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「で、行っちゃったわけだけど、パフィに話ってなんだろうね?」
「さぁなぁ」
「やっぱり料理の事じゃないですか?」
薄着だけだと良くないと思い、足のパーツといつもの巨大フォークだけ装着して出ていったパフィの話で、部屋の中は盛り上がっていた。
「なんてゆーか、服を着ないで靴だけ履いていったみたいだった」
「そう言うと卑猥な気が……」
「クォンは普通だと思ったけどなぁ」
いつもの雰囲気で話しているが、ネフテリアは優雅にミューゼの膝枕で寛いでいる。それを見て羨ましくなったクォンも、真似をしてムームーに膝枕をしてもらっている。
そうなると、残ったアリエッタも当然真似をして、ピアーニャに膝枕をしている。
(なんか、ダラクしたハナシアイだなあ)
(はぁん。ミューゼの太腿気持ちいい)
(ムームーさまの美脚っ! 生足っ!)
(いいなぁみゅーぜの膝枕……いやいや、ぴあーにゃをボッチにしちゃいけない!)
ネフテリアとクォンは凄く幸せそうである。
アリエッタも少しだけ不満そうだが、可愛い妹分の為に我慢している。実はネフテリアはその視線に気づいている。しかし、今はまだどうにかするつもりは無い。
「ところでクォン、お風呂とかってどうするの?」
「シャワールームがありますよ。一応汚れる仕事なので」
「しゃわー? 何かお風呂っぽいのがあるのね。案内お願いしていいかしら」
「わかりました。……ムームーさま?」
この提案に問題がありそうなムームー。しかしベテラン男の娘なので、こんな事で慌てたりはしない。
「途中でパフィが戻ってくると困るから、交代でいこうか」
「そうですね! では先に、お姫様とミューゼさんとアリエッタちゃんを案内しますね」
ムームーの正体を知っている者を同行させれば、最悪の事態は避けられる。残ったのは、事情を知っていて見た目3歳児のピアーニャなので、色々な意味で問題が無い。
(今日は2回シャワーしよう)
クォンの思惑の方が、ある意味危険かもしれない。
指名された3人とクォンは、楽しそうにしながら部屋を出た。
残ったムームーとピアーニャは、4人の気配が遠ざかると口を開いた。
「ずいぶんレイセイにタイショしたな」
「慣れてますし、クォンも頼りになるので」
ムームーは、ルイルイには決して逆らえない。例え周りに人がいなくても、正体に気付かれる可能性のある単語を口にするような真似は、絶対にしないのだ。
「ほぁーなるほどなのよ。これは綺麗に焼けるのよ」
「そうでしょうそうでしょう。自慢のオーブンですから」
パフィが見ているのはオーブン。サイロバクラムのそれは、置いた食べ物を透明の容器が覆い、その中で食べ物を宙に浮かせてゆっくり回転、熱を発する容器が全方位からムラなく食べ物に熱を加えるという物。
「これもエーテルを使った技術なのよ?」
「その通りです。流石ご理解が早い」
「でもなんで私だけに見せたのよ?」
「先程も申したように、子供や王女様をキッチンに入れるのは危なかったのもありますが、パフィさんのラスィーテというリージョンが、料理に特化していると聞き、興味があったのです」
今いる場所は、ソルジャーギアのキッチン。パフィのリージョンの話を聞き、以前から興味があった料理人が、今こそチャンスと思い、パフィに接触してきたのである。
「ウベルさんはラスィーテに行ってみたいのよ?」
「ええ、自分の知らない料理があるのかもと思うと、ワクワクしますね」
「総長に言っておくのよ。きっと満足してもらえるのよ」
パフィに接触してきたのはウベルという料理人の男性。彼は料理が好きで、ソルジャーギア隊員ではないが、食事会の為に全ての料理を作り、キッチンで料理人達を指揮した人物である。
異界の料理にはもちろん、料理方法にも興味津々の様子。
「えーっと、何か作れば良いのよ?」
「はい、是非」
「うーん、この四角の食材は初めてなのよ。少し待っててなのよ」
「もちろん。貴女にとって、このサイロバクラム自体が初めてですからね。承知しています」
そして次の瞬間、笑顔だったウベルは目を見開いた。
パフィが立方体の葉を宙で高速回転させ、包丁を添えるだけで薄切りにしていったのだ。
「あ、ちゃんと薄く切れはするのよ」
サイロバクラムの物質は四角だが、切れば長方形にもなるし、どうしても角はあるが、薄くする事も出来る。しかし、薄いからといって曲がる事は無い。
「でもこれなら、食べやすい炒め物とかは簡単なのよー」
薄い板状になった野菜を、今度は細く切り、一口サイズの長さに刻んでいく。全て空中で、パフィの手によって行われていく。
ウベルは目だけでなく、口も大きく開いていた。
後ろの様子には気づかず、パフィはさらに調理を進めていく。
「お肉は普通でやりやすいのよ」
