって名前にされたぞ……。
それに、いきなり異能の話ってなんなんだ……?
「それにしても随分若いね、中学生? まあ、自信があるなら僕は何も問題ないよ。君を受け入れよう」
もしかしてこの人……俺の名前を最初から知っていて、わざと知らないフリで接しているんじゃないか……?
一桁台ではないけど、中学生でNo.10って結構知ってる人は知ってるらしいしな……。
その上で、俺の力を認めてくれているのか……?
「そうっス。中学生。ジュースっス。よろしくお願いします!! で……花を買いたいんですけど……」
この人はいい人……だけど早く帰らなきゃだしな……。
早く要件を済ませて、また改めて来よう。
「ああ、ごめんごめん。そうだね。『花を買う』だね。そしたら、この書類をB番台の路地裏にある、一番上、右から三番目のロッカーに入れてきてくれ。報酬は五万円! 上も弾んでくれるよね〜!」
「え……こん中に花があるんですか……?」
俺が書類を開封しようとした時、同じく三回ノックが鳴り響き、「開けます」と言って、ガタイのいい如何にも強面な男が部屋に入ってきた。
「え……あの……」
俺が困惑していると、男もまた困惑した顔を見せる。
「おい、どんな状況だ。なんでガキがいるんだ……」
「あれれ? 僕も今日来るのは一人って聞いてたんだけどな。もしかしたら上の伝達ミスかも。悪いけど、花は一つしか持って来ていないんだ。そんな訳で、報酬を受け取れるのも一人だけって訳なんだけど……」
すると、白髪の男、キキョウは、突如異能を使用。
無数の白い花を地面から生やし、俺の付近のソファやデスクを、全て端に寄せてしまった。
「僕は仲介人として仕事を任せられる方に任せたい。言いたいこと、分かるよね?」
その瞬間、大柄の男は俺に掴み掛かってくる。
「な、なんだよ……!!」
「お前もガキとは言え、この道の人間だろ!! なら、異能の力で相手を黙らせるのみだ!!」
そう言うと、男は俺を宙に浮かべた。
「お前をこのまま地面に叩き付ける……! ガキだからって容赦はしない! 俺も金には困ってるんだよ!」
俺は、男の異能で宙に浮かばされながら、先ほどキキョウの話していた内容を思い返していた。
もしかしたら、これはキキョウからのヘルプなのではないかと。
俺の力を認めた上で、俺の力を確かめたいのでは……。
普通に異能も使ってたし、コイツも使ってる。
異能行使された後に自己防衛の為の異能の使用なら、正当防衛として対処される。
そうか……キキョウは、俺を求めてくれているのか。
バコン!!
俺は、男の異能により、天井から地面に落とされた。
「クハッ、どうだ……! この歳でも、まだまだこれだけの異能を扱える! 見ただろ、アンタも……!!」
「なんだ、デカい図体の割にショボい異能だな」
目が血走り、興奮している男に対し、俺は無傷で立ち上がった。
「な……どんな異能ならアレを無傷で……」
「俺の異能は『パワー』。身体強化の異能だ」
そして、そのまま男を殴り飛ばし、奥の部屋まで突き飛ばし、男はそのまま気絶していた。
「大体分かった。証明もしたぜ。アンタの狙いはなんだよ、キキョウ」
「ふふ、待っていた人は君ではなかったみたいだけど、面白い展開になってきたみたいだ……」
「は……?」
「改めてようこそ、ジュースくん。君の力が必要だ」
「やっぱりな! 俺の力ならアンタの力になれる!」
「その書類の中には、『異能力を複数持つか、無能力者に異能を授けるドラッグ』が入っている」
な……花じゃないのか……?
てか、それって女子が噂してたヤツだよな……。
それじゃ……この人が裏社会の人……?
親父の……敵……!
「十文字十蔵。中学生にしてNo.10の天才。そして、異能探偵局局長を父に持つ」
「ああ……最初から分かってたんだろ……! 何が目的だよ……!」
「いや、君の異能を見るまでは知らなかったさ。でも考えてごらん? 君は天才なんだよ。なのに、君の父親は君のことを認めていないよね? 探偵局に時間を使い、君との時間は過去にどれ程あったかな……」
俺は、キキョウの言葉を聞き込んでしまっていた。
「このドラッグは確かに違法な物で、裏取引しかされていない。でも考えてみて欲しい。異能のない者に異能を授ける。それも人体被害無しだ。君の活躍、このドラッグが流通すれば、君の実力はお父さん……いや、この世界が認めると思うんだ!」
「俺の力が……世界に認められる……」
当時の俺は単純だったと思う。
二宮二乃と言う女に殴られるまで、異能を認めて欲しいことだけが俺の望みだった。
そして俺は、ジュースとして裏社会で暗躍を始めた。