「ゆき、結婚しよう!」
メグは唐突にそう言った。
「へ?」
僕の両手を掴む手に力を入れ、メグはまたこう言った。
「結婚するぞと言っているんだ」
「え、、僕?」
「ああ」
「僕男だし、、」
「性別は関係なかろう」
メグは間も開けず言い返した。
まて、どうゆう事だ?結婚、、?
「、誰と?」
「俺と」
俺、?
「、、なんで?」
「好きだからだ」
「え、、?」
知らなかった、というか初めて聞いた。
「む、無理なんじゃ、」
「ゆきは確か今年で17だろ?来年には結婚できるじゃないか」
「そうゆう事じゃなくて、」
「何が問題なんだ?」
何がって、、、。僕の意見はどうなるのだろう。
「結婚って、付き合ってからするものじゃ、」
「そうか。なら、結婚を前提に付き合ってくれ」
メグは、真剣な顔をしていた。、この人、本気だ。
メグは僕の返事を待っているようだった。
僕は数秒間をあけ、口を開いた。
「ごめん、それはできない」
ズキっと、胸の奥が痛む気がした。
「何故だ、俺の事が嫌いなのか?」
「違う、その、事情があって」
「事情?俺の他に好きな奴がいるのか?」
あれ、なんかおかしくなってないか、
「いないけど、」
「なら、良いじゃないか」
「そうじゃなくて、僕、ここに来れるのは今年で最後だから」
「ならば俺の家に住み込みで働けばいいだろう」
多分、大学受験とか何かだと解釈されたのだろう。
話が噛み合わない。
「ごめん、それもできない」
「何故だ」
「…」
僕は軽く微笑んで見せた。
メグは何故振られたのか分からない、と言う様子だった。振られたという事に気づいているのかは分からないが。
風が吹き、ザアザアと木々が揺れる。神社は木々に覆われていた。その木々は強い太陽の日差しから僕らを守ってくれていた。
「、、いつから、?その、そう思うようになったのは」
僕は聞いてみた。
「初めて会った時だ。一目惚れだった」
一目惚れって本当にあるものだったのか。
「初めて君を見た時、俺はびっくりしたよ。こんなに綺麗な人が居たなんて」
っ…
「そして運命だと思った。1年たってようやく気持ちの整理がついた。あったら言うって決めていたんだ」
あったら言うって、普通こんな急に言うだろうか。会った瞬間言ってたし。
「好きだ」
「、、うん」
なんか無性に恥ずかしくなってきた。僕は両手で顔を覆った。
「なんだ?照れているのか?可愛いな」
「…」
、、ダメだこの人、、。
「何でこんな、、前はもっとムスッとしてたじゃん、、」
「あぁ、あれはただ緊張してただけだ」
メグに会ったのは、僕が散歩をしていた時だった。道に迷っていた所に声を掛けてくれたのだ。でも、その時はびっくりした。メグは紺色の袴を着ていて刀を持っていたからだ。
「君、名前は」
「及川悠己です」
「、、そうか。敬語は使わなくていい。俺はめぐ、、廻(めぐる)」だ。」
ーーと言った感じだ。メグと呼んでいるのなんとなくだ。
それから僕とメグはよく話すようになった。
メグは僕にいろんな話をしてくれた。だから僕もメグに沢山話をしていた。
「まあ、結婚の話はゆきが帰る前に答えてくれればそれで良い」
「、、分かった。」
帰る前、か。短か。はっきり言えない僕が悪い。
「改めてだが、久しぶりだな。会えて嬉しい」
「久しぶり」
それから僕とメグはお互いの近況報告?などをした。やっぱりメグは面白い。一緒に居ると気が楽な気がした。
告白されたはずなのに、こんなに軽いのは何故なのだろうか。
話もひと段落つき、なんとなく森の奥を見てみるた。すると、キツネがネズミを咥えて歩いている姿が見えた。
、あのネズミはもう死んでいるのだろう。
「メグはさ、僕が死んだらどう思う?」
僕はそのキツネに視線を落としたまま問いかけた。
「俺は非現実的な事は考えない」
「でも、あるかもしれないじゃん。不慮の事故とか、絶対に治せない病気、とか」
僕は淡々と、そう言った。
「、、もしそんな事があったら俺は自分の不甲斐なさを呪うよ。それに、ゆきが死ぬなんて考えられない」
「、、そっか」
「でも俺は、絶対にゆきを死なせたりしない。事故なら、傍に居れば防げる。病気なら、きっと何か手があるはずだ」
死なせたりしない、か。僕が助かる方法なんてあるはずないのに。
僕は完全に諦め切っていた。もう無理だって、駄目だって、未来はないって思込んでいた。
きっとメグが僕の立場にいれば、諦めずに生きる方法を探していただろう。でも僕は、何もせずにただ時が過ぎるのを待っていた。死ぬことを受け入れていた。当然だと思ってしまっていた。
死に、恐怖さえ感じていなかった。
「メグ、ごめん」
「何故謝る」
「メグの気持ちには答えられない」
「…分かった」
「え」
メグは案外すんなりと受け入れた。
「だが、訳を聞かせてくれ」
「…」
やっぱりそう来るか。
辺りはオレンジ色に染っていた。いつもならもう帰る時間だ。
メグと目があった。
「さっきも言ったけど、ここに居られるのは今回が、最後だから」
僕は静かにそう言った。
「もう二度と来ないと言っているような言い方だな、」
「本当にそうだから」
風が前髪を揺らした。
「、、何故だ」
「知らない方が良い」
「教えてくれ」
メグは真剣な顔つきで僕を見ていた。
でも僕は何も言わず、首を振った。
「ゆき、?」
「…」
「なら、俺から会いに行く」
「え?」
「金はまあまああるし、神社は父に預ける」
「…」
僕は黙り込んでしまった。
「、、ゆきに会えなくなるのは嫌だ」
「…」
僕は何も言えなかった。嫌だと言われても、どうしようもないのだ。会いに来てくれたって、結局はお別れをするだけなのに。
「俺の傍に居てくれ、俺は、来年も、再来年も、ゆきに会うって決めていた」
そんな、勝手に。
来年には、僕は死んでしまうのに。もう今年で最後なのに。
「君が帰ってしまってからも、俺はずっとゆきのことを考えていた。今日がずっと、待ち遠しかった」
それ以上言わないでくれ。そう言われても、僕はどうする事もできないから。
、、失敗だったかもしれない。会いになんて来なければ、メグにこんな思いさせる事なんてなかったのに。
何で思いつかなかったんだろう。
辺りは暗くなり始めていた。
「ゆき、俺の気持ちは変わらない。だから、振り向いてくれるまで何度だって言う」
「……」
「何を隠してるんだ。教えてくれ、俺もゆきの力になりたい」
「…無理だ」
「無理なんかじゃない」
「…何も知らないくせに」
「そう言えるのは知らないからだ。」
「…」
「教えてくれ、どんな事だって受け入れる」
、メグには無理だろう。
だけど、、言ったら、助けてくれるのだろうか。
「、、教えてくれたら、すごい物をくれてやろう」
「…いらな」
「なんだと、本当にすごいんだぞ」
「嘘だ」
「なっ、あれは神様のご利益が………」
メグは必死に弁明した。その姿がなんだか可笑しくて、僕は笑ってしまった。
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情報・・めぐる君は21歳です。神社の神官として働いているので神を信じています。
めぐる重い、なんちゃってwww