テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
最初の王カイの死から、数百年。
鹿児島の本土では、権力を巡る凄まじい内乱【倭国大戦(わこくたいせん)】が勃発していた。
カイの血脈と上野原の壺を受け継ぐ、鹿児島の国【台与のクニ】は、この大戦の渦に巻き込まれ、敵対勢力による容赦のない大量殺戮に晒されていた。
死臭と怨嗟の嵐がクニを覆い、滅亡の危機に瀕した「とよのクニ」の守護者たちは、かつて初代カイが残した伝説を頼りに、南の海の巫女アギへ必死の思いで助けを求める。
「アギ様、上野原の壺に神の水を! 我らに再び、あの真珠色の守護バリアを……!」
しかし、その悲痛な叫びが双子壺を通じて与論島のアギに届いたとき、南の海もまた、冷徹な戦火に包まれていた。
南から圧倒的な軍事力で侵攻してきたのは、周辺の島々を武力で統合せんとする【琉球王国】の軍勢であった。
与論島は琉球軍の圧倒的な兵力によって包囲され、激しい戦場と化していた。
アギは自らの不老不死の力をもってしても、押し寄せる無数の軍勢から島民を完全に護り抜くことはできず、本土の「とよのクニ」へ向けて丸木舟を出すことなど、物理的に不可能な状況に追い込まれていた。
「すまない……台与。みんなを護ることができない……!」
遠い北の海で、カイの愛した子孫たちが虐殺されていく気配を肌で感じながらも、自分は一歩も与論島から動けない。
アギは血の涙を流すような激しい悔恨と絶望に打ちのめされる。
やがて、圧倒的な武力の前に与論島は陥落し、【琉球王国の直轄領】となる。
島を支配した琉球の王たちは、不老不死の力を持つアギを「災いをもたらす異形の化け物」と見做した。
アギは重い鎖で縛られて琉球王国の地下の牢獄に、数百年もの間、光の届かない場所に幽閉された。
さらに最悪なことに、二つの壺の契りを繋ぐ中心地であった【渥美大島の神殿】は、琉球軍の手によって無残に破壊され、跡形もなく崩れ去ってしまった。
島々の霊脈を繋いでいた拠点が物理的に破壊されたことで、初代カイとアギが完成させた「真珠色の防衛バリア」のシステムは完全に沈黙。
本土の上野原の神殿と、与論島の神殿は共鳴できなくなり、鹿児島を護る術は永遠に失われた。
防衛システムが崩壊した、鹿児島は、ここから数百年に及ぶ暗黒の【混沌の時代】へと突入する。
バリアを失った本土や諸島には、人間の戦争だけでなく、その流血に引き寄せられた「怨霊や悪鬼」が我が物顔で跋扈し始め、民はただ怯えて生きるしかなくなった。
アギは暗い牢獄の底で、神殿を壊され、首飾りを鈍く曇らせたまま、ただ一人で鹿児島の崩壊を嘆き、孤独と絶望の淵につく。
──もう二度と、あの翡翠色の美しい海と、平和な世界は戻らないのか。
49