とか言いながら、小さく切った肉を皿の上に置き、味付け用の調味料をかける。普通なら下に溜まるだけだが、パフィ達ラスィーテ人ならば、液体の形も意のままである。まるでゼリーのように肉をコーティングしてしまった。しかも目に見える勢いで、肉に吸収されていく。
後ろのウベルの顎が、今にも落ちそうである。
仕上げの焼き作業をする為、そんなウベルにコンロに火を着けてもらった。その時、顎の心配をしたお陰か、なんとか口を閉じる事が出来た。
コンロもエーテルによって制御されるので、スイッチひとつで簡単に火が点く。
「これは便利なのよー」
「いやいや、貴女の方が便利っていうか、なんですかその力は!」
フライパンに向かって、刻んだ食材が宙に浮いて飛び込んでいく。もちろんパフィが操っている。ラスィーテ人の食材を操る力は、初めて見る人々を絶対に驚かせるのだ。
そして簡単な炒め物なので、すぐに完成した。
「へいお待ちなのよ」
「ぜんぜん待ってませんけど!?」
この間、ウベルの調理時間の10分の1未満である。
「うまっ! なにこれ!?」
ラスィーテ人の調理は、工程、味、時間、どれも他のリージョンからしてみれば非常識なのだ。さらにパフィは、最近アリエッタの木から特殊な葉を採取出来るので、新しい技術を開発中である。
「ふぅ、美味しかったです……」
美味しいと言いつつも、ウベルは何やら不満そうだ。
向上心でもあるのだろうと、パフィは勝手に納得した。
その後しばらく、ラスィーテとサイロバクラムの食事の話で盛り上がった。話し込んだ所で、料理以外の話も出る。
「ところで話は変わりますが、パフィさんは髪型を変えたりはしないのですか?」
「髪型なのよ? アリエッタのならよく変えるけど、自分のはモコモコするから、あまりいじってないのよ」
「たしかに、凄い髪ですよね、なんか浮いてるし」
「普通なのよ。サイロバクラム人も浮いてないのよ。それが不思議なのよ」
ラスィーテ人以外からしてみると、パフィの浮かんだ髪の毛は凄く目立つ。アリエッタの影響でオシャレし始めてからは、紙を巻いて浮かぶキャンディになっていたり、パーツを付けて身体から離れた遠隔操作兵器みたいになっていたりと、妙に工夫を凝らしているので更に目立つ。
「あのアリエッタって子には、髪型セットしてあげてるんですねぇ。ツインテールとかやっちゃいました?」
「もちろんなのよ」
「いいですねぇ、可愛らしいでしょうね」
「あげないのよー」
「ふふふ、残念です」
炒め物を食べた時の不機嫌さはどこへやら。楽しそうに話し終えて、パフィとウベルは別れた。
こちらはシャワールーム。それほど広くないので、ミューゼ、ネフテリア、アリエッタの3人だけで体を洗う事になっていた。
中では当然のように、アリエッタにおなじみのやわらか天国が開催されていた。
「ふえええ!」
「ほらほら大人しくしようねー」
「相変わらずアリエッタちゃんスベスベモチモチね。触ってるだけで幸せだわ」
(楽しそう~)
クォンは世話をする為にシャワールーム前で待機中。シャワールームを覗く輩がいる可能性もあるので、自ら見張りを名乗り出たのだ。しかし、中から聞こえる声を聞いて、少し悶々としていたりする。
「あんっ、こーらーアリエッタちゃん」
「ご、ごめさっ」
「アリエッタったら慌てちゃってー、かーわいー」
「そんな事する子はー、こうだっ」
「ひゅむぅっ! んむーっ!」
(何やってんの!? 中で何がどうなってるの!?)
シャワールームは寛ぐ場所ではないので、狭い。そんな中で2人の大人が1人の子供をもみくちゃにしているようだ。
クォンは少しだけ離れて見張りをしているので、中の様子が分かり難い。
(後学の為に覗きたい……でも近くの反応は男かもしれないし。あーもう早く帰れっ)
動けない理由は、近くの生体反応にあった。もし油断したら、その隙にお姫様が覗き被害に遭ってしまうかもしれない。外交的にそれだけは避けたいのだ。
「はひゃっ! ちょっとテリア様!」
「よいではないかーよいではないかー」
「ここ狭いんですから止めてくださいよっ!」
(いやアンタら何やってんの!?)
生体反応が隠れている方向に睨みをきかせたいが、中からの会話が気になって集中出来ない。
「ほら見てこの先っぽ」
「ちょっと出てますね」
(何が!?)
「ほらアリエッタちゃんも」
「はわぁ……」
(いいの!? アリエッタちゃんに見せてもいいものなの!? 本当に中どうなってるの!?)
クォンはすぐにでも突撃したかった。覗きの可能性がそれを邪魔する。
しばらくの間、中から聞こえる謎の会話による自分の葛藤と戦いながら、少し離れた場所から動こうとしない生体反応を睨んでいたら、ようやくシャワールームから3人が出てきた。
「あれ? なんでそんなにグッタリしてるの?」
「くぉん、だいじょうぶ?」
「あぁ、うん、大丈夫よアリエッタちゃん。何でもないから……」
結局シャワー中にどんな事が行われていたか、聞く勇気が無かったクォンであった